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トゥイーディが家族や音楽仲間と作った濃密なライブ ジム・オルークも登場した初来日公演レポ

2016年04月08日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

トゥイーディ(写真=KAZUMICHI KOKEI)

 ウィルコのフロントマン、ジェフ・トゥイーディとその息子スペンサーによるバンド、トゥイーディの初来日公演が3月30日、恵比寿LIQUIDROOMにて開催された。


 ステージにはジェフとスペンサーに加え、リアム・カニンガム(ギター、キーボード、コーラス)、ダリン・グレイ(ベース)、ジム・エルキントン(ギター、コーラス)が登場。リアムはスペンサーの友人であり、ジェフがプロデュースを務めたバンド、キッズ・ジーズ・デイズの元メンバー。ダリン・グレイはジム・オルークやウィルコのドラマー、グレン・コッツェとの共演でも知られるシカゴの重鎮で、ジェフの幼馴染でもある。そしてジムは、ドーン・ギブソンやリチャード・トンプソンのアルバムに参加経験のある人物。つまり全員が気心の知れた「地元の音楽仲間」というわけだ。


 ライブの前半は、2014年にリリースされたトゥイーディの1stアルバム『スーキーレイ』から。ダリンとお揃いの白いテンガロンハットを被ったジェフは、黒縁のメガネにデニムの上下という出で立ちで、1曲ごとにアコギやエレキギターなど楽器を持ち替えつつ歌っていく。以前、ウィルコで来日した時より(体型も、性格も?)さらに丸くなったからか、それとも息子とステージに立つことへの喜びで心が満たされているからか、終始にこやかな表情を浮かべていたのが印象的だった。オーディエンスとのやり取りなども気さくに応じ、ジョーク交じりのMCをするたび会場は大きな笑いに包まれた。


一方、息子のスペンサーは低めのポジションにセッティングしたドラムを、鮮やかなスティックさばきで打ち鳴らしていく。そのクールな佇まいや、背筋をピンと伸ばした姿勢には時おりグレン・コッツェの姿がオーバーラップする。それもそのはず、幼い頃からグレンの手ほどきでドラムを始めたスペンサーは、7歳で自分のバンドを持つなど恵まれすぎるほどの環境で育ってきたのである。名うてのシカゴ音楽家たちに囲まれながらも、まったく動じることなく自らグルーヴを作り出し、バンドをぐいぐい引っ張っていく姿はとにかく頼もしい。


 まるでツイン・ドラムのような、複雑なパターンを繰り出す3曲目の「Diamond Light, Pt.1」で、この日の最初のピークが訪れた。トレモロアームを駆使したギターのフィードバックが唸りを上げると、オーディエンスから歓声が湧き上がる。ザクザクとアコギをかき鳴らし、跳ねるリズムの上でハッピーサッドなメロディが踊る「Summer Noon」を挟み、再び「World Away」でカオティックなノイズ合戦を繰り広げるなど、緩急自在のアレンジによって会場の空気を完全にコントロールしていた。


 続く「New Moon」からは、やはりシカゴ在住のシンガー・ソングライターであるシーマ・カニンガムも加わった。「High as Hello」ではジェフとオクターヴ・ユニゾンのハーモニーを披露。ヒネリの効いたコード進行の上で、幾何学的なギター・フレーズがレイヤーされていく。「Low Key」の掛け合いファルセットコーラスも、とにかく楽しそうで思わずこちらも口ずさんでしまう。


 「Nobody Dies Anymore」の演奏が終わると、メンバーがステージを去りジェフの弾き語りコーナーに。ハーモニカホルダーを組みから下げた彼が、おもむろに「Via chicago」のコードを弾き始めると、フロアからは大きなどよめきが起きた。さらに「I Am Trying To Break Your Heart」、「Jesus, Etc.」と、ウィルコの“ライブ定番ソング”を次々と披露。もちろん、こうなる展開は予想してたし期待もしていた。今夜だっていつものように、「Jesus, Etc.」でシンガロングができるよう事前に歌詞を確認してきた。が、実際にそれを目の当たりにすると、グッと込み上げるものがある。アコギ1本で聴くと、まるでその曲が産み落とされた瞬間に立ち会っているような、そんな気持ちにさせられるのだ。
 
 「Shot In The Arm」の大合唱のあと再びバンドがステージに戻ってくると、そこにはトゥイーディ家の次男坊サミーの姿が。百戦錬磨で余裕綽々のスペンサーとは対照的に、ガチガチに緊張した表情で突っ立っている姿がなんとも微笑ましい。ところが、ビッグスターの名曲「Thirteen」を彼が歌い出した途端、その美しい歌声に、会場にいた誰もが息を飲んだ。今回のツアーは、ジェフの妻スーザンも帯同しているという。トゥイーディのアルバム『スーキーレイ』は、彼女の癌治療と並行してレコーディングがおこなわれ、その時点でトゥイーディとは「家族プロジェクト」となったわけだが、今、こうして自分の息子たちが夫とともにステージに立っている様子を、彼女はどんな気持ちで見ていたのだろうか。


 ニール・ヤングのカヴァー「The Losing End」のあと、ジェフがプロデュースしたメイヴィス・ステイプルズのアルバム『You Are Not Alone』(2010年)より、「Only The Lord Knows」で本編は終了。そしてアンコールではなんと、ジム・オルークがステージに! ウィルコの2002年のアルバム『Yankee Hotel Foxtrot』にゲスト参加するなど、かねてから親交の深かった彼が出てきてくれることも、正直、期待はしていたのだが、まさかルース・ファー(ジェフ、オルーク、グレンによるプロジェクト)の曲をやってくれるとは。しかも2曲も。大ラス「Laminated Cat」では、ジェフ、オルーク、エリキントンのトリプルギターが、ヴェルベット・アンダーグラウンドばりのノイズを撒き散らし、割れんばかりの拍手の中で幕を閉じた。


 音楽の街、シカゴの一角で夜な夜な繰り広げられているであろう、トゥイーディ一家とその仲間たちによるジャム・セッション。その穏やかで親密な雰囲気を、そのまま再現したようなパフォーマンスに、ただただひたすら酔いしれた2時間だった。(文=黒田隆憲)