4月も中旬に入り、新入社員は丁度研修を受けている頃合いだろう。一般的な新人研修ではビジネスマナー講座などが多いが、あえて精神的に追い込む企業もある。先日も、研修講師が「皆さんの会社は採用ミス」と新人に言い放つ様子がテレビで放送されて話題になり、「人を育てる気ゼロ」「まともな会社じゃない」と炎上状態になった。
こうした研修は表に出れば企業のイメージを損なうことにも繋がる。それでも、なぜ企業はブラック研修を採用するのだろうか。その背景をブラック企業アナリストの新田龍氏に聞いた。
「厳しい研修でもしないと甘ったれた気持ちが矯正できない」
「昔からこのような研修は常に存在していましたが、働く人の権利意識が高まり、労働者が『おかしい』と言いやすくなったことで、目に付くようになりました」
新田氏によると、新人を追い込む厳しい研修は「労働集約型のブラック企業」で採用されることが多いという。こうした企業に入ってくる新入社員は、学歴が高くなく、今まであまり努力をしてこなかった傾向がある。さらに、「不本意で入社してしまった」と感じている人が割合的に多いのだそうだ。
「そのため、企業側には『今まで困難から逃げてきたため、厳しい研修でもしないと甘ったれた気持ちが矯正できない。社会人になってもすぐに逃げてしまう』という考えがあります」
また、ブラック企業の仕事は厳しいので、研修の段階から過剰にきつくすることで慣れさせる意図もある。さらに、研修で辞められた方がダメージが少ないため、最初から離脱者を見込んで大量採用している場合もあるという。
メリットは「研修の時点で会社に合うか合わないかが分かるくらい」
そういった企業の意図が、「全員が出来るまで会社のビジョンを暗記させる」「ラジオ体操を揃うまでやらせる」といった連帯責任型の研修や、「講師がいいというまで理不尽に大声を出させる研修」といった過酷な研修となって現れる。
だが、果たして効果はあるのだろうか。新田氏は「確実に効果が
あるとは言えない」と語る。
「本人が仕事で活躍したとしても、それはその人の力量や、先輩や上司に恵まれたことによるものかもしれないため、研修の効果とは言い難いです。確実なのは、『研修の時点で会社に合う合わないかどうかが分かるくらい』ではないでしょうか」
実際、ネットでも厳しい研修を受けたという人から「正直内容も意味不だった上に2年くらいで同期の8割辞めてったから効果無いと思うよ」と疑問の声が出ていた。会社側の自己満足になっているケースも少なくないようだ。
ダイバーシティが要求されるこれからの社会では通用しなくなる
では、効果が分からないのにもかかわらず、企業はなぜ厳しい手法を取り続けるのだろうか。新田氏はこう説明する。
「経営者が『今の若い人の甘えた気持ちを入れ替えるにはこれしかない』と信じ込んでしまっているのです。以前から行っているため、『これまでやってきて上手くいっている』という思いから非難が耳に入らなくなっていることもあります」
また、研修時に恐怖で支配された人は、自分が指導者になったときも同じ手法を取ってしまうことがあるという。しかし、仮にそれでこれまで上手くいっていたとしても、「ダイバーシティが要求されるこれからの世の中では通用しないでしょう」と語っていた。
「部活動などでは厳しい指導が行われることがありますが、それは部員の指導者に対する信頼があってこそ。研修ではそもそもの土台がないため、理不尽なだけになってしまう。信頼関係を築きながら、会話でやる気を引き出すような研修が望ましいでしょうね」
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