トップへ

分析:ハースが見舞われたブレーキ“火災”の原因を考える

2016年04月15日 23:21  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

エステバン・グティエレス
F1中国GPフリー走行2回目が始まって早々、エステバン・グティエレスがドライブするハースのマシンが、リヤブレーキから炎と煙を上げながらピットに戻ってきた。リプレイ映像で確認したところ、炎はブレーキディスクを挟んでいるキャリパー部分から上がっているようだった。

 リヤだけ、ブレーキがかかった状態になってしまったのだろう。市販車にたとえて言えば、パーキングブレーキをリリースし忘れて走りつづけてしまったようなものだ。ブレーキパッドがディスクを挟んだ状態で走りつづけたので、摩擦によって過熱し、カーボン/カーボンコンポジット(カーボンファイバーを樹脂で固め、蒸し焼きにして炭化させた素材)に火がついた。七輪で使う練炭に火がついたようなものである。

 なぜ、こんなことが起きてしまったのか。ここからは推測だが「パーキングブレーキのリリースし忘れ」のような人為的なものではなく、制御のエラーだろう。F1は2014年以降、ブレーキ・バイ・ワイヤを搭載している。フロントは従来どおり、ブレーキペダルとマスターシリンダーとブレーキキャリパーがロッドや油圧配管を介して物理的につながっている。ドライバーがペダルを踏まない限り、ブレーキはかからない。



 一方、リヤはMGU-Kが発生させる回生ブレーキと、コンベンショナルな油圧ブレーキの配分を調節する必要があるため、電子制御が介在している。それがブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)と呼ばれているシステムで、市販ハイブリッド車や電気自動車が搭載する電子制御ブレーキ(あるいは協調回生ブレーキ)と同様のシステムだ。ドライバーのペダル操作量から要求制動力を判断すると、それを電気信号に置き換えてECUに伝達。回生ブレーキと油圧ブレーキの配分を瞬時に計算し、油圧側はアクチュエーターに指示を出す。回生ブレーキ分を差し引いた分だけ、油圧ブレーキを効かせるのだ。

 グティエレスの場合は、ドライバーがブレーキペダルを踏んでいないにもかかわらず、何らかの原因でアクチュエーターが作動してしまい、リヤだけブレーキがかかった状態になってしまったのだろう。既存チームならBBWを初めて導入した2014年に経験する類のトラブルだが、新規参戦チームだけに、このタイミングで発生してしまったと考えられる。

 この火災の熱により、カーボンファイバー製のアウターブレーキドラムの樹脂が溶けて素材の繊維だけが残り、ハースのガレージの床のあちこちにカーボンの「糸くず」が散らばっていた。