プッシュしていないようでいてタイムは、ちゃんと出ていた。金曜フリー走行2回目、キミ・ライコネンが彼らしいドライビングタッチを見せ、セクター1とセクター2で最速。ただひとりの1分36秒896、前戦バーレーンGPに続き、セバスチャン・ベッテルに先行した。
金曜トップは3年前のバーレーンGP以来、そのとき決勝では2位になっている。さかのぼると中国GPを制した2007年にはフリー走行1、2、3回目ずっとトップで、予選こそルイス・ハミルトンにポールポジションを許したが逆転勝ち。そして最終戦で大逆転、王座獲得への分岐点が、ここだった。
そんな懐かしいエピソードを思い出した、この日。午前中のフリー走行1回目では、すべりまくるフェラーリに悪態をつくほどだった。ラリーカーを操るみたいな忙しいステアリングワークで5位、ベッテルから約0.5秒落ちは異常だ。大きくセッティングを変えたのか、あるいは路面温度が午後になって14度も上がり47度(!)に達したから、そのコンディション変化に合わせこむ程度のアジャストだったのか。
フェラーリ・チームは通常と異なる戦法に出た。まず先にロングランをベッテルがミディアムタイヤ、ライコネンはソフトでやる。それからスーパーソフトでアタック練習、その中古タイヤでショートラン。合間にスタート練習を挟む。
今年もピレリのミディアムは「低温度領域作動型」で、ソフトは「高温領域作動型」、スーパーソフトはミディアムと同じ型。その温度領域に、とても過敏な傾向がある。上海は陽射しをスモッグみたいな雲が遮っていたかと思うと切れ間から陽がさしこんでくる。路面温度が絶えず変動し、おまけに強い風が特徴。2004年の完成時にあったグランドスタンド建屋が台風で壊れ、跡形もなく消えたくらいだ……。
ソフト担当ライコネンはロングランを1分41秒台から開始。気温26度、路面47度(今季初の高温)のコース状況ではミディアムよりマッチしてベッテルを上回るペースを維持する。30分が経過した時間帯、メルセデス勢を筆頭にスーパーソフトを装着してアタック練習へ。14時28分にニコ・ロズベルグ1分37秒133、14時30分にハミルトン1分37秒329でワンツー。フェラーリ勢は逆の戦法でロングラン消化後にスーパーソフトを履き、遅れてコースへ。すると路面温度が41度に急降下、14時44分にベッテル1分37秒005、14時48分にライコネン1分36秒896。低温度にぴったりなスーパーソフトによって、午前中と全然違う「オン・ザ・レール」に近い安定した挙動でトップタイムを出した。
続いてタイヤはそのまま、レース想定燃料でスタート練習を入念に繰り返し、それからショートランの限界ペースをチェック。さらに路面温度は39度以下まで下がり、ベッテルもライコネンもアベレージラップが若干メルセデスよりも勝った。うまくタイヤ特性を使いきれている。
いいときも、よくないときも表情を変えずに淡々とコメントするライコネン、金曜トップにも決して、はしゃがない。ひとつ気がかりなのは予選が行われる上海地方の午後3時から4時の降水確率が75%。決勝スタート予定の午後2時からは0%で気温23度と変わる。再び2015年方式に戻されることになった予選は今シーズン初めてのウエットになりそうだが、決勝は晴れ間が広がるのか曇り空か……レース中に路面温度は、どうなる?
「やってみなけりゃ、わからないさ」──何か狙っているときのライコネンは、いつもそう言って気をもたせる。