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The Cheseraseraの「よさ」をどう言語化するか? 柴那典が関係者アンケートから考察

2016年04月07日 20:21  リアルサウンド

リアルサウンド

The Cheserasera

「たとえばバカ騒ぎしたり楽しんだりした後って、帰り道のふとした瞬間に『何やってたんだろ……』って思ったりしますよね。そういう時に、僕らの歌が心に滑り込む隙がある。そういう場所に入っていけたらいいなと思います」


 2ndアルバム『TIME TO GO』をリリースした3ピースのロックバンド、The Cheserasera。およそ1年半前、1stアルバムの『WHATEVER WILL BE, WILL BE』をリリースした時に、全曲の作詞作曲を手掛けるフロントマン、宍戸翼はこんな風に語っていた。


 その後、2015年秋にリリースされたミニアルバム『YES』を経て、彼らの歌はぐんぐん色気と風通しのいい広がりを増してきた。ささくれだった焦燥感をストレートなギターロックのサウンドに乗せて放っていた初期の頃に比べても、『YES』収録の「賛美歌」や、今作のリード曲「ファンファーレ」など、“肯定”を一つのテーマにした楽曲は、みずみずしい開放感を持っている。


 そして、宍戸翼の顔立ちに、引き締まった気品のようなものが宿るようになった。メンバーの体調不良などいくつかのアクシデントを乗り越えてきた経験が、バンドの成長の背景にあるのだろう。


 ただ、それでも変わらないのは、彼らが「心の隙間」に染みるタイプの音楽を奏でている、ということ。


 奇抜なフックを売りにするタイプではない。フロアに一体感を提供するパフォーマンスを得意にするわけでもない。かと言って、ビートやサウンドの洒脱さを武器にするタイプでもない。


 スタイルとしては、オーセンティックな3ピースのギターロックである。孤独や、やるせなさや、それを振り切るような決意を描く歌詞の言葉が、冒頭に引用した宍戸翼の言葉にある通り「ふとした一人の瞬間」に刺さる。


 だから、デビュー以来、The Cheseraseraというバンドの音源を聴いたり、ライブを観たりしてきて、「いいなあ」と思いつつも、その「よさ」を上手く言語化できないでいた。わかりやすいキャッチフレーズでそれを束ねて共有するのは難しいなあ、と思っていた。


 なので、今回のコラムを書くにあたって、周囲に協力をあおぐことにした。僕と同じようにThe Cheseraseraというバンドに魅力と可能性を感じている人たちは、それを一体どんな風に語るだろうか。何に喩えるだろうか。レーベルのスタッフを通して、カメラマンやデザイナー、ラジオやテレビの制作者など、いろんな職種の人たちにアンケートをとってもらった。


 質問は二つ。Q1は「The Cheseraseraの好きなポイントは?」、そしてQ2は「同じようにそれを感じたり、連想する他のものは?」。音楽、小説、映画、ファッションなどカテゴリーにこだわらず一つを挙げてもらった。


 以下が、その回答。とても興味深い内容になった。


A1:「どこか懐かしさを感じる曲たち」
A2:「キクチタケオ氏が手がけていた頃のメンズ・ビギ」
(ジャケットデザイナー青屋貴行氏)


A1:「メロディーライン、3ピースとは思えない音圧、文学的な歌詞」
A2:「鈍行電車内から見える車窓風景(ノスタルジックな映像を想起させる)」
(某TVプロデューサー)


A1:「やるせない想いを、等身大の日本語ロックで表現。泥臭いけど、語感の良い言葉と良いメロディーで、疾走感・爽快感もある事。また、宍戸さん独特の<色気>・<味>・<深み>がある声で包んでくれる感覚や、日常の生活に寄り添ってくれるような感じが好きです」
A2:「作品によって内容や、声の種類は違いますが、個人的には、初期のくるりの岸田さんの歌を聴いた時のような感覚がします」
(@FM三輪徹氏)


A1:「今の音楽シーンにこそ必要な真摯でまっすぐなギターロックサウンド。
きっとどこかで誰かの心に深く響くと思います」
A2:「初期のBUMP OF CHICKEN」
(カメラマン伊藤彰浩氏)


A1:「行ったり来たりの人生をもがき、さ迷うような感じの歌詞とギミックの無いシンプルなサウンド」
A2「暗闇の先に光る微かな青い光」
(cross fm ディレクター岩村佳彦氏)


A1:「美しいメロディーと、美しい日本語の語感。ギターロックというジャンルにあり、バンドとしての激しさやエネルギーもさることながらその中に、必ず光る“美しさ”。The Cheseraseraの魅力を語る上で、“美”というのは、重要なキーワードだと思います。」
A2:四季。
この国には、偶然にも4つの季節があり、常にうつろいで行くわけですが、どの季節にも必ず、それぞれの美しさが感じられる。
そんな点で、共通する部分を感じる気がします。
(cross fm ナビゲーター コウズマ ユウタ氏)


A1:「宍戸君と西田君と美代君の3人が一緒にやれる事って、ケセラ以外に無いんじゃないでしょうか。The Cheseraseraというバンド自体が奇跡だと常々感じます。3人が好きです」
A2:「こんな3人みたいな友達が居た気がします。彼ら(The Cheserasera)と出会ったのは数年前なのですが、ずっと昔に知り合って、ずっと昔から友達だった気がします。曲を聴くたびライブを観るたび会話をするたび『馬鹿だなぁ。』『あーなんか照れるなぁ』といった感情が生まれます。連想されるものは、青春だと考えます」
(Zher the ZOO YOYOGI 後藤瞬氏)


 それぞれ観点は違うけれど、浮かび上がってくるのは「ノスタルジー」というキーワード。決してレトロなことをやっているわけではないけれど、彼らの真っ直ぐなギターロックは、それぞれの「あの頃の記憶」を呼び覚ますような響きを持っているのだろう。


 「青さ」というのもポイントだ。The Cheseraseraの楽曲が持つエモーションは、やるせなさや、煮え切らなさや、迷いや、そういう宙吊りな感情を根っ子にしている。今作『Time To Go』について宍戸翼は「出会いや別れ、決意の瞬間の曲達です」と語っているが、それも、不確定な未来を前にしたからこそ芽生えるような情感に彩られている。


 「センチメンタル・ギターロックバンド」という旗印を掲げる彼ら。そのセンチメンタリズムは、一人ひとりの「個」の感情に寄り添う所から生まれてくるものなのだろう。(文=柴那典)