2016年04月17日 10:12 弁護士ドットコム
無料通信アプリ大手「LINE(ライン)」が運営するスマートフォン用ゲームで使う一部のアイテムが資金決済法で規制されるゲーム上の「通貨」に当たるのに、これを意図的に隠して資金決済法に基づく供託を免れていた旨が報じられた。一方で、LINE側は「そのような事実は一切ございません」と否定している。
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資金決済法では、あらかじめ代金を支払い、商品やサービスの決済に使うものを「前払式支払手段」と規定し、一定の場合は「発行保証金」を法務局に供託するか、銀行保証を付ける必要がある。報道では、LINEのゲーム内アイテム「宝箱の鍵」が、「前払式支払手段」にあたる可能性が社内で指摘されていたのに、これを法務局に届け出ず、数十億円の供託を免れていたとされている。
一方で、LINEは、関東財務局から立入検査を受けていることは事実と認めたが、「(資金決済法)に基づく規制の適用を意図的に免れ、同法に基づいて必要とされる供託を逃れようとしたかのような報道がなされましたが、そのような事実は一切ございません」と報道の一部を否定した。立入検査は、定期的に行われていることであり、「『宝箱の鍵』につき資金決済法上必要な届出をしなかったという疑いに起因するものではない」としている。
今回の問題をどう考えればいいのか。金融法務に詳しい片岡義広弁護士に聞いた。
主なポイントは、次のような点です。
・議論されているのは、LINEの「宝箱の鍵」というアイテムが、資金決済法の「前払式支払手段」に当たるのかどうか
・「前払式支払手段」にあたるとすれば、その未使用残高の半額以上の金額の供託をするか、銀行保証を付す等して、その前受金の保全措置を講じなければならない
・「宝箱の鍵」が「前払式支払手段」にあたるかどうかは、「宝箱の鍵」を購入できる「ルビー」という「ゲーム内通貨」が前払式支払手段にあたることが大前提
・そもそも、「ルビー」は「前払式支払手段」に当たるのか
・「ルビー」が前払式支払手段に当たるとすれば、「宝箱の鍵」は前払式支払手段にあたるのか
以下、詳しく解説します。
まず、今回、LINEのゲーム内のアイテムが「通貨である」のかどうかが問題とされていると新聞報道があり、4月7日付けでも「『通貨』なら供託金」との報道もありました。しかし、ゲーム内のアイテムが「通貨」であるかどうかが問題となっているとするのは、法的には誤りで、資金決済法上の「前払式支払手段」に当たるかどうかが問題になっているのです。
また、その後、「ゲーム内通貨」のことを「仮想通貨」と呼ぶ報道もありましたが、普通名詞としてはありうる表現ですが、法律用語としての「仮想通貨」はBitcoinのようなものをいうのであって、「ゲーム内通貨」は、法律にいう「仮想通貨」ではありません。
各紙等で報じられている事実関係からすると、問題は、「ゲーム内通貨」の「ルビー」を用いてゲーム内で購入した「宝箱の鍵」というアイテムが、資金決済法の「前払式支払手段」に当たって、未使用残高の半額以上の金額の供託をするか、銀行保証を付す等して、その前受金の保全措置を講じなければいけないかどうかという問題です。
利用者がゲーム内でアイテムを購入することができるコイン等(本件では「ルビー」)のいわゆる「ゲーム内通貨」を発売したときは、そもそも、その「ゲーム内通貨」が前払式支払手段に当たるかどうかという問題があります。
「ゲ―ム内通貨」にも、(1)金銭または前払式支払手段等の有価物で購入することができるアイテムを、その「ゲーム内通貨」で「ゲーム内購入」するものである場合と、(2)金銭等の有価物で購入することができるアイテムが含まれていない場合とで、結論が異なるものと考えられます。
また、(3)上記の(1)と(2)の双方が含まれている場合もありえますが、その場合も、(3-a) (1)と(2)とをゲーマーが自ら選択して「ゲーム内購入」するものである場合と、(3-b) ゲーマーが選択できずランダムに取得することとなる場合とを考えることができます。なお、他にも色々な類型があるかも知れません。
