2016年04月05日 10:42 弁護士ドットコム
浮気をしても、暴言をはいても、母親は親権をもらえるの? 2月14日に弁護士ドットコムライフに掲載した記事(「娘に『いらない子』と暴言をはく妻…それでも夫が『親権』をとれない理由」https://www.bengo4.com/internet/li_147/)には、読者のみなさんから多くの賛否両論が寄せられました。
特に賛否が分かれたのが、記事中に登場する「母性優先の原則」について。乳幼児であれば、たとえ妻が暴言を浴びせていても親権を取り養育できる可能性があるという裁判所の考え方に、「時代にそぐわない原則だと思う」「日本の裁判所はマニュアル通りだ」といった批判がみられました。
弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、「母性優先の原則」という高い壁に悩む父親たちの悩みの声が多数寄せられています。
Aさん・・・「5ヵ月前に妻が出て行き、5才と8才の子どもは私の実家で母とともに養育しています。妻は夜に子どもを置き去りにし、男と浮気していました。妻は、実家での暮らしを考えており、もし妻に親権が渡ると子どもは小学校を転校し、保育園も変更することになります。それでも親権争いでは妻が有利なのでしょうか?」
Bさん・・・「現在、妻の浮気調査中で、証拠はほぼ上がっていて、有責配偶者になることはまちがいないです。離婚する場合は、娘(6才)の親権を得たいと思っています。現在、妻は残業と偽り週の半分は深夜帰宅。家でも子どもと最低限の会話しかせず、一緒に寝ることもしません。
食事は週に一度作るかどうか。保育園の送り迎えだけは基本的にこなしており、育児放棄まではいかない状態ですが、それ以外の家事、育児はほぼ私です。私は、仮に片親になったとしても、家事、育児はすべてこなせる仕事ではあります。実家の手助けもある程度期待できます」
この2人のケースのように、「妻が浮気をして子どもを置いて出て行った」「妻が育児をほとんどせず、代わりに夫である自分がこなしている」などの場合でも、「母性優先の原則」により、母親に親権がわたってしまうのでしょうか? 小田 紗織弁護士に聞きました。
A. 「母性優先の原則」...裁判所はそれほど重視していない?
「私自身が離婚調停・離婚裁判などで親権・監護権が争われるケースに関わる中で、裁判所が『母性優先の原則』を重視しているとはそれほど感じません。
むしろ、現状は誰が子どもを監護・養育しているのかをみて、子どもの成育に問題がなければ、むやみに子どもの環境を変えるべきではないという『監護の継続性・主たる養育者優先の原則』を重視しているように感じます。
このことに関連して、平成6年に審判があった事例をご紹介しましょう。このケースでは離婚紛争中、父親が子ども(1歳未満の乳幼児)を養育・監護していたところ、母親が、自分を子どもの監護者に仮に指定して子どもを引き渡すように求めました。
母親の求めに対して、第1審の家庭裁判所は、子どもの精神的発達のためには母親の監護養育が必要であるなどとして、母親を子どもの監護者に仮に指定する審判をしました。ところが第2審の高等裁判所は、単に1歳未満の乳幼児であることのみを理由に母親を監護者とする判断は相当ではないとして、第1審の審判を取り消したのです。
AさんやBさんの場合、母親の浮気という理由だけでは、親権者に父親がふさわしいということにはなりません。母親が、浮気によって子どもの養育・監護を疎かにし、父親が主に子どもを養育監護しているのであれば、裁判などでも父親であるAさんやBさんが親権者に指定される可能性は十分にあります。
浮気の証拠は、母親が子どもの養育・監護を疎かにしている重要な証拠になりますので、しっかり確保しましょう。また、母親が親権者となることで転校・転園を余儀なくされるなどの事情も、考慮される一つの要素にはなります。
最近は、『僕が子どもの食事やお風呂、寝かしつけ、掃除、洗濯、保育園の送り迎えをしています』という男性のお話をお聞きする機会も増えました。ただ、実際は母親が監護・養育の中心を担っており、夫婦が別居する際には子どもは母親についていくケースが多いようです。
そうすると、母親が子どもを虐待しているなど子どもの成育に悪影響を及ぼすような問題がない限りは、先に述べたように、裁判所が『むやみに子どもの環境を変えるべきではない』と判断して、母親がそのまま親権者で良いだろうとなるケースが多いです。そのため、一般的に『母親優先』→『母性優先』と思われやすいのかもしれません」
【取材協力弁護士】
小田 紗織(おだ・さおり)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士を目指し活躍中。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/