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異色マーベル作品『デアデビル』はなぜ驚異の高評価を得たか? “不殺の自警ヒーロー”の革新性

2016年04月14日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(C) Netflix. All Rights Reserved.

 Netflix製作のアメコミヒーロードラマ『デアデビル』。シーズン1は、視聴者、批評家によって圧倒的な高評価を得られた。海外の有力批評サイトのIMDb(インターネット・ムービー・データ・ベース)では、10点満点中8.6~9.4点を記録。また同じく有力なRotten Tomatoesでは、批評家からは100%中98%の支持、視聴者からも100%中96%の支持という驚異の数値だ。筆者も最終話まで見終わった後は、快哉を叫んだ。


参考:チャーリー・コックス、『デアデビル』シーズン2の魅力明かす「より複雑な問いかけがある」


 『デアデビル』はマーベル・シネマティック・ユニバースの1つであり、『アベンジャーズ』などと世界を共有する。本作の舞台はヘルズ・キッチン。そこは『アベンジャーズ』1作目にて地球外生命体チタウリとの戦いで被害を受けたニューヨークの一角だ。しかし、世界こそ地続きであるが、アベンジャーズとデアデビルとでは、戦う目的も、対峙するヴィラン(悪役)のタイプも全く異なる。


 アベンジャーズは、元々別々の時代や地域で活躍するメンバーが一堂に会したヒーローチームだ。そのため、「なぜ戦ってきたのか」の部分が全く異なる。例えば、アイアンマン=トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)は、軍需企業スターク・インダストリーズの社長であり、天才発明家。彼は、兵器製造による負の遺産を清算するために戦っていた。キャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)は、第二次大戦時の従軍兵。世界征服を企むヒドラとレッド・スカルの魔の手から、純粋に世界を守るために戦っていた。ソー(クリス・ヘムズワース)は神話世界アスガルドの王オーディン(アンソニー・ホプキンス)の息子で、王位継承権を持つ。彼は正統な王位継承を暴力で阻む義弟のロキ(トム・ヒドルストン)と戦っていた。そんな彼らは、人類のあらゆる脅威に備えた組織S.H.I.E.L.Dによって招集され、地球制圧を企むロキと彼が率いるチタウリを相手に戦うことになる。このように、世界平和のために、超人的なヴィランと戦うヒーローをスーパーヒーローとする。


 一方、デアデビルは、街の平和のために人間のヴィランと戦う。このようなタイプはヴィジランテ(自警)ヒーローと呼べる。近年のヴィジランテヒーロー作品として、映画でいえば『キック・アス』、『スーパー!』、ドラマでは『Arrow』が挙げられる。また、これらのヴィジランテヒーローは、共通して何らかの強いコンプレックスを抱えている。


 『キック・アス』の主人公デイヴ(アーロン・テイラー・ジョンソン)は高校生。女の子にまともに相手にされず、同じクラスに好きな女の子はいるが話せないため、鬱屈した想いを溜め込んでいる。そんな典型的な青春の苦悩を晴らすべく、アメコミヒーローにも憧れる彼は、超人的な能力もなく、高い格闘能力もないまま、チンピラと戦い始める。『スーパー!』の主人公フランク(レイン・ウィルソン)は、愛してやまない妻がギャングのボスの元から帰ってこなかった喪失感、その思いを埋めるべくして聞こえた宗教的ヒーローの啓示によって、超人的な能力もなく、高い格闘能力もないまま、ドラッグディーラーなどを暴力で懲らしめ始める。『Arrow』の主人公オリバー・クイーン(スティーヴン・アメル)は、お金持ちのプレイボーイではあるが、尊敬する父を亡くしたこと、オリバーたちの住むスターリング・シティにはびこる悪人にしかるべく罰を与えてくれとの遺言から、様々な種類の弓矢と高い身体能力を駆使して「正義のため」に戦う。


 デアデビルも例外ではない。デアデビル=マット・マードック(チャーリー・コックス)は、少年時代に事故で放射性廃棄物を目に浴びたことで失明するが、その代わりに超人的な感覚を手に入れた。そんな彼は、父親がボクシングの八百長試合を拒否してギャングに殺された経験から、正義のために戦うことを誓う。そして大人になった後、昼は弁護士として働き、夜は法で裁けぬ悪に裁きを与えていく。


 しかし、これらの作品と『デアデビル』とでは決定的な違いがある。それは「不殺」が根幹に据えられていることだ。その一線があることで、他のヴィジランテヒーロー作品とは全く異なった心理描写が生み出される。特にシーズン2では、悪人を片っ端から殺すアンチヒーローのパニッシャー=フランク・キャッスル(ジョン・バーンサル)が登場することで、「不殺」の一線が危うくなる。そのことは、ヒロインのカレン・ペイジ(デボラ・アン・ウォーカー)がデアデビルのヴィジランテに対し、「単に知らないだけで殺されているかもしれない」という主旨の台詞などに象徴され、筆者ははっとさせられた。


 また、パニッシャー登場当初は激しい憎悪を抱いていたデアデビルも、彼の背負っている悲しい過去や、自警行為を始めるに至った経緯を知るにつれて、心境の変化を見せ始める。シーズン3以降も「不殺」が根幹にあることで、どのようなサスペンス性やマットの葛藤が生じるのか楽しみでしかたない。(梅澤亮介)