2016年04月18日 11:21 弁護士ドットコム
春風が心地よい4月。街中ではまっさらなスーツに身を包んだ新社会人の姿が見られる。そんな中、インターネット上の掲示板では早速「2016卒新入社員だけどもう会社を辞めたい人たち」というスレッドが立ち、コメントが続々と書き込まれている。
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「大手入れたけど辞めたい 軍隊のような泊まり込み研修やってられない 転職のことばかり考えてる」「吐き気が止まらないから明日明後日休んで精神科行って退職しようと思う。 申し訳なさすぎるがこのままだと自殺してしまいそうなので」などなど、悲痛な書き込みが少なくない。
あまりにも辛いなら、心身を病む前に辞めるのも1つの方法かもしれない。ただ、気になるのは、入社してわずか3日や1週間ほどで会社を辞めることが実際にできるかどうかだ。就業規則などには通常、「退社の2週間前に申し出ること」などの規定があるが、たとえば入社後3日で辞めるとすると、そのような規定を破ることになってしまう。果たして、そんなことが許されるのだろうか。嶋崎量弁護士に聞いた。
「結論からいえば、入社後3日や1週間で辞めたいと申し出たとしても、認められます。
労働者には、職業選択の自由が憲法で保障されています。退職する自由がなければ、別の職業を選択することはできません。ですから、労働者はいつでも自由に退職できるのです。
民法627条1項は、『当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる』としています。退職の申し出(=『解約の申し入れ』)はいつでもできるということが、まず大原則です」
嶋崎弁護士はこのように述べる。
「ただし、退職を申し出たその日にすぐ辞められるわけではありません。民法627条1項の規定は、雇用契約の終了時期については、『その解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する』としています。つまり、退職の申し出はいつでもできますが、実際に契約が終了するのはそれから2週間経過後ということです。
就業規則で『退社の2週間前に申し出ること』などの規定があることが多いのは、これに沿って規定されているからです」
ということは、退職を申し出ても、それから2週間は働かなければならないのだろうか。
「その点は、辞めようとしている人が悩まれる点でしょう。ですが実際は、会社に体調不良の理由を伝えた上で(文書にするなどしてきちんと形に残しましょう)、『欠勤』(無給のお休み)すれば足ります。心を病むほどに酷い職場環境なのに、2週間働き続けなければならないと悩む必要はないのです。
また、労働基準法15条3項では、『前項の規定(注:労働条件の明示に関する規定)によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる』とされています。酷い職場環境の場合、通常は、この条文を使って契約自体も直ちに解除し終了させられる場合が多いでしょう。この点も覚えておいて下さい」
「私が把握する限りでは、早期離職する労働者のケースは、入社前に説明を受けた労働契約と実際の労働条件が違っていた(いわゆる『求人詐欺』問題)、『ブラック研修』が行われたなど、働き続けられない理由が使用者側にある場合です。新入社員からのこういった相談は、色々な労働者側の団体にも寄せられています。
しかし、入った会社が『ブラック企業』だと気がついても、短期離職した場合に、再就職などで社会的不利益を受ける可能性考えて、なかなか会社を辞められず、心身の不調を悪化させる方も沢山いるのです」
社会に飛び出した新入社員たちに対して、嶋崎弁護士は「辛いと思ったら、専門家に相談に行け」とアドバイスする。
「専門家とは、企業内・企業外問わず労働者の立場で相談に乗ってくれる労働組合(会社内に労働組合がなくても、一人でも入れる労働組合は沢山あります)や、労働者側の立場で活動する弁護士のことです。無料の電話相談をやっている団体もあります。
専門家への相談により、会社への改善申入であったり、退職したい場合の具体的な退職の仕方など、ケースごとに異なる具体的な対応について、アドバイスをもらえますし、一人で抱え込みがちな精神的不安も緩和してくれるでしょう。労働トラブルに対しては、最終的には具体的なケースを踏まえて行わないと、正確なアドバイスは出来ないですし、ぜひ直接相談をしてみることをお勧めします。
私自身、社会生活上で接する様々な業種の労働者に対し『学生気分が抜けてないのでは?』と、不満を感じたことはあります。ですが、こういった社会人としての自覚に欠ける労働者は、使用者からの労務管理上の指導、先輩・同僚からの指導で改善しますし、改善しない労働者は自然淘汰されるでしょう。
むしろ、私が強調したいのは、『ブラック企業』と称される会社の違法な労務管理によって、働くことが不可能な状況にまで追い込まれたり、場合によっては命まで落とす労働者が多数存在する現実です。
自分の会社が『ブラック企業』だとも、自分が使い潰されるとも、全く思わずに被害に遭う方も多数います。これから社会人として働いていこうとする皆さんに対して、私からは、以下の言葉を贈りたいと思います。
『会社のいうことは全てではない』『辛いと感じたら早めに専門家に相談を』『身を守るための証拠を残そう』」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
嶋崎 量(しまさき・ちから)弁護士
日本労働弁護団事務局長、ブラック企業対策プロジェクト事務局長。共著に「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。
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事務所名:神奈川総合法律事務所
事務所URL:http://www.kanasou-law.com/