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『ちはやふる』、7位から4位に奇跡の上昇! 映画興行における口コミ効果を改めて考える

2016年04月08日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016映画「ちはやふる」製作委員会 (c)末次由紀/講談社

 先週末、2週連続1位を獲得したのは『映画 暗殺教室 -卒業編-』。土日2日間の動員は33万5418人、興収は3億9347万1200円。公開初週との興収比も動員比も約62%と、下落率が高いのが少々気にはなるが、累計動員は早くも200万人を突破、累計動員も20億円を突破と好調を維持している。


参考:マンガ原作映画の新たな金字塔! 『ちはやふる』はどうしてこんなに「最高!」なのか?


 今週注目したいのは先々週末の7位から、公開3週目にして公開初週と同位の4位にまでジャンプアップした『ちはやふる -上の句-』の動きだ。作品の評判が良くて、それが口コミで広がって、公開から数週間経って興収や動員のランクが再浮上するというのは、映画興行において時おり見られる理想的な展開であるが、それが実写の日本映画、しかも300館規模の全国拡大公開作品でとなると、極めて稀な現象だと言ってだろう(ちなみに、同日公開で初週2位と『ちはやふる』をリードしていた『僕だけがいない街』は先週末7位だ)。というのも、シネコンでの上映が映画興行の中心となって以来、公開初週の動員が基準となって、その翌週から、上映回数やシネコン内におけるスクリーンのヒエラルキーにすぐに細かい調整が入るようになったからだ。つまり、初週にあまり観客が入らなかった作品は、当面ロードショーは続けられるものの、微妙に上映回数が減ったり、上映館のキャパが小さくなったりしていくのだ(だから、もし応援したい作品があったら、なるべく初週、それもできれば初週の週末に駆けつけてくださいね)。だからこそ、全国のシネコンでの上映が中心の『ちはやふる –上の句-』の今回のチャートアクションは快挙と言える。


 批評家や批評サイトが強い影響力を持っているアメリカと比べて、日本では作品に対する評価の高さが、そのまま興行の結果に結びつきにくいと言われている。しかし、たとえば昨年だけでも、公開直前からネットを中心に大きな話題となった『セッション』や、日本公開が遅れたことで公開前の盛り上がりはいまいちだった『キングスマン』のように、公開してしばらく経って、SNSや口コミでの評判によって動員や興収が伸びた例は少なからずある。そして、その口コミの発火点の一つとなったのは、やはり批評家のブログだったり、影響力のあるラジオ番組における批評だったり、批評サイトであったりしてきた。今回の『ちはやふる –上の句-』現象にも、少なからずそれらの影響はあったに違いない。


 ちなみに、2週連続3位とランキングをキープしている『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』だが、今週本国アメリカで大きな話題となったのは、同作の2週目における興収の下落率だった。公開1週目に約1億6600万ドルという歴代7位となる圧倒的なオープニング成績を記録した『バットマン vs スーパーマン』だったが、2週目の興収は前週比30.9%と大暴落。その下落率は『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』、『ニュームーン/トワイライト・サーガ』、『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1』に続く歴代ワースト4位と、こちらの方でも記録的な数字を残してしまった。本国での批評家の評判は芳しくなかったものの、原作やシリーズのファンが押し寄せて初週は爆発的なヒットとなった『バットマン vs スーパーマン』。しかし、2週目以降の成績には、批評や口コミが大きく影響したと見ていいだろう。


 言うまでもなく、大ヒットしている作品がいい作品だとは限らない。しかし、目を見張るようなロングヒットを記録したり、一回動員が下降した後にまた上昇するような作品には、それだけの理由があり、その原動力となっているのは昔も今も口コミの力なのだ。(宇野維正)