IT企業役員でもあるお笑い芸人の厚切りジェイソン氏は、米国流の労働観から日本人サラリーマンを鋭く批判することでも知られる。そんな彼が、4月13日放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合)でも盛んに持論を展開していた。
番組は、退職勧奨に遭って大手製紙会社を今年やむなく退職した50代の男性を紹介。妻と中学生の子ども1人を抱えるこの男性は、退職を拒み続けたところ、「人材会社で自分の働く先を見つけることが、あなたの仕事」と言い渡されたという。
「日本の社員が守られ過ぎている」と苦言呈す
会社は6年連続の黒字、男性には青天の霹靂だった。しかし会社は「紙の需要が減っているので事業構造を変える」と決断し、男性が所属する事業部を縮小対象とした。
いま、こうしたリストラが全国に多種多様な業種で頻発しているという。背景には、転職支援により1人あたり60万円(決まらなくても10万円)が企業に支給される「労働移動支援助成金」がある。
NHKが入手した戦力外社員のリストアップ資料には、40~50代の働き盛りの中高年のほか、病気になった人や「迫力がない」などの理由も記載されていた。VTRを見たジェイソン氏は、こう感想を述べた。
「一般的に言うと、日本の社員が守られ過ぎていると思いますね」
確かに病気などを理由にリストラされるのはおかしいし、「アメリカでも違法」と苦言を呈したが、その一方で、雇用が守られすぎているから日本企業は環境変化に応じた機動的な経営ができず、労働者も自力で新しい環境に適応すべきと主張した。
「その会社が今業績がよくても、将来は時代が変わってるわけなので、正しい投資のやり方とかお金とか戦略を、自分で練る自由が必要だと思いますね」
「この会社で何でもやる」ゼネラリストも槍玉に
またジェイソン氏は「この会社で何でもやるために会社にいるだけ」のゼネラリストの存在に疑問を呈し、他社でも通用する特別なスキルを身につければ「給料が下がることはそんなにないと思いますね」と指摘した。
だが現実は厳しい。助成金を使って転職した人たちの給与は、平均で7割程度下がっている。単に「ノースキルで会社にしがみついていた人たちが、ねらい打ちされただけ」といえば、そうとも言えるのだが……。
中央大学の宮本太郎教授は、ジェイソン氏とは逆にセーフティネットを厚くすべきという考え方だ。日本は公共職業訓練の予算や失業保険のカバー率などが非常に脆弱で、仕事を離れたときのサポートが弱いと説いた上で、こう指摘する。
「つまり下を見ると断崖絶壁で、もうとてもじゃないけど身がすくんで、ジェイソンさんがおっしゃるような挑戦ができないわけですね」
ジェイソン氏は「セーフティネットがなくても、自分からやろうと思えばできるじゃないですか」と食い下がるが、宮本教授は「それは、ジェイソンさんならできるかもしれないですけど」とし、サーカスの綱渡りに例えて「ちゃんとセーフティネットがあってこそ、綱の上で大胆な演技ができるわけです」と言い切った。
正解は2人の主張の中間にありそうだけど
ジェイソン氏は「セーフティネットに何でも依存する前に、いろんなスキルを身に付ければ」と粘り強く反論するが、宮本教授は「アメリカの方がセーフティネットは厚くなってると思います」と柔らかくかわしていた。
番組では軽い言い合いのようになっていたが、正解は2人の主張の中間にあるのだろう。確かに安全柵がなければ大胆になれないが、いくら安全柵があっても何の訓練もしていなければ、できることなどない。ジェイソン氏は「会社に頼り切りの労働者に全く問題がない」という見方には納得いかないのだろう。
すべてのケースをカバーできるセーフティネットなどありえない。宮本教授の指摘した「今の仕事にしがみつかざるを得ないということになっている」状況は、個人でも回避する努力をすべきだ。若いうちに「転職」という選択肢を意識することは、特に大事である気がした。(ライター:okei)
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