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映像音楽における「転調」は、ポップスの「転調」とどう違う? 人気アニメ『Free!』などを例に解説

2016年04月11日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『TVアニメ Free!オリジナルサウンドトラック Ever Blue Sounds』

 音楽には「転調」という言葉がある。ただし、映画、テレビドラマ、アニメーション、アニメーション映画などの「劇が存在する映像作品」で流れる背景音楽、いわゆる『劇伴』の転調は、ポップスに使われている転調とは違った意味を持っている。今回はそんな「劇伴における転調」に焦点を当て、解説していきたい。


 音楽全般における「転調」とは、その名の通り「曲の途中でキーを変えること」であり、「各音の相対的な音程関係を変えずに別の高さに移す」ことや、「旋法の種類を変える」ということ。分かりやすい例として、ピティナ ピアノ曲事典(http://www.piano.or.jp/enc/pieces/1284/)の「モーツァルト/ピアノ・ソナタ第11番イ長調(トルコ行進曲付き) 第3楽章」(https://youtube.owacon.moe/watch?v=SE0blG42YTU)を元に解説すると、楽曲はa-mollで始まるが、42秒の部分で一旦同主調のA-durに転調するといったものだ。


 しかし、劇伴の「転調」は、キーに関係なく「音楽の雰囲気を変える」ことも一つの定義とされている。たとえば「田舎の一軒家、真夏に窓を開けて家の中でごろごろしていたら、 いきなり蛇が入ってきて大騒ぎ」というシチュエーションに音楽をつけるとすると、ごろごろしているシーンは穏やかな曲をつけるが、家の中に入ってきた蛇を見つけた瞬間に「緊迫したものや驚いたようなもの」などに変えるのが一般的だろう。この変わり目が映像音楽における「転調」であり、多くの場合は、この音楽の変わり目に「アクセント」となる音楽や効果音がつくことが少なくない。


・映像音楽における「転調」が効果的に使われた人気アニメーション


 実際に映像音楽における「転調」の手法が用いられた作品の具体的な例として、2013年第1期放送、2014年第2期放送、2015年アニメーション映画化と話題となった、高校水泳部を描いた青春アニメ『Free!』を例に説明したい。このアニメーションの第1期より最終話の一場面で映像音楽における「転調」の手法が用いられている。


 メインキャラクターの一人である松岡凛が、大会でのリレーメンバーから外され、フリー競技でも結果が出せずに自分への苛立ちを募らせた結果、本作の主人公である七瀬遙に感情をぶつけてしまい取っ組み合いになるが、「For the Team」と地面に掘り記された文字を見たことでクールダウンするという場面。感情をぶつけているシーンでは、比較的アップテンポの緊迫した楽曲が流れているが、感情のおさまりと共に穏やかな曲想に変化する。この曲想の変わり目が、映像音楽における「転調」であり、アニメ内の「緊迫感」と「友情の確認」といった場面を自然な流れで表現した例だ。


 今回の映像音楽における「転調」は、「楽曲を終わらせることによる終止感を出さずに、同一の楽曲の中で映像のシーンの変化に合わせて表現を変えられる」という利点があり、数多くの映像作品で用いられている。今回の記事を参考に、劇伴の表現にも興味を持っていただけたら幸いだ。(高野裕也)