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Perfumeの新アルバムはなぜ“稀有な音楽体験”を生むのか レジーの『COSMIC EXPLORER』徹底考察

2016年04月12日 16:51  リアルサウンド

リアルサウンド

Pefume『COSMIC EXPLORER』

・チームPerfumeが完成させた一大絵巻物『COSMIC EXPLORER』


 Perfumeの約2年半ぶりとなるアルバム『COSMIC EXPLORER』のリリースが発表になった時、来たるべき新作への期待と同じくらい、もしくはそれ以上に強く感じたのが「収録曲の大半を占める既発曲をどのように処理するのか」ということである。


 コンスタントにメディアへの露出を続けるPerfumeにとって、リリース済みのシングル曲が「貯まっていく」ことは必然的なものであり、その結果としてアルバムにおける「純然たる新曲」のシェアは相対的に低くなる。前作『LEVEL3』、前々作『JPN』においても同様の傾向は見られたが、これらの作品においてはアルバム用のミックスが施された既発曲群のつなぎによって目新しさや驚きを担保するという工夫があった(『LEVEL3』では「Spring of Life」~「Magic of Love」、『JPN』では「レーザービーム」~「GLITTER」という既発曲のアルバムミックスでの流れはかなりのインパクトだった)。『COSMIC EXPLORER』においてもそのような形式をとっているのかな、というのがこのアルバムを聴く前に何となく予想していたことだった。


 そして、この予想は大きく裏切られることになる。『COSMIC EXPLORER』は「既発曲がアルバムバージョンでかっこよくなった」というレベルの話で語れるようなものではない。このアルバムは、既発曲と新曲が混然一体となって繰り広げる「一大絵巻物」である。各々の楽曲にはこの作品における明確な役割が割り振られており、過去にリリースされた状態のまま収録されているナンバーであっても以前と全く聴こえ方が異なるという稀有な音楽体験を堪能できる。


 タイトルに「宇宙」という言葉が冠されたこの作品は、近未来的なインスト曲「Navigate」とSF大作映画のオープニングを思わせる「Cosmic Explorer」で幕を開ける。どこか切なげなメロディラインが耳に残る「Miracle Worker」、もしくは中田ヤスタカ流フューチャーファンクとも言うべき「Next Stage With You」を経て(「Mircle Worker」は『LEVEL3』収録の「Clockwork」の、「Next Stage With You」は『GAME』収録の「セラミックガール」のアップデート版とも呼べそうである)、5曲目の「STORY」でこのアルバムは最初のピークへ。2015年の『サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)』や『LIVE 3:5:6:9』では半透明のスクリーンを駆使した演出で観衆の度肝を抜いたこの楽曲が、冒頭4曲による洗練された世界を大きなカオスに引きずり込む。


 「STORY」に続いて収録されているのが、映画『ちはやふる』の主題歌として先行リリースされていた「FLASH」のアルバムミックス。鍵盤を強調した大胆なハウスアレンジをまとったこの楽曲が放つ強烈な生命力と「STORY」が提示する混沌のコントラストは、『COSMIC EXPLORER』で描かれるシナリオに引きつけると「宇宙の混沌から地球が誕生し、そこに新たな生命が生まれる」という壮大な物語とでも言うべきか。最初のサビ後の間奏で訪れる爆発的な盛り上がりは、地球上のすべての生物を賛美するかのような神々しさに溢れている。

 「FLASH」以降はここ数年リリースされたシングル曲が数多く配されているが、特に印象が変わったように感じたのが「Relax In The City」(シングルリリース時と同じバージョンを収録)。昨年春に初めて聴いた際には少し地味に感じたこの楽曲が、『COSMIC EXPLORER』の中ではハイファイな展開における一服の清涼剤としてなくてはならないものになっている。中田ヤスタカはいつの時点でこのアルバムの設計図を完成させていたのだろうか? Perfumeの作品について彼が語ることは少ないが、そんな興味を持たずにはいられない。

 「時代はパッケージからライブへ」という掛け声がここ数年で音楽業界に完全に定着し、Perfume自身もテクノロジーを駆使したライブパフォーマンスがグループの代名詞となりつつある。そんな状況において、彼女たちがCDアルバムという旧来型のフォーマットにおいて宇宙や生命の神秘すら感じさせるスケールの大きな作品を作り上げてくれたというのは嬉しい驚きだった。ただただ「恐るべし」の一言である。


