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欅坂46が提示する、ポスト「アイドル戦国時代」の戦い方 乃木坂46とも異なるグループ戦略を読む

2016年04月16日 08:31  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46

 「アイドル戦国時代」と言われるようになって久しいが、今やその動乱はすっかり治まったように見える。00年代以降のアイドルブームを作り上げたAKB48は10周年を迎え、総監督として結成当初よりグループを支えてきた高橋みなみは卒業、大島優子、宮澤佐江といった実力者揃いの2期生も全員グループを去った。以前は「初武道館公演」を目標とし、達成するまでの物語を描くアイドルが多く存在したが、2016年3月までに、実際に初の武道館公演を予定しているグループは発表されていないことからも、業界の盛り上がりがある意味で落ち着いてしまっていることが見て取れる。また、「初武道館以後」で伸び悩むアイドルも散見される。そこから東名阪アリーナツアーやドーム公演にステップアップできないこともあれば、アニバーサリー感の強い初武道館に比べて2度目、3度目の武道館公演で集客を落とすことも少なくない。そんな「ポスト・アイドル戦国時代」に挑むのが、4月6日にデビューシングル「サイレントマジョリティー」をリリースした欅坂46だ。


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「サイレントマジョリティー」の魅力と乃木坂46との差別化

 乃木坂46に続く“坂道シリーズ”第2弾として結成された欅坂46。2グループの差別化がどう行われるかと、結成当初から注目を集めていたが、このデビューシングルが明確にその方向性を示している。乃木坂46は清楚で上品な世界観を打ち出し、1stシングル「ぐるぐるカーテン」では、男子が想像する理想の女子の花園をフレンチポップにのせて表現。振付は可愛らしく、「ダンスというよりも舞踊のようだ」とも形容された。総合プロデューサーの秋元康は、まだ未完成ながら、みずみずしい魅力を持つ彼女たちをシンプルに調理し、素材を活かしてみせた。


 一方の欅坂46はどうか。1stシングルの衣装はイメージカラーの緑を踏襲しつつも、学生の制服というよりも軍服に近いデザインで、表情も笑顔ではなく、真剣な眼差しで彼方を見つめるというビジュアルイメージに仕上がっている。乃木坂46の初々しい可愛らしさとは別のベクトルへと進んでいることは明らかだ。その差異は『ぐるぐるカーテン』と『サイレントマジョリティー』のジャケットにも顕著で、乃木坂46は制服姿で窓際にて戯れる彼女たちの可愛らしさが白を基調に押し出されているが、渋谷川で撮影された欅坂46のジャケットのメンバーは大都会の陰に立つかのようで、その姿は“戦場に立つ少女たち”というイメージを想起させる。


 ビジュアル的なイメージだけでなく、楽曲に関しても2つのグループの違いはハッキリと出ている。乃木坂46の1stシングル「ぐるぐるカーテン」は、冒頭の“タン、タン、タッツ、タッツ”とゆったり始まるドラムと、イントロのストリングスが象徴的。サビ頭からスタートする構成で、短い時間で鮮烈な印象を残す。一方の「サイレントマジョリティー」は、ピアノのリフレインと力強いアコースティックギターに始まり、サビへ向かって次第に盛り上がっていく構成だ。Aメロ歌い出し、センター平手友梨奈の声は、低く落ち着いている。


 アイドルユニットがスピード感のある「カッコイイ」タイプの曲をリリースする際には、歪ませたエレキギターのブリッジミュートに頼りがちだ。しかし、この曲はキレのあるアコースティックギターが全編を通してフィーチャーされ、切迫感と緊張感を生み出し、それがアウトロのエレキギターソロをより引き立てている。また、アイドルソングのBメロにありがちな“タン、タタン タン、タタン”という三拍のリズムも、意図して避けられているように感じられる。どうしても曲のスピード感を落としがちなリズムであることを逆手にとり、“タンタンタン、タン タンタンタン、タン”と三連符を入れることで、スピード感を削がずにサビへとテンションを上げることに成功しているのだ。この曲のサビは決して甘くキャッチーなメロディラインというわけではないが、歌のメロディーと、スピーカーの左右で異なるリズムを刻むクラップが新たなグルーヴを生み出していて面白い。


 また、2つのグループの振付の違いも注目だ。乃木坂46のデビューから5thシングルまでの振付を担当した南流石は、その魅力を独自の創作ダンスで強調。6thシングル以降、主に振付を担当しているWARNERは、キャリアを重ねた彼女たちの魅力を引き出し、より高度なダンスでグループのパフォーマンスレベルを高めた。一方、TAKAHIROが担当する欅坂46の振付は、ヒップホップダンスを軸に、全身を使い、グループ全体として表現することが多く、平手が左右に分かれたメンバーの間を割って歩く「モーセの十戒」的な振りもその一例だ。この「サイレントマジョリティー」の世界観を身体で表現すべく、この数カ月の間に「動く/止める」、「強弱/緩急」の基本が叩きこまれたのだろう。もちろん、その完成度には個人差もあるが、デビューカウントダウンライブのダンスブロックでみせた彼女たちのダンスは、観客に驚きと興奮を与えるに十分だった。今後、楽曲だけでなく、ダンスにおいても、他のアイドルとは異なる魅力を見せてくれるだろう。


