トップへ

羊毛とおはな・千葉はな逝去から1年 縁の深いアーティストたちが豊かな音楽性を伝えた夜

2016年04月12日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

撮影:平間至

 2016年4月8日(金)、東京・赤坂ブリッツで「羊毛とおはなの日 Live 2016“episode”」が開催された。羊毛とおはなのボーカリスト、千葉はなが亡くなって1年。縁の深いミュージシャン、シンガーが数多く参加したこの日のライブは、羊毛とおはなの芳醇な音楽性、千葉はなの歌の魅力と人柄を改めて実感できる有意義な内容となった。


 市川和則(羊毛とおはな/G)をはじめ、バンドメンバーがステージに登場し、まずは「月見草」「ミグラトリー」をインストで披露。有機的なサウンドとオーガニックなメロディが伝わってきて、身体の緊張が和らぐような心地よいムードが広がる。バンドメンバーは塚本亮(Key)、須長和広(Ba)、神谷洵平(Dr)、武嶋聡(Sax/flute)、中島久美(バイオリン、ヴィオラ)、安宅浩司(G)、阿部美緒(バイオリン)。さらに音楽プロデューサーの鈴木惣一郎ーー羊毛とおはなの「月見草」のプロデュースを手掛けているーーがドラマーとして参加。鈴木、神谷のツインドラムを中心とした深みのあるグルーヴは、羊毛とおはなの音楽の魅力をしっかりと際立たせていた。


 この後は親交のある女性ボーカリスト(全員“花飾り”を付けてました)が次々と登場し、思い入れのある楽曲を歌っていく。カントリーミュージックの解放感を反映させた「揺れる」(歌/Kate)、70年代のアイドルポップスのような雰囲気の「ホワイト」(歌/南波志帆)、繊細なメロディとクラシカルなアレンジが印象的だった「明日は」(歌/コトリンゴ)、そして、包み込むような母性と大らかなポップネスがひとつになった「手をつないで」(歌/Ann Sally)。歌い手の個性を活かした選曲から伝わってくるのは、羊毛とおはなの多彩な音楽性だ。2000年代前半に結成され、カフェ・ミュージックの流行とともに知名度を上げた羊毛とおはなは、まっすぐに音楽と向き合いながら、こんなにも豊かな楽曲を生み出してきたのだーーそのことを改めて実感することができた、素晴らしいステージだった。


「はなちゃんと一緒に羊毛くんの話をしてたら、ひとりでキレて、でも、おいしいもの食べたら、もう忘れてた」(Kate)


「はなちゃんはホワンともしてるけど、今回のリハーサル最中にいろいろなエピソードを聞いて、音楽に対する姿勢が素晴らしかったんだなって改めて感じました」(Ann Sally)


 など、千葉はなの人柄が伝わるトークもじんわりと心に残った。


 その後、特設サイト「羊毛とおはなの日」で募集された“MY BEST song of 羊毛とおはな”のランキングを発表(1位「ずっとずっとずっと」 2位「ただいま、おかえり」 3位「空が白くてさ」)。続いて、シークレットゲストの大橋トリオが登場し、「ずっとずっとずっと」をシックに歌い上げた。


 さらに「空が白くてさ」を観客と一緒に合唱する企画も。じつはこの曲、ライブで観客と歌うことを意識して「カーペンターズの『SING』みたいな感じはどう?と提案した」(鈴木惣一郎)というナンバー。演奏の前に2012年の全国ツアー「月見草の旅」のリハーサルの映像が映され、「だって、みんな歌ってくれないんだもん」と千葉はなが(ちょっとイジけたように)言い出すシーンで軽い笑いが起きていたが、この日の「空が白くてさ」では大きな合唱が生まれ、会場は豊かな感動で包まれた。


 そして、ライブはついにエンディングへ。まずは市川が改めてオーディエンスに向かって語り掛ける。


「はなさんは亡くなる直前まで(羊毛とおはなの音楽が)どうやったらもっと広がるんだろう?って言ってたので、これで活動がなくなってしまうと、たぶん僕は祟られるんですよね(笑)」「今回のライブも、ゲストに歌ってもらうだけではゴールが見えなくて。その答えはパソコンのなかにあって…。それでは、千葉さんからのメッセージと最後の曲を聴いてください」


 そんな言葉に導かれたのは、2015年5月にリリースされた「エピソード」に関するコメントだった。NHK BSのドラマ(「喰う寝るふたり 住むふたり」)のテーマソングの依頼で作った曲だけど、ちょうど体調が良くなくて、ぜんぶ羊毛さん(市川)にお任せしたこと。聴いたときに桜の花が見えて、これから春が来て、その光が自分に振ってくるようなイメージを感じたこと。ライブで歌えてないことは残念だけど、家では“ひとりライブ”をよくやっていたことーーステージ中央に置かれたマイクスタンドにライトが当てられるなかで披露された「エピソード」、その希望に溢れた歌声はこのライブに参加したすべての人の胸に深く深く刻まれたはずだ。


 出演者がステージを去った後、鈴木惣一郎のプロデュースによる未発表曲「永遠の少女」が、千葉はなの幼少期の写真とともに流され、ライブは終了した。羊毛とおはなを愛する人たちが、その音楽を伝えるべく真摯な姿勢で向き合った、穏やかで美しいライブだったと思う。


 このライブが行われた4月8日にアルバム『LIVE IN CHURCH』(2014年2月に品川グローリアチャペルで開催されたライブの音源を収録)がリリース。また、市川和則と見田諭(mitatake)によるギターデュオ、THE BOCOSの2ndアルバム『Handkerchief』(7月中旬発売予定)のリリースも決定。千葉はな、市川和則の音楽がもっと多くのリスナーに浸透することを心から願う。(文=森朋之)