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90年代トレンディードラマ風の演出目立つ『ラブソング』 歌唱シーンの魅力で評価を挽回できるか?

2016年04月18日 00:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ラヴソング』

 元プロミュージシャンの男と、コミュニケーションが苦手だが歌の才能を持った女性が出会い、音楽で心を通わしていく。これまでの月9ドラマでの福山雅治の役どころといえば、『ひとつ屋根の下』では研修医、初主演作の『いつかまた逢える』では編集マン、『パーフェクトラブ!』では歯科医を演じ、『ガリレオ』では天才物理学者。どれもなかなかのハマり役ではあったが、今回の『ラブソング』で演じる、元ミュージシャンで現在は臨床心理士をしている男というのは、彼の本業である音楽の技を披露しつつ、役者として演じ慣れてきている賢そうな一面も引き出すだけに、とてもしっくりくるものがある。


参考:月9『ラヴソング』に大抜擢、藤原さくらは“歌う女優”として大ブレイクなるか?


 とはいえ、3年ぶりに福山雅治が月9主演と、早い段階から注目されてきた作品が、初回平均10.6%という微妙な視聴率になってしまったことには物足りなさが残る。これは昨年夏に放送された『恋仲』に次ぐ低視聴率の第1話であり、全話平均が月9歴代ワーストとなってしまった前回の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』からの影響も少なからず感じてしまう。


 放送前には、相手役に選ばれたのが福山より27歳も歳下で、同じ事務所に所属する演技未経験のシンガーソングライター・藤原さくらということに疑問の声が上がっていた。それでも2001年に、当時36歳だった高橋克典演じる元音楽プロデューサーが、当時18歳だった中島美嘉の音楽の才能を見出すというフジテレビ系ドラマ『傷だらけのラブソング』があったことを考えると、同じような設定ならば充分納得できるのではあるが、ここにラブストーリーの要素を入れてしまうとまたちょっと話が変わってしまう。


 いざ放送が始まると、冒頭からトレンディードラマ風味のベッドシーン(いわゆる朝チュン)に始まり、福山自ら「臨床心理士でヒモ」と言い切ってしまう場面もある。ヒロインが酒屋のレジ先に置かれたラジカセから聞こえるラジオで過去を回想したり、その回想シーンも2011年なのに昭和風情ただよう駅のホームでの別れの場面だったり、教室でCDプレーヤーを使って音楽を聴いている様だったりと、何だか21世紀のドラマを見ている気分になれない。


 また、宣伝では「コミュニケーションが苦手な女性」としか言われていなかったヒロインが、実は吃音症だということがわかると、途端にデジャブが襲ってくる。都合のいいことに、福山が転がり込んだ先の元音楽仲間の水野美紀が言語聴覚士で、音楽療法を用いようと提案するわけだが、歌で吃音症を克服するという描写はひどくありふれている。緒方明の『独立少年合唱団』でも伊藤淳史が合唱をすることで自信を取り戻す吃音症の少年を演じていたし、昨秋に公開された『心が叫びたがってるんだ。』のヒロインも、歌うことで自分を表現する術を見つける。ここまで「オリジナル脚本」であることを強調していた作品にもかかわらず、蓋を開けてみれば90年代のトレンディードラマに回帰して、しかも最近の映画と似通った題材というのはかなりの痛手である。


 ただ、悪いことばかりではない。今回チーフディレクターを務めている西谷弘は『月の恋人』以来の月9復帰となり、福山とのコンビでは『ガリレオ』シリーズの第1期と映画2作を手がけている。とくに『真夏の方程式』ではテレビドラマの劇場版というレッテルを乗り越えて、映画ファンから高い評価を得た実力のある演出家である。随所に長回しの演出をかけてみたり、手持ちのカメラで登場人物の心理に迫るような見せ方をしたりと、あえてドラマらしい演出を避けているかのように思える。


 とくに第1話のクライマックスで、ヒロインが思い出の曲であるというヘディ・ウエストの『500マイル』を歌うシーンではその演出が冴え渡っており、歌い始めるヒロインに徐々にキャメラが近づき、ゆっくりと引いていきながら福山のギターを手前に配置して奥に藤原を配置する。そこから再びヒロインに寄っていくのを、時折カットを割りながらじっくりと見せてくれる。映画でも西谷とコンビを組んでいる山本正明が務める編集もなかなか大胆である。


 そのシーンでは涙ぐみながら歌うため、藤原の歌声をはっきりと聴くことができず(エンディング曲は藤原が歌っているけれど)、福山雅治のギターも軽く合わせているだけに留まり、このふたつの魅力が発揮されるのは次回以降へお預けとなるわけだ。いずれにしても、連続ドラマの第1話に必要な引き込みは少し弱いとは思うが、作品として評価を下すには第2話以降の動向を見てからにしても良さそうだ。


 個人的に第1話で一番気に入ったのは、エンディングクレジット中の映像で、藤原が乗るヘルメットのシールド越しに桜並木がモノクロームで映る主観ショット。そのシールドを外すとたちまち視界がカラフルになり、満開の桜が綺麗に映し出される。第1話の予告のナレーションで言っていた「二人の出会いが、モノクロームだった日常を色付けていく」というフレーズを、こういう見せ方で表現してきたことには、思わずにやりとしてしまうのだ。(久保田和馬)