カップリングに見る今後の欅坂46の展開

 表題曲の「サイレントマジョリティー」がクールでシリアスな印象を与える一方で、2曲目に収録された全員歌唱曲「手を繋いで帰ろうか」は、青春の甘酸っぱさを前面に押し出した一曲だ。ノスタルジーを感じさせるピアニカの音色と、表題曲とは異なり爽やかな印象を与えてくれるアコースティックギターが心地よい。菅井友香と守屋茜の寸劇を挟むダンスもキュートで、アイドルらしからぬ「サイレントマジョリティー」とのギャップを生み出している。「サイレントマジョリティー」のような曲をメインにしつつ、そのフレッシュさと可愛らしさを活かした、いわゆる“アイドル然とした楽曲”も歌える振り幅の広さがしっかり見えることに、メジャーアイドルとして成功する力量が感じられる。


 そして、「サイレントマジョリティー」でセンターとして圧倒的な存在感を放つ平手のソロ曲「山手線」では、14歳とは思えないその表現力が、振り付けの当てられていないフリーのパートでいかんなく発揮されている。昭和のソロアイドルが歌っていたような歌謡曲をそのまま歌って成立しているのは、個人としてのポテンシャルががそれだけあるということだろう。乃木坂46における西野七瀬のように、彼女はこれからもソロ曲を増やしていきそうだ。


 また、今泉佑唯×小林由依のユニット“ゆいちゃんず”による「渋谷川」は、2人の弾き語りにオーケストラアレンジを加えたスタイル。歌が得意な今泉と、弾き語りが特技の小林――同ユニットは、欅坂46が『新春!おもてなし会』でみせた「部活動」から生まれたものだ。「音楽部」に所属する彼女たちの前例ができたことで、バイオリンが得意な長沢菜々香や、ピアノが弾ける菅井友香らにも見せ場ができそうだし、平手や鈴本美愉らが所属する「ダンス部」によるダンス&ボーカルユニットソングが生まれるかもしれない。


秋元康の新しい試み

 表題曲の「サイレントマジョリティー」もさることながら、カップリング曲の中にもアイドルソングらしからぬ曲がいくつかあるのが面白い。「乗り遅れたバス」は、けやき坂46(ひらがなけやき)の長濱ねると欅坂46でフロントを務める5名(平手、今泉、小林、鈴本美愉、渡辺梨加)による楽曲。歌割りは1人対5人となっており、対照的な5人によるクールな歌声とクラシックギターの音色が、一人残された長濱ねるが初々しい歌声で表現する心情をより引き立てる。そしてアイドルソング――とりわけ秋元康がプロデュースを手掛ける楽曲のなかで、この曲が持つ“珍しさ”がある。それは、いつも削られがちなベースのサウンドが際立っていることだ。冒頭の長濱ねるのパートを終えると、エフェクトでぐにゃりと曲げられたベースのサウンドとワウギターが絡み合い、粘り気のあるグルーヴを生み出している。この曲のベースは、Aメロだけでずっと踊れてしまいそうな強烈なものだ。実は「サイレントマジョリティー」も、表題曲とは対照的な“どアイドルソング”な「手を繋いで帰ろうか」も、従来よりベースが削られておらず、楽曲のなかで低音が存在感を放っていることも、グループの特徴だといえるだろう。


 初期サカナクションを思わせるサウンドの「キミガイナイ」は、ピアノ、ストリングス、ドラム、ベース、電子音といたってシンプルな編成の曲だ。ベースが全編を通して楽曲を引っ張り、ブリッジのピアノが曲の盛り上がりをしっかり作る。サビに入るとメンバーの優しい歌声と心地よいストリングスが、聴くものの心に優しく響く。この曲の主人公は“キミガイナイ”世界で孤独を感じ、もがく少年だが、歌詞もそんな少年の心に寄り添うものになっている。シンプルに一つひとつの音に聴き入ることができる良曲だ。アイドル戦国時代に「楽曲派」なるアイドルも全国に生まれたわけだが、「これがソニーミュージックの力だ」と言わんばかりの楽曲が集まっていることに彼女たちへの大いなる期待を感じる。


欅坂46は誰と戦うのか

 アイドル戦国時代の終わりと共に、アイドルは「ブーム」から「文化」に変わったとも言われる。何をもって文化とするかはまた別の議論だが、少なくとも宝塚やヴィジュアル系のように、“アイドル文化圏”のなかで生産・消費活動が成立するようになった。しかし裏を返せば、それは文化圏内の“向こう側”にいる大衆に向き合う機会を失ってしまうことを意味しているのではないか。現在の乃木坂46はアイドル文化圏内に収まらない成功を得るために、特に若年層の女性へ向け、強くアプローチをかけようとしている。そして、欅坂46も同様に、最初からアイドル文化圏内の向こう側での戦いを想定して始動したグループなのかもしれない。その戦いのための武器が「サイレントマジョリティー」をはじめとするアイドルソングの枠に収まらない楽曲群やダンス、ビジュアルイメージだとしたら――もうAKB48のような大きな成功は望めないと多くのアイドルファンが考える中、その現状に「NO」をつきつけられるのは、まさしく彼女たち、欅坂46だろう。(ポップス)