2016年04月09日 17:01 リアルサウンド
三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEの最新アルバム『THE JSB LEGACY』が、4月11日付けオリコン週間アルバムランキングで初登場1位を獲得した。初週売り上げは47.6万枚。現時点で2016年最大のセールスを達成している。
筆者は当サイト上でチャート分析コラムを長らく執筆しているのだが、基本的なスタンスとしては「ヒットしているものには、ちゃんとその理由がある」と考える派だ。「売れている=いい音楽」としてしまうと短絡的に過ぎるが、それでもヒットの背景にはそれを支えるクリエイターたちの手腕があると思っている。
そして、三代目JSBに関して言えば、ブレイクポイントになった曲は明らかに前作アルバム『PLANET SEVEN』に収録された「R.Y.U.S.E.I.」だった。2014年の夏にリリースされたにもかかわらず各種チャートで2015年の年間ランキング1位に輝く異例のロングヒットを記録したこの曲。そこでソングライターのSTYとMaozonの果たした役割は大きかったはず。リリース当時にもこの曲について書いていたが、その時は、まさかここまでのロングセールスになるとは思っていなかった。(参照:EXILEファミリーと同人音楽の「接点」とは? チャート1位の三代目JSB新曲から読み解く)
では、今回のアルバム『THE JSB LEGACY』はどこを狙って作られているのか。制作陣のクレジットと共に、アルバム全曲に込められた意志を読み解いていこうと思う。
・M1.Feel So Alive
作詞:michico, CRAZYBOY、作曲:T.Kura, michico, CRAZYBOY、編曲:T.Kura
アルバムのリード曲は、アメリカ南部発祥の音楽ジャンル、トラップを大々的に導入したナンバー。サビの部分で独特のつんのめるようなリズムが用いられている。BaauerやFlosstradamusあたりを聴けば、この曲のインスパイア元を辿ることができるだろう。
もともとEDMともヒップホップとも親和性の高いジャンルであるトラップは三代目JSBにもハマるタイプのサウンドではあるのだが、これをリード曲に選び、CMのタイアップもつけて大々的に押し出す戦略は相当に挑戦的だ。ブレイクを果たし勢いに乗る今の彼らの“売れ線”は「R.Y.U.S.E.I.」っぽいPOP EDMのはず。しかし、あえて今まで挑戦したことのないジャンルをJ-POP化することを選んだ彼らの姿勢をこの曲が象徴している。
プロデュースは安室奈美恵やEXILEなど数多くのアーティストを手掛け日本のR&Bシーンを支えてきたT.Kura・michico夫妻によるもの。トラップの本場アタランタ在住のプロデューサーだけに、サウンドの持つ説得力もかなりのもの。
・M2.STORM RIDERS feat.SLASH
作詞:TAKANORI(LL BROTHERS), ALLY、作曲:ZETTON, SHIKATA, CHRIS HOPE
昨年リリースのシングル曲には、元ガンズ・アンド・ローゼス、現ヴェルヴェット・リヴォルヴァーのスラッシュが参加。ハードロック界を代表する世界的なギタリストとコラボし新境地を開拓した一曲だ。ただ、ミュージックビデオの世界観があまりにも映画『マッドマックス 怒りのデスロード』を彷彿とさせる仕上がりになっているため、あのヘヴィなギターリフをドゥーフ・ウォリアーが弾いてるかのような錯覚がしてきてしまったりもする。
・M3.Summer Madness(feat. Afrojack)
作詞:STY、作曲: Afrojack, STY
こちらも昨年リリースのシングルで、M2とM3はいわば「海外大物コラボシリーズ」。EDMシーンを代表するアーティストであるアフロジャックがトラックを手掛け、「R.Y.U.S.E.I.」を手がけたSTYがトップライン(=歌詞とメロディー)を付けることで生み出された一曲だ。
サビに歌がなく、ビルドアップからのドロップを印象に強く残るシンセサイザーのメロディーだけで進行していくタイプの楽曲は、POP EDMのシーンにおいては一般的なスタイルだ。それでもJ-POPのメインストリームではまだまだ数少なかったがゆえに、そういう曲でもヒットしうることを示したのは三代目JSBの功績と言えるだろう。
・M4.Share The Love
作詞:HIRO(Digz inc.)、作曲:HIRO, Dirty Orange
THE Sharehappi from 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE名義でリリースされたポッキーのCMソング。ここでは「Summer Madness」での「サビに歌がない」手法をより確信的に進めている。アフロジャック節のシンセフレーズをサビにしている「Summer Madness」に対して、CMでもフィーチャーされたこの曲のサビは茶目っ気あるホーン・セクション。POP EDMならではの上昇感あるビルドアップとは対称的だ。
・M5.BREAK OF DAWN
作詞:Amon Hayashi for Digz, Inc. Group、作曲:CHRIS HOPE, COMMAND FREAKS, J.PRAIZE
映画『テラフォーマーズ』主題歌。ハードなシンセを全編に配し過激なサウンドを貫くこの曲はブロステップのJ-POP化と言える。ただ、シーンを代表するアーティストのスクリレックスがジャスティン・ビーバーのプロデュースを手掛け次のステージに行った今となっては、ちょっと前のスタイルという印象。
・M6.Unfair World
作詞:小竹正人、作曲・編曲:Mitsu.J for Digz,Inc.Group
