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沖田修一監督が語る、オールロケで挑んだ『モヒカン故郷に帰る』撮影秘話「人も小道具も現地調達でした」

2016年04月10日 15:42  リアルサウンド

リアルサウンド

『モヒカン故郷に帰る』(c)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

 2009年の商業デビュー作『南極料理人』以降、『キツツキと雨』(12)『横道世之介』(13)『滝を見に行く』(14)と、精力的に作品を発表し続けている沖田修一監督の最新作『モヒカン故郷に帰る』が、本日4月9日より全国拡大公開された。結婚報告のため、妊娠した恋人・由佳を連れ、7年ぶりに実家に帰ったモヒカン息子の田村永吉が、帰省中に病に倒れガンを宣告された父・治に、最後の親孝行を果たす模様を描いた本作。リアルサウンド映画部では、メガホンを取った沖田監督にインタビューを行い、製作の背景や撮影のエピソードを語ってもらった。


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■「父親と息子、男同士の笑える関係を映画で描きたかった」


ーー『滝を見に行く』以来、約2年ぶりのオリジナル脚本の監督作です。どのような経緯で本作を手がけることになったのでしょうか?


沖田修一監督(以下、沖田):台本自体は10年ぐらい前に書いていて、プロデューサーの佐々木(史朗)さんと、いつかやりたいねっていう話をしていたんです。その間に何度か書き直しもしたんですけど、タイミングが合ってじゃあやろうという話になってから、もう一度イチからちゃんと考え直してっていう感じでした。


ーー息子と父親の関係を描くというテーマは最初から決まっていたんですか?


沖田:そうですね。久しぶりに帰郷した息子が父親を看取るという話をちょっとコミカルに撮るということは、最初から軸に考えていたような気がします。


ーー製作が発表された時に「バカバカしいコメディにしたい」というコメントを出されていましね。


沖田:いやぁ、あれは言い過ぎたなと思っていて(笑)。でも父親と息子の男同士の感じって、傍から見たら笑えるところがあるじゃないですか。それが面白いなと思っているんです。それこそ、家族の誰かが病気をした時ぐらいにしか話をしない。もちろん、みんなで仲良く話したり連絡を取り合ったりする家族もいるとは思うんですけど、息子の立場からすると、特にお父さんとはあまり話すことがないなと思っていて。だから、そういう状況になった時にどうするのか。その面白さを映画でやりたかったんです。


ーー松田龍平さんと柄本明さんがその“面白さ”を見事に出されていたと感じました。


そうですね。僕もこれまで松田さんと柄本さんが出演されている作品を観てきて、お二方ともすごく好きな俳優さんだったので、それぞれの役を演じてもらえるのは、こんなに嬉しいことはないなと思いました。柄本さんはどんどん病弱になっていく役柄なのに、最初すごい元気だったので、ちょっと元気すぎやしないかとも思ったんですけど、柄本さんが流れを考えてうまくやってくれてたんだなっていうのが最終的にわかって。終盤のシーンでは、柄本さん演じる治の病弱さがあまりにもハッキリ伝わってくるようなヨリのカットも撮ったんですけど、このシーンを使うと本当に泣きそうになってしまうということで、結局使わなかったシーンもあるほどでした。


ーー冒頭で松田さんがライブハウスのステージで叫ぶ姿と柄本さんが病院のベッドで叫ぶシーンが対比になっていますよね。


沖田:よく気付かれましたね。あれも意図してやったんですよ。ただ、まさか柄本さんが起き上がるとは思っていなくて(笑)。“嘘みたいに死ぬ”ってよく言いますけど、死んだことがある人なんていませんし、答えがわからないので、柄本さんに「嘘みたいに死んでほしいです」っていう話をしていたんですよね。そうしたら、リハーサルの時に柄本さんが起き上がったので、僕もちょっと笑っちゃって。「これいいのかな? やりすぎじゃないのかな?」とも思ったんですけど、自分が言い出したことですし、結局そのまま使いましたね。


ーー『南極料理人』(09)『滝を見にいく』(14)に続いて、芦澤明子さんが撮影を担当されています。今回どういう画作りにするか、具体的な方向性はお話されたりしましたか?


