2016年04月05日 11:02 弁護士ドットコム
来春卒業予定の大学生を対象にした企業の就職説明会が3月1日に解禁され、就職活動が本格的にスタートした。同時に、就活生が「ブラック企業」かどうかを見極めることをサポートする法律も施行された。
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3月1日に運用が始まった「若者雇用促進法」は、情報開示を希望する学生に対し、企業が離職者数や平均勤続年数、労働時間といった職場情報を提供するよう求めている。ブラック企業には労働時間が長く、離職率が高いという傾向があり、これらの情報はブラック企業かどうかを判断する上で参考になりそうだ。
しかし、情報の提供は「努力義務」とされており、目的を果たせるか疑問視する声もある。実際にどのくらいの効果が期待できるのだろうか、労働問題にくわしい中村新弁護士に評価を聞いた。
「若者雇用促進法の正式名称は『青少年の雇用の促進等に関する法律』です。旧勤労青少年福祉法を大幅に改正し、名称を変更する形で制定されました。
近年、就職後間もなく離職するケースが多く見受けられ、いわゆる雇用のミスマッチが社会問題化しています。若者雇用促進法は、このようなミスマッチを可能な限り事前に防止すべく制定されたものです」
具体的にはどういう制度なのか。
「新卒者の募集・求人申込みを行う事業主は、以下(1)から(3)の類型について列記された事項に関する情報を提供するよう努めなければなりません。また、応募者やハローワーク等から求めがあった場合、少なくともそれぞれの類型で、1つの情報提供が義務づけられます。
(1)募集・採用に関する状況
・過去3年間の新卒採用者数・離職者数
・過去3年間の新卒採用者数の男女別人数
・平均勤続年数
(2)職業能力の開発・向上に関する状況
・研修の有無及び内容
・自己啓発支援の有無及び内容
・メンター制度の有無
・キャリアコンサルティング制度の有無及び内容
・社内検定等の制度の有無及び内容
(3)企業における雇用管理に関する状況
・前年度の月平均所定外労働時間の実績
・前年度の有給休暇の平均取得日数
・前年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)
・役員に占める女性の割合及び管理的地位にある者に占める女性の割合」
情報の請求はどうやってするのだろうか。
「新卒者は、就職情報サイトや採用HPにアクセスしてプレエントリーするか、直接メールまたは書面で申し込みます。その際は氏名や連絡先、学校名などが必要になります。公共職業安定所や職業紹介事業者(学校を含みます)が取り扱っている求人については、これらに情報提供を求めてもらうこともできます」
情報請求をすると、選考で不利に働くのではないかと不安に思う新卒者もいそうだが…。
「ハローワークが、不利益取り扱いを疑われる行為を行わないよう企業に周知しています。具体的には、情報提供を求めたことを理由とする不利益取り扱いや、説明会で情報提供を求める行為をマイナスに評価する言動、面接で応募者が情報提供を求めた事実に触れることなどをしないように求めています」
「若者雇用促進法は、一定の労働関係法令違反をした求人者(企業)についてハローワークが新卒者の求人申込みを受理しないことができることや、若者の採用・育成に積極的で雇用管理の状況などが優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度(『ユースエール認定制度』)も規定しています。
情報提供は基本的に努力義務にとどまり、法的に提供を義務づけられる情報の範囲が限られるなど、問題がないわけではありません。
ですが、新卒者の募集・求人を積極的に行おうとする企業に対して、提供すべき情報の範囲を明示したこと、その他の企業に対しても最低限の情報提供を義務づけたこと、『ユースエール認定制度』などが応募者にとって、一定のスクリーニング機能を果たしうることなどにより、若者雇用促進法が雇用のミスマッチ防止に資する効果はかなり期待できると思われます。
なお、『ユースエール認定制度』は昨年10月1日から、その他の制度は今年3月1日から、それぞれ施行されています」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。交通事故・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている
事務所名:中村新法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/