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「独裁的・密室的な経営体制が最大の問題点」餃子の王将・第三者委報告書のポイント

2016年04月05日 11:52  弁護士ドットコム

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「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの大東隆行前社長が2013年12月、京都本社前で射殺される事件が起きた。それから2年以上たった今年3月下旬、同社が反社会的勢力と関係あるかどうかを調べた第三者委員会(委員長・大仲土和弁護士)は調査報告書を公表された。


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報告書によると、王将は1990年代半ばから約10年間にわたって、ある人物と約260億円にのぼる不適切な不動産取引などを繰り返していたことがわかった。その人物とは、福岡市のゴルフ場運営会社役員のA氏。王将創業者の加藤朝雄さん(故人)の知人だったとされる。



前社長射殺事件をめぐっては、いまだ犯人が捕まっていないが、マスコミ各社は2015年12月、九州に拠点をおく暴力団関係者が関与している可能性があると一斉に報じた。この報道を受けて、王将は、自社が反社会的勢力と関係があるかどうかを確認するため、弁護士などでつくる第三者委員会を設置し、調査していた。



第三者委員会は、A氏との間で不適切な取引があったことなどを指摘しつつも、王将と反社会的勢力との関係は「確認されなかった」と結論づけている。今回の報告書のポイントについて、企業法務にくわしい大和弘幸弁護士に聞いた。



●「違法性の高い取引」がおこなわれていた


「今回の報告書によって明らかにされたのは、A氏およびA氏が関係するB企業グループとの取引です。いずれも、報告書では匿名となっています。



A氏は、王将の創業者で初代社長である加藤朝雄氏と昭和52年ころに知り合いになり、親睦団体である『王将友の会』の設立に尽力し、朝雄氏が亡くなった際(平成5年)の社葬では『友人代表』の1人として参列したとされています」



大和弁護士はこう切り出した。どんな取引があったのだろうか。



「王将とA氏(Bグループ)との取引は、朝雄氏が亡くなったあと、長男の加藤潔氏が代表取締役社長、次男の加藤欣吾氏が代表取締役専務兼経理部長の時代におこなわれています。



具体的には、Bグループへの貸付や、Bグループからの不動産買収などです。たとえば、京都・祇園やハワイの不動産の購入や、ホテル・旅館・ヘルスケア施設の購入、ゴルフ場隣地や養鶏場施設土地の購入などです」



どういう点が「不適切」だったのだろうか。



「いずれの取引も、王将の取締役会の承認がないか、あったとしても形式的なもので、取得経緯や経済合理性が検討されているわけではなかったことです。不動産の購入は、貸付債務の代物弁済としておこなわれたものもあるようですが、その場合でも、なぜか王将側から一定の現金の支払いがあり、資金の流出は止まりません。



ほとんどの購入不動産はのちに、購入額より相当安価で、Bグループまたは第三者に転売されています。報告書によると、結局、Bグループとの取引で、王将から約200億円の資金が流出し、約170億円が回収できていないということです。



特別背任罪に該当するような違法性の高い取引だと思います。そして、これら一連の取引は、欣吾氏が独断専行でおこなったと報告書は指摘しています。ただし、欣吾氏は、第三者委員会のヒアリングには応じていません」



●「依然として問題は残っている」


報告書のどこに注目したのだろうか。



「コーポレートガバナンスの観点から、王将の独裁的・密室的な経営体制が、最大の問題点であるといえます。



報告書によると、王将とA氏との間の不適切な取引は、創業者の次男が代表取締役専務兼経理部長の時代に独断でおこなわれていました。ところが、取締役会などの企業統治の機構は、まったく機能していません。



王将とA氏との取引は、創業者の妻の弟である大東氏の社長時代に清算されています。しかし、取得不動産の売却や貸付金の債権放棄など、清算に向けられた重要な意思決定は事実上、大東氏および鈴木常務(当時)、土肥原常務(当時)の3名のみでおこなわれたと、報告書は指摘しています。



不適切な取引の解消を目指すという事情があったとはいえ、重要な経営判断が密室で行われ、取締役会によるけん制が働いていないという点は、大東氏が社長になっても何ら変わりなかったということになります」



大東氏の射殺事件が起きたあとも変わらないのだろうか。



「この事件を受けて、王将は、社外取締役の登用や執行役員制度の導入など、一連のガバナンス改革をおこなって、現在に至っています。しかし、依然として問題は残っています。



王将では、取締役会前日夜に、役員の一部が京都市内のホテルに集まり、数時間にわたって会合をひらく機会を持っているようです。仮に、そこで重要な意思決定がされるとすれば、重要な経営判断が密室で行われるという点で、大東社長時代と何ら変わりのないことになります」



●「創業家一族が会社を私物化してきた」


第三者委員会の最大の目的は、王将と反社会的勢力との関係があるかどうかを調べることだったが、現在のところ「反社会的勢力との関係の存在は確認されなかった」と結論づけている。



「『反社会的勢力』とは、一般に、暴力団や暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋・社会運動標榜ゴロ・特殊知能暴力団など、暴力的な要求行為や法的な責任を超えた不当な要求行為をする人たちをいいます。



反社会的勢力は、会社で働く従業員を標的として不当要求を行ったり、会社財産を不当に社外に流出させたり、あるいは企業そのものを乗っ取ろうとするなど、最終的には従業員や株主を含めた企業自体に多大な被害を生じさせるものです。



昨今の社会規範意識から、反社会的勢力と関係した企業に対する社会的批判の目は極めて厳しいといえます。したがって、企業防衛という観点からしても、また、企業の社会的責任としても、反社会的勢力とは一切の関係遮断をすることが必要とされると思います。



なお、報告書は、A氏が『反社会的勢力である』とは認定していません」



ほかに、どんな問題点があるのだろうか。



「多数の株式を保有した創業家一族が、いわば会社を私物化してきたことです。また、A氏との関係を長期間にわたって断てなかったこともあります。A氏との関係が完全に断たれたのは今年1月です。



このように、『密室経営』『創業家との関係』『A氏との関係』が複雑に絡み合っているというのが、今回の王将問題の本質だと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
大和 弘幸(やまと・ひろゆき)弁護士
やまと法律会計事務所 所長

事務所名:やまと法律会計事務所
事務所URL:http://yamato-law-accounting.com