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モノブライトの新キラーチューン「こころ」は、なぜ"一世一代の名曲"と呼ぶべきか? 兵庫慎司が徹底考察

2016年04月12日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

モノブライト

 ドラマー瀧谷翼の脱退と半年間の活動休止を経て、昨年12月から新体制で再始動したモノブライト。年末にフェス「COUNTDOWN JAPAN 15/16」に出演、1月に大阪と東京で新体制お披露目ワンマン、12月に「冬、今日、タワー」、2月に「ビューティフルモーニング(Wake Up!)」を配信リリース、という活動を行ってきた彼らが、新しいアルバム『Bright Ground Music』を完成させた。


 4月20日リリース、先行の配信シングルを含む全11曲。すべて聴いたが、そして期待を大きく上回るすばらしいアルバムだが、作品全体のことを書く前に、3曲目に収録されている「こころ」について言及しておきたい。

 東京に出てきてまもない頃だった2007年に書いた曲であること。でも、レコーディングしようと思ってバンドでアレンジしてみてもどうもしっくりこない、「これだ!」という形にならない、だから保留にしてアルバムに入れるのは見送る、時が過ぎて次のアルバムの制作時期になる、またトライしてみる、またしっくりこなくて保留ーーということを、何度もくり返してきたこと。でもこのたびこの新体制になってもう一度トライしてみたら、完成させられたこと。つまり、書いてから完成までに8年かかったということ。


 真実とは何かということをテーマに書いた曲であること。もし真実だけを言葉で告げられることになったら、人って死ぬんじゃないかと思う、真実ってそういう、キツいものだったり残酷なものだったりすると思う、ということ。だからこの曲も、素直な気持ちでパッと聴いたら傷つく人もいると思う、そういうものになっているんじゃないか、という自覚があることーー。


 以上のようなことを、1月17日渋谷クラブクアトロでこの曲をやる前に、桃野陽介は言葉にしていた。

 この「こころ」は、


〈真実になって 泣きそうになった/真実になって 怒りそうになった/真実になって 真実を抱いて/真実になって 君は悔しそうになった/真実になって 僕は悔しそうになった だけど/真実探して 過去の真実汚して消えていく〉


 というラインで始まり、


〈真実はきっと 最低になった〉


 という一行で終わる。


 愛とか夢とか希望とかと同じように、歌の世界において無条件にすばらしいとされている「真実」というものの、本当の姿を問い直す歌だと受け取れるし、その「真実」とは僕にとって何なのか、あなたにとって何なのか、どういうものなのか、そしてそれが僕やあなたに何をもたらすのか、その結果僕やあなたはどうなっていくのかーーというようなことが歌われているわけだが、ただし、「真実ってそんないいもんじゃない」ということは、この歌の着地点ではなく、スタート地点にすぎない。真実というもののあやふやさや、正体のなさや、定義しようのなさみたいなものまで含めて1曲になっている。


 いや、「まで含めて」じゃないか。それこそを描きたかったからこの曲を書いた、というフシもあるので。で、真実のあやふやさや、正体のなさや、定義しようのなさを描くということは、同時に、「真実じゃないもの」のあやふやさや、正体のなさや、定義しようのなさを描くということでもある。


 そんなはっきりしたテーマを持つ曲で、しかも聴けば簡単に意味が拾える、誰でもわかる言葉を歌って綴られているのに、聴く人によって、あるいは聴くタイミングによって、さまざまな解釈ができる歌にもなっている。


 かつ「真実」とは、なんて重いテーマを扱っているのに、曲調はさしてドラマチックではなく、叙情的ではあるが抑揚の小さいメロディとシンプルなリズムで、淡々と進んでいく(アルバム収録の他の曲たちと比較すると、そのことがよくわかる)。サビでキーは上がるが、メロディは淡々としたまま。2分20秒からの〈ひとつの誤解で すれ違っていく〉から始まるブロックがこの曲の中で1回しか出てこないメロディだったりして、実は凝った作りの曲でもあるのだが、それを聴き手に意識させない。そして、曲の後半、3分23秒から1回だけ出てくる大サビだけ一気にメロディがエモーショナルになるが、すぐに、どのくらいすぐかというと3分37秒あたりで、スッと元の平熱な感じに戻る。


 という曲構成やアレンジまで込みで、何かもう、すごく、完璧に、伝えたいことを表している曲だと思う。

 1月17日渋谷クラブクアトロのライブで聴いて、あまりのよさにショックを受け、アルバム音源をもらってからも自分でもちょっとヘンじゃないかと思うくらいこの曲をリピートしまくっているのはなぜだろう、と考えながら書いてみたところ、以上のようなことになりました。


 あと、1月17日の渋谷クラブクアトロのレポで、「すごい曲があった」「モノブライトが名曲を生んだことを知った」と、このリアルサウンドで書いたので、音源になったらじっくり聴いてもう一度ちゃんと書くべきだろうと思った、というのもあります。(文=兵庫慎司)