沖田:これまでは、カメラを引いて、起きている事柄を客観視するような画を割と好んで撮っていたんです。でも今回は、もう少し人の中に入っていく映像にしようということを芦澤さんと話しました。カメラを引いて人物を撮るのは避けたいですねという感じで、これまでとは考え方がちょっと違っていましたね。


ーー沖田監督の作品は毎回食事シーンが話題になります。今回も魅力的でしたね。


沖田:あ、でも食事のシーンは結局引いていますね(笑)。僕の映画は食事シーンのことを言われることが多いんですけど、実際はあまり考えていないんですよ(笑)。でも今回、煮物のシーンにはこだわりがありました。麺つゆを入れておけば、なんとなく何でも美味しくなるというか、田舎の料理って麺つゆのイメージがあったので、母親役のもたい(まさこ)さんに麺つゆを持たせたくて(笑)。もたいさんが前田(敦子)さんに「料理なんて麺つゆをいれとけばなんとかなる」と言うシーンは、僕も観ていて素敵だなと思いました。


ーー前田敦子さん演じる由佳の独特のキャラクターも印象的でした。


沖田:ちょっと抜けてるんだけど、基本的に明るくていい子なので、映画の中での“救い”ですね。由佳がいてくれてよかったなと思える、一大事にも明るさを保ってくれる存在として、あのようなキャラクターにしました。まあ普通だったら東京に帰りますけどね(笑)。でもたまにいるんですよ、別に悲しくもないんだけど、雰囲気で泣いちゃうような女の子って。前田さんはそのイメージをうまく出してくれました。


■「オールロケは大変だったけど、助かったこともたくさんあった」


ーー細野さんの主題歌「MOHICAN」やあらかじめ決められた恋人たちへの池永正二さんの音楽も作品の雰囲気にピッタリでした。


沖田:細野さんが曲を書いてくれるなんて夢のようでしたね。音楽プロデューサーの安井(輝)さんと、主題歌は男の人の歌がいいんじゃないかという話をしていた時に、たまたま細野さんがカントリーバンドをやっているって聞いたんですよ。その感じが映画の雰囲気に合うなと思って、冗談半分で「細野さんが『モヒカン~』なんて唄ってくれたら爽やかでいいなぁ」と言ったら、本当にそうなったんです。ダメ元で聞いてみたら実際にやってくれることになったので、ビックリしましたね。音楽を担当してくれた池永さんは、以前から知り合いで。僕は海辺の町を舞台にした映画の音楽が好きなんです。あら恋のピアニカとかの音楽の曲調ってまさにそういう感じですし、親子のシーンにすごくハマると思ったんですよね。最初は、松田さん演じる永吉がボーカルの断末魔というバンドのプロデュースというか、曲周りやメンバーの選定だけをお願いしようとしていたんですけど、結果的に全部お願いすることになりました。


ーー今回、広島の四島でオールロケをされていますね。広島を舞台に選んだ理由はなぜですか?


沖田:台本を書いている段階で、帰郷の話だとしたら、帰りたくなくなるぐらいに距離感があって、遠い場所がいいなと思ったんです。そう考えた時に、じゃあ“島”だなと。海辺の雰囲気や穏やかな町のイメージが湧いたので、そういうイメージがある瀬戸内海を中心にロケハンをし始めました。広島の四島に決めたのは、観光地という感じがなく、どこにでもあるような町の雰囲気がすごくいいなと思ったからです。


ーー広島カープや矢沢永吉さんなど、広島を象徴するようなものもたくさん出てきます。


沖田:広島の雰囲気を出すためにどうすればいいかはいろいろと考えました。台本を書いていた段階から、父親と母親に何か熱狂的に好きなものがあると嬉しいなともずっと思っていたんです。固有名詞を出すのはどうかとも思ったんですけど、カープや矢沢永吉さんって、もうそういう次元を超えている感じがあったので入れましたね。


ーーオールロケでの撮影は大変なこともたくさんあったのでは?


沖田:そうですね。ものもあまりなかったですから。でも、島自体が橋で本州とつながっているので、車で簡単に行けちゃうんです。宿泊先も島からちょっと出たところで、数は少ないけどコンビニとかもあって。とは言っても、海でぼーっとしてた記憶がありますね(笑)。撮影に関しては、やっぱり地方ということもあって、東京から人を呼んでくるということが基本的にできなかったんです。だから、人はもちろん小道具とかも現地調達でした。特に吹奏楽部の子たちに関しては、普通の映画だったら事務所に所属する東京の子役たちで固めることが多いと思うんです。でも今回、ほとんどが島の近くの学校に通っている子たちで、島の人たちにもエキストラで出演してもらいました。もちろん大変だったこともいろいろあるんですけど、助かったこともたくさんあって、すごくいい経験になりました。そういうところにも注目してご覧いただきたいですね。(宮川翔)