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岡山に流れた師弟の涙。松本恵二“最後の弟子”川端伸太朗2年目の成長

2016年04月13日 20:21  AUTOSPORT web

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第1戦を制し、熱い抱擁をかわす川端伸太朗と脇阪寿一
4月9日に岡山国際サーキットで、スーパーGTのサポートレースとして第1戦が行われたFIA-F4。2年目のシリーズ開幕戦を制したのは、昨年5月に亡くなった往年の名ドライバーである松本恵二さんの“最後の弟子”、川端伸太朗(SUCCEED SPORTS F110)だった。

●松本恵二さんの『最後の弟子』
 川端は1992年9月14日大阪府生まれ。FIA-F4にはシリーズ初年度の2015年から参戦し、序盤戦こそ予選で上位を獲得していたものの、中盤苦戦。1年を通じて表彰台にも立てず、最上位は4位だった。

 そんな川端は、じつは昨年亡くなった松本恵二さんに薫陶を受けた「自分が最後のドライバー」という存在。所属するサクシードスポーツは、これまでも伊沢拓也や塚越広大、野尻智紀等トップドライバーを輩出してきた松本さんの“DNAを継ぐ”チームで、松本さんは昨年のFIA-F4開幕戦岡山、そして第2戦富士とアドバイザーとしてチームに帯同していたが、その後亡くなった。いま、永守正代表率いるチームのピットには松本さんの遺影とヘルメット、花、そしてシーバス・リーガルが飾られている。

 松本さんが亡くなったあと、川端の師匠となったのは、昨年限りでGT500を引退した、松本恵二さんの“教え子”脇阪寿一と、脇阪薫一だ。とくに寿一からは“愛弟子”として多くの教えを受けてきているが、目立った成績を残せなかった初年度を終え、「精神的に弱い部分もありました。この先レースで生き残っていくためには、自分が変わらないといけない」と2年目に向けて意識を変化させていった。

「トレーニングを積めば、体力はもちろん精神的にも強くなる」と寿一から教えられた川端は、寿一とともにグアムで仲田健トレーナーによるトレーニングに参加し、「自分を追い込んで、『自分にはこれしかないんだ』と言い聞かせて」自らを鍛え上げた。

●悲しみを乗り越えたダブルポール
 オフに万端の準備をととのえ、1年目とは違う気持ちで迎えた開幕戦。川端とサクシードスポーツは早めに岡山に入るが、川端に祖母が亡くなったという予期せぬ報せが届く。急遽大阪に戻り、そこから再度岡山へ。川端は悲しみを乗り越えトレーニング走行、そして9日朝の公式予選に挑んだ。鍛えられた精神面の強さが発揮されたか、予選は赤旗が多く出るセッションとなったものの、タイミングをうまくつかみ、川端は第1戦、第2戦ともポールポジションを獲得する。

 そして、9日の第1戦の決勝レースを迎えた。ポールからスタートした川端はホールショットを決め、トップでオープニングラップを終える。2番手に続くのは、ホンダの大きな期待を受け、今季は全日本F3にも参戦する阪口晴南(HFDP/SRS/コチラレーシング)だ。

「序盤は自信があるんですが、後半『もう一歩』が出てこない」という川端は、強力なライバルである阪口に対してギャップを築きにかかるが、途中アトウッドでのクラッシュの影響でセーフティカーが導入されてしまう。

 フォーミュラの場合、リスタートでリードを保つことは非常に重要だ。「頭を使って少しでもリードを築こうと思った」川端はリスタートを決め、最後まで阪口をおさえこみ、トップでチェッカーを受けた。念願のFIA-F4初優勝だ。しかし、川端はチェッカーフラッグが良く見えていなかった。

「ゴールの瞬間、正直言うとあまり前見えていなかったんです。ファイナルラップの途中から涙が出てしまって。見えなくて『ホントにチェッカーかな』って(苦笑)」

●苦労の先に流れた師弟の涙
「苦労が長かった分、本当に嬉しかったです。サクシードスポーツの皆さんとがんばってきて良かった」という川端は、チェッカー後、メインストレートにマシンを止めると、涙を流しガッツポーズ。同じく感涙の永守代表、そして寿一がサインガードで出迎え、こう声をかけた。

「これからやぞ。これがスタートやぞ」

 ちなみにこのとき、寿一は川端に声をかけながら、サングラスを一度も外さなかった。当然、“サングラスを外せない”理由があったからだ。

 川端は、翌日の第2戦でも「昨日のライバルが後ろにいるから、ぶっちぎってうしろとの間隔を見ながらレースをしろ」という寿一からの指示を守り優勝。第1戦では松本恵二さんのヘルメットを、第2戦では遺影を持って表彰台に上がり、師匠に開幕2連勝という完璧な滑りだしを報告した。「これで(関係者注目の存在に)立候補したよね」と寿一も笑顔で表彰台を見守った。

「3年前にサクシードスポーツに入って、JAF-F4ではチャンピオンを獲れましたが、FIA-F4ではすごく苦労をかけました。それでも懲りずに、あきらめずに支えてくださった永守代表に本当に感謝しています。厳しい方ですが、愛情をいつも感じています」と川端。

「永守さんも、恵二さんを表彰台に連れていけたのでホッとしているのではと思っています。今度はチャンピオンを獲って、また永守さんを泣かしたいです!」

「僕はもちろん、恵二さんが現役のときに走っているところを見たことはないです。でも、その人がいたからこそ、今の僕がいると思う」と川端はいう。松本さん、寿一、そして川端と続くDNAがいま、大きく花開こうとしている。