映画『アンフェア the end』の主題歌に起用されたバラード・ナンバー。作曲はD-LITE(from BIGBANG)の「Rainy, Rainy」なども手掛けたMitsu.Jで、ピアノ主体のミディアム・バラードは彼の得意とするところだろう。作詞は小竹正人。インタビューでも語ってるが(参照:http://realsound.jp/2015/04/post-3094_2.html)、LDHに所属する作詞家である彼はデビュー当時から三代目JSBの歌詞を担当し、メンバーとの親交も深いクリエイターだ。
・M7. Dream Girl
作詞:TAKANORI(LL BROTHERS), ALLY、作曲:T-SK, MoonChild, SIRIUS, BIG-F
ホーン・セクションのループを基調に組み上げられたR&Bナンバー。音数を抑えてネオソウルっぽいセクシャルさを醸し出すヴァースから、アジーリア・バンクスあたりの最近の女性ヒップホップを思わせるサビへの展開がポイント。
・M8. Over & Over
作詞:Masaya Wada、作曲:T-SK, SIRIUS, MoonChild
今市隆二のソロ歌唱曲。これもホーンを活かしたファンク・チューンで、これもいわばファレル・ウィリアムス「ハッピー」以降のR&B/ポップ・ミュージックのトレンドを捉えたサウンドと言えるだろう。M7とM8の2曲は共に「脱POP EDM」を企図する「ちょっと大人なR&B」シリーズで、共にT-SK、SIRIUS、MoonChildというチームがコライトしている。
・M9. Beautiful Life
作詞:Hiroomi Tosaka, Kouta Okochi、作曲:FAST LANE, ERIK LIDBOM
登坂広臣が作詞を担当したミドルテンポのダンス・ポップ。AメロからBメロ、サビへの展開がハッキリとした曲展開は、このアルバムの流れの中で聴くとかなり「J-POPオリエンテッド」な匂いがする。作曲のクレジットはFAST LANEとERIK LIDBOMによるもの。ERIK LIDBOMは嵐、EXILEを筆頭に数々のJ-POPのヒット曲を手掛けてきた作曲家。
・M10. starting over
作詞:小竹正人、作曲:FAST LANE, MATS LIE SKARE, 220, BCHO
昨年の全国ツアーのテーマソングとして用いられたバラードナンバー。こちらも「Unfair World」と同じく小竹正人が作詞を手掛けている。サウンドのスタイルよりも歌詞の意味や歌に込める情感がフィーチャーされることの多いバラードに関しては、LDHに所属しメンバーの信頼も厚い彼が言葉を担うことが多いのだろう。地球規模の壮大なロマンをテーマにした一曲となっている。
・M11. J.S.B. DREAM
作詞・作曲:STY
アルバムのリード曲「Feel So Alive」と同じくトラップを取り入れたナンバー。この曲は作詞・作曲ともにSTYのペンによるものだが、得意のPOP EDMではなくヒップホップのルーツを感じさせるもの。「R.Y.U.S.E.I.」のイントロのシンセフレーズがところどころに引用されてイヤーキャッチの役割を果たしている。
・M12. Born in the EXILE
作詞:RYUJI IMAICHI, HIROOMI TOSAKA、作曲:T-SK, MoonChild
今市隆二と登坂広臣が作詞を手掛けたドキュメンタリー映画『Born in the EXILE ~三代目 J Soul Brothersの奇跡~』主題歌。オーセンティックなR&Bバラードで、「starting over」と同じく、こちらも歌詞がポイントだろう。一般的には、こういったタイプの楽曲では色恋をテーマにしたものが多いのだが、この曲はファンへの思いを込めて書かれたという。それが「感謝」と「自己実現」のストーリーになっている。二人のハーモニーで「愛をありがとう 夢をありがとう」「綺麗に輝いてる 未来を信じて進んだ」と歌われる。夢や希望という大振りなテーマを、メタファを使わずに、そのままの言葉で記す。
そのピュアネスをストレートに感動的と捉えられるかどうかが、ファンダムの内側と外側を隔てる壁になっていそうな気がする。
・M13.銀河鉄道999(三代目 J Soul Brothers ver.)
作詞:奈良橋陽子、山川啓介、作曲:タケカワユキヒデ、編曲:Maozon for Digz, Inc. Group
ボーナストラック的におさめられたのは、ゴダイゴ「銀河鉄道999」のカバー。「三代目 J Soul Brothers ver.」となっているのは、過去にEXILEがやはりこの曲をカバーしていることを踏まえてのネーミングだろう。編曲はSTYと共に「R.Y.U.S.E.I.」を手掛けブレイクの立役者となったMaozonだ。
こうして全13曲を聴くと、改めて、アルバムは「挑戦」と「継承」のバランスから成り立っていることがわかる。前者は、海外のブラック・ミュージックやダンス・ミュージックの最先端の音楽ジャンルをJ-POP化する試み。後者はいまやEXILEファミリーの若頭的な位置を担う今の三代目JSBが、先達から続く物語性を引き継ぐという試み。いわば「攻め」と「守り」とも言える。
グループ自体にとりたてて思い入れがあるわけではない筆者としては、前者の音楽的挑戦はとても興味深く思える一方で、後者が象徴する体育会系的な上下関係を元にした世界観には距離をとってしまうのが正直なところ。とは言えLDHの長期的な戦略を考えると、きっとこの先「四代目」「五代目」と続くであろうJSBのストーリーにおけるブランディングはとても巧みだと思う。
ともあれ、「挑戦」も「継承」も、どちらもトップスターとなった今の彼らだからこそ背負える役割なのは間違いないはずだ。(柴 那典)