2016年04月04日 12:21 リアルサウンド
♪「普段から~、メイクしな~い、君が~」、というわけで、遂に始まりました。主演は高畑充希、主題歌は宇多田ヒカルという、この2016年にこれ以上何を望めばいいのかわからないほど完璧な布陣が敷かれた、春からのNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』。冒頭のシーンは昭和33年。38歳の主人公・小橋常子が編集長を務める雑誌『あなたの暮し』(モデルとなっているのは婦人誌のパイオニア的存在である『暮しの手帖』)の編集部。デスクだけではなく料理台まで備わった活気に満ちた編集部から、売れっ子作家の連載をとるために常子が駆け出していくところで場面は昭和5年に転換する。ここでも、10歳の常子は走っている。そういえば、主題歌「花束を君に」のタイトルバックのイラスト動画でも、宣伝用のポスターでも、常に常子は走っている。『とと姉ちゃん』は常子が戦前から戦後の日本を、文字通り「駆け抜けていく」物語なのだということが始まって5分も経たずにわかる。
ビックリするほど高畑充希に似ている子役・内田未来演じる10歳の常子。当面、常子の子供時代を描いていく『とと姉ちゃん』。常子は、浜松にある染色会社、遠州濱松染工で営業部長を務める父と、専業主婦の母、そして2人の妹と5人で幸せに暮らしている。幸せの象徴として描かれるのは、お米を炊く匂い、魚を焼く匂い、できたてお味噌汁の匂い。美味しそうな朝食の匂いだ。
小橋家には三つの家訓がある。「朝食は家族皆でとること」「月に一度、家族皆でお出掛けすること」「自分の服は、自分でたたむこと」。西島秀俊演じる父親・竹蔵の柔和な佇まいと、子供たちと同じ目線で話す姿勢は、家父長制が絶対であった当時の日本の社会において異彩を放っていた。そもそも、父親のことを「とと」と愛称で呼んでいること自体、常子の通う小学校の同級生たちにとっては驚きだった。初回では、その「とと」という言葉の持つニュアンスを視聴者に手際よく示してみせる。やがて、「とと姉ちゃん」と呼ばれることになる常子。テレビの画面から幸せが溢れ落ちそうなその「暮し」が暗転するであろう、物語の先行きに思いを馳せずにはいられない。
初回は、小橋家の家訓の一つが、初めて破られることになるところまで描かれる。交わした約束は、いつか必ず破られる。幸せな暮らしには、いつか必ず終わりがくる。「始まりと終わりの狭間で 忘れぬ約束した 花束を君に贈ろう 愛しい人 愛しい人」。約6年の活動休止期間、その間の様々な人生経験を経て、より大きな包容力と温かさをたずさえるようになった宇多田ヒカルの「新しい歌声」が、いつまでも頭の中で鳴り止まない。これまでの40年余りの人生でNHKの朝ドラといったら『カーネーション』と『あまちゃん』しか見たことがない自分のような人間が言ってもあまり説得力がないかもしれないが、『とと姉ちゃん』、必見かと!(宇野維正)