私は、資金決済法の前払式手段の定義からして、「ゲーム内通貨」で有償のアイテムを「ゲーム内購入」する上記の(1)の場合に限り、その「ゲーム内通貨」が前払式支払手段になるものと考えます。すなわち、その「ゲーム内通貨」が有償のアイテムの「代価の弁済に使用することができるもの」という法律の定義に当たることになるからです。
ただ、この問題に関係するものとして、ゲーム内通貨の前払式支払手段の該当性に関する金融庁のパブリックコメントの回答(No.4)があります。それは、特定のゲーム内通貨を念頭に置いた質問に対して回答したものと考えられますが、上記のどの場合を想定しているのかが必ずしも明確ではなく、異なる解釈が導かれる可能性もなしとはしません。この点にも今回の問題の一端があるようにも思われます。
他方で、(2)の場合については、「代価の弁済に使用することができる」ものではありませんから、資金決済法の前払式支払手段の定義からして、そもそも「ゲーム内通貨」が前払式支払手段に該当するものではありません。単に、お金を出して、「こども銀行券」のような「おもちゃ」を買ったのと同様だからです。
さらに、問題は、(3)のように、有償取得できるアイテムが混ざっている場合はどうでしょうか。(3-a)のように、ゲーマーの選択により有償取得できるものが混じっている場合には、「代価の弁済に使用するもの」になっている限りは、前払式支払手段に該当すると考えられます。
他方で、(3-b)のように、ゲーマーの選択ではなく、ランダムにアイテムが取得されるような場合は、「代価の弁済に使用する」と評価することはできませんから、前払式支払手段には該当しないものというべきです。
今回報道されているLINEの「ルビー」という「ゲーム内通貨」は、LINEでは、すでに前受金の保全措置を講じているとのことで、この点は問題になっているわけではありません。しかし、これまで述べてきたように、LINEの「ルビー」という「ゲーム内通貨」が、そもそも前払式支払手段に当たるのかどうかも検証する必要があります。
さらに、問題は、「ルビー」という「ゲーム内通貨」で「ゲーム内購入」をすることができる「宝箱の鍵」が「前払式支払手段」に当たるかどうかです。
この点は、まず、「ルビー」という「ゲーム内通貨」が前払式支払手段に該当することが大前提となります。LINEは、これについて供託等の前金保全措置を講じているとのことですが、厳密には、既に述べた基準に照らし、前払式支払手段に該当するかどうか、再度検証をする必要もあります。
そして、「ルビー」が前払式支払手段に該当することを前提に、それにより取得するゲーム内アイテムの「宝箱の鍵」が、上記の(1)、(2)、(3-a)、(3-b)のどの類型に当たるかによって、その前払式支払手段の該当性が判断されるものと考えられます。
したがって、「ルビー」が上記(1)または(3-a)に該当し、かつ、「宝箱の鍵」が(1)または(3-a)に該当する場合に限り、「宝箱の鍵」は、前払式支払手段に該当し、その未使用残高について供託等の前金保全措置が必要となるものと考えます。
私は、1990年ころにゲーマーを卒業しましたので、今回のゲームのアイテムの構成を知るものではありません。しかし、以上述べたような点を検証することにより、その法規制の有無を判断するべきものと考えています。
ゲーム内というバーチャル(virtual)な仮想空間での事象のことではありますが、資金決済法の適用を受けるかどうかは、リアル(real)の有価物との接点をいかに有しているかによります。事案によって上記のように法解釈は複雑で、法律の論理を正解していれば答えは自ずと導かれるのですが、現実社会では、必ずしも容易なことではないというのもまた事実です。
結局のところ、法解釈も色々ありうるところ、まずはそのアイテムの内容を詳しく調べないと、そのいずれであるかは分からないということになります。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
片岡 義広(かたおか・よしひろ)弁護士
あらゆる国内金融法務を手掛ける。2015年および2016年、Banking and Finance LawとStructured Finance Law分野でBest Lawyers in Japanに選ばれる。仮想通貨の我が国の多方面の法適用につき、金融法務事情1998号等に詳細な論文を書く。
事務所名:片岡総合法律事務所
事務所URL:ttp://www.klo.gr.jp