・音楽シーンの旅、世界の旅、そして宇宙の旅


 前作『LEVEL3』から今作『COSMIC EXPLORER』までの約2年半の間の活動を振り返ると、「Perfumeの輪」とでも言うべきキーワードが浮かび上がる。


 国内においては2014年に『Perfume FES!! 2014』として全国で対バンライブを行ない、東京スカパラダイスオーケストラから9nineまで様々なタイプのグループとの共演を果たした。また、2015年2月の『MUSIC JAPAN』(NHK総合)、2015年9月の『Perfume FES!! 2015 ~三人祭~』におけるNegiccoとの邂逅も話題となった。さらに、2015年10月には『アメトーーク!』にて「祝15周年!! Perfumeスゴイぞ芸人」が放送され、サバンナの高橋茂雄やハリセンボンの近藤春菜といった芸能界におけるPerfumeファンが集結した。クラスターごとの細分化がさらに進みつつある昨今において、「ロックバンドではないがロックフェスの常連である」「アーティスティックなアウトプットをこなす一方で芸能人としてもテレビに出る」という形でクラスター間の「ハブ」となり得る彼女たちの存在はますますユニークなものになっている。一方で国外においても2014年に3度目となるワールドツアーを敢行し、初のアメリカライブも実施。前述の『SXSW』も含めて、海の向こうでの支持をさらに広げつつある。


 「Perfumeの輪」を広げることに費やされた近年の活動は、ある意味では「旅」とも言いかえることができる。日本全国もしくは海外に実際に足を運ぶということだけでなく、音楽シーンの様々な場所に足を踏み入れて仲間を増やしていく過程も「旅」のようなものだと言って差し支えないだろう。旅をすることの醍醐味は、未知のものに接することで改めて自分自身の価値観や存在意義を問い直すことにある。そんな形で過ごしてきた彼女たちの2年半の道筋と「宇宙を旅して新しい生命に出会う」という『COSMIC EXPLORER』の世界はリンクしているし、そのつながりが今作の持つ説得力を増幅させている。


・道なき道のその先へ


「「コズミック」っていう単語は、みんなから「Perfumeっぽい言葉」だと思われがちなんですけど、実は今までの曲で使ったことはないんですよ。「Perfumeってロボットダンスの人ですよね?」ってよく言われるけど実際はやったことがない、みたいな感じで。だから私たちの中では、「コズミック」はちょっと口にするのが緊張する言葉というか、今まで大事にしまってあった言葉というか。」
(ナタリー http://natalie.mu/music/pp/perfume11


 今作のタイトルに使われている「COSMIC」という言葉についてあ~ちゃんはこう語っているが、アルバム冒頭で「Perfumeっぽい言葉」とあえて向き合い、そこからナチュラルな響きを持った楽曲が揃った終盤に進むという流れは、「近未来型アイドルユニットが大人の女性として成熟していく過程」というPerfumeのメジャーデビュー後の足跡をトレースしているとも言える。つまり、『COSMIC EXPLORER』は宇宙の旅というモチーフを使ってここ数年のPerfumeの活動を俯瞰するとともに、Perfumeというグループの「これまで」を総括した作品として位置づけることも可能ではないだろうか。


 『COSMIC EXPLORER』のラスト3曲は「Pick Me Up」「Cling Cling」「Hold Your Hand」。グループの「これまで」を総括した作品のラストは「一緒に新しい世界へ」「手をつなぐ」というメッセージで締めくくられている。結成15周年とメジャーデビュー10周年という区切りのタイミングを経て自分たちが今までたどってきた道を振り返るとともに、今や世界中に存在するファンたちと手を取り合って進んでいこうという意思表明が鮮やかになされた今作。まずはこのアルバムが5月からの全国ツアーにおいてどのように具現化されるのかを楽しみにするとともに、そのパフォーマンスが8月からの北米ツアーにおいても高く評価されることを期待したい。その先には、彼女たちの現時点での目標であるマディソン・スクエア・ガーデンでのライブがきっと待っている。(レジー)