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松田龍平はいつから“ゆるキャラ俳優”に!? 不安定かつユニークな特性が培われた背景

2016年04月06日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

 松田龍平は、クール、ミステリアス、無機質、孤高、冷静沈着といった形容詞が当てはまる、唯一無二の存在感を放つ俳優だ。ところが、4月9日から全国公開される沖田修一監督『モヒカン故郷に帰る』では、モヒカン頭のバンドマン役で主演を務め、今秋に公開が控えている北杜夫の児童文学原作の映画『ぼくのおじさん』では、哲学者で変わり者のおじさん役に初挑戦するなど、かつての硬派でシリアスなイメージから一転、最近では“ゆるキャラ”的な親しみやすさを備えたユニークな役柄を演じることが多くなっている。いったいどこで、松田龍平のキャラクターは変化したのか。


参考:Hey!Say!JUMP・山田涼介、『暗殺教室-卒業編-』で見せた役者としての成長と課題


 おそらく、松田龍平のイメージを大きく変えたのは、松尾スズキ監督のラブコメディ『恋の門』(2004年)だろう。三枚目に初挑戦した彼は、石で漫画を描く童貞の男という特殊な役で、コスプレをさせられたり、悔しくて走ったり、緊張して吐いたり、エッチを試みるも失敗ばかりのダメな男を演じ、その“ダサかっこいい”魅力を打ち出した。かの『大人計画』を率いる松尾監督の世界に入ると、その孤高さは偏屈さに、クールな佇まいは間抜けな頓馬に変換されてしまうのだ。視点を変えることで彼の面白さを発見したのは、松尾監督の観察力の成せる業である。その11年後に再びタッグを組んだコメディ映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』の舞台挨拶で松尾監督が、「いかにもコメディっぽい人を使うのは安っぽくなると思ったので、龍平君のようなコメディっぽくない人の方が落差があっておもしろいかなと」と、彼をキャスティングした理由を述べていたように、この“落差”こそが、役者としての大きな武器になった。


 伝説的俳優・松田優作の長男であり、1999年、鬼才・大島渚監督の遺作『御法度』で映画デビューを果たした松田龍平は、同作で新選組の男たちを虜にする美少年の剣士役を演じ、その色気と冷たい眼差しで注目を集めた。その後、不良高校生たちの痛々しくも鮮烈な日々を切り取った2002年の青春映画『青い春』では、同世代である新井浩文や瑛太といった俳優と共演し、映画界に新風を巻き起こす。その、あまりに“カッコいい”経歴があったからこそ、そのコメディ俳優ぶりはインパクトがあったのである。


 だが、昨今の松田龍平の役柄は、単に“かっこいいのが逆に面白い”というだけでもない。イケメンであることが笑いに繋がる例として、竹野内豊が缶コーヒー「Roots」のCMで演じる間の抜けたビジネスマンなどが挙げられるが、いまの彼の演技はそうしたタイプとも少々異なるのだ。


 “ゆるキャラ”の提唱者であるみうらじゅんが、その条件のひとつとして「立ち居振る舞いが不安定かつユニークであること」と挙げているように、どこか不安定さを感じさせるのも魅力のひとつである。彼は、2011年よりスタートした映画『まほろ駅前』シリーズで、瑛太演じる便利屋の多田啓介の元に転がり込んで来る同級生で、“小指を切断した”過去を持つミステリアスな男・行天春彦を演じた。便利屋を手伝うふりをして何にでも首をつっこみ、ヘラヘラしていると思いきや急にキレたりと、まったくつかみ所のない性格は、余計に松田龍平という人物をわからなくさせた。ユーモアと狂気の境が曖昧なところは、『探偵物語』の松田優作にも似ているように感じるが、松田龍平の方がより脱力した雰囲気である。


 一方で、30代になった松田龍平は、その演技に独特の繊細さも湛え始めている。2013年の石井裕也監督『舟を編む』では、真面目で人見知り、編集部で十数年ひたすら辞書作りに励む男を丁寧に演じ、第37回日本アカデミー賞主演男優賞に輝いた。話し下手でありながら、その朴訥とした言葉に説得力を宿す演技は、本来の彼らしいものだろう。しかし、ただ真面目でかっこいいだけではないのが、コメディ経験以降の彼の奥深さだ。同年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』では、主人公が所属するアイドルグループのマネージャー・水口役として出演。ぶっきらぼうで興味なさそうなフリをしているくせに、実はあまちゃんを一番応援しているツンデレキャラで、全国のお茶の間に“ゆるくてかっこいい松田龍平”を強く印象付けた。


 “ゆるキャラ”的な役どころは、一見すると意外にも感じられるが、実は華々しくも奥行きに富んだキャリアからじっくりと培われてきたものである。今回の『モヒカン故郷に帰る』は、『南極料理人』や『横道世之介』といった作品で、人間の滑稽さをハートフルに描いてきた沖田修一監督によるコメディで、まさに彼に打ってつけの作品といえよう。特有の、クールで繊細なのに、どこか不安定で愛嬌のある絶妙な“ゆるさ”は、同じく独特の雰囲気を持つ前田敦子との共演の中で、どのように発揮されるのだろうか。予想不可能なそのキャラクターから目が離せそうにない。(本 手)