2016年04月04日 11:02 弁護士ドットコム
約2年間行方不明になっていた女子中学生が保護された事件で、未成年者誘拐の疑いで逮捕された男性が今年3月まで在籍した千葉大学が3月31日、男性の卒業認定および学位授与をいったん取り消し、卒業を留保することにしたと発表した。
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千葉大は、今回の事態が懲戒処分事由に当たる可能性があるとして、卒業認定と学位授与を取り消し、卒業を留保した。3月31日をすぎるまでは、男性がまだ大学に在籍していると判断し、規程が適用されると考えたからだ。今後は、警察の捜査の進展を見極め、男性の処分を検討する。
今回の対応について「容疑者段階で裁判やってもないのにこれはどうなのか」、「推定無罪の原則は無視なのか」といった疑問の声もあがっている。今回の大学側の対応をどう考えればいいのか。元裁判官の田沢剛弁護士に聞いた。
「国立大学法人とそこに所属する学生との間の在学関係は、大学を設置する国立大学法人が学生に対して、講義、実習及び試験等の教育活動を実施するという方法で、その目的にかなった教育活動を実施する義務を負っています。
他方、学生が国立大学法人に対して、これらに対する所定の対価を支払う義務を負うことを要素としますので、一応は契約関係にあるものと考えられます。
ただ、大学である以上、集団的な規律が必要であることは言うまでもありませんので、学生が国立大学法人側の包括的な指導、規律にしたがうことになるのはやむを得ません」
田沢弁護士はこのように述べる。今回の大学の対応は問題ないということだろうか。
「まず、千葉大学は、今回の措置については、あくまで一時的な対応であり、懲戒処分ではないという見解を示しているようですが、卒業認定を取り消すという、学生に不利益を与えている以上、実質的には懲戒処分と捉えることができると思います。その前提で解説します。
市民社会の秩序に鑑みて、不合理といえるような懲戒処分まで許されるものではありません。
憲法31条は、『何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科されない』として、適正手続の原則を定めています。
文言上は、刑事手続について定めているようにも見えますが、それ以外の手続にもその趣旨は及びます。ですから、国立大学法人の学生に対する懲戒処分も、適正な手続に基づくものといえなければ、違法となります」
今回の処分について、「無罪推定の原則」との関係で問題視する声もある。
「この原則は、いわゆる刑事訴訟手続における原則です。刑事裁判で有罪が確定しなければ、他の手続でも罪を犯したことを認定できないというわけではありません。
そうでなければ、たとえば、刑事事件で有罪判決の確定を経ていない加害者に対し、被害者が民事訴訟を提起することもできないということになってしまいます。また、従業員が業務上横領などの不祥事を働いた場合でも、有罪判決が確定しない限り懲戒処分もできないということになりかねません。
結局のところ、今回の処分の問題は、適正な手続に基づく適法な処分といえるのかどうかの問題に集約されるといえます」
千葉大学の処分は適切だったといえるのか。
「千葉大学には『千葉大学学生の懲戒に関する規程』が定められています。千葉大側は『学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる』という規程を根拠に、学籍は、『3月31日まで存続している』と主張しています。
しかし、学生がすでに卒業を認定されていたのであれば、その時点で在学関係が終了すると考えられると思います。在学関係が終了していたとすれば、この規程を適用する余地はないことになります。
仮に千葉大学が主張するように、在学関係が存在していたとしても、千葉大の処分には疑問があります。千葉大の規程によれば、懲戒処分を行う場合には、事前に『当該学生及びその保護者に予告』した上で、それらの者の意見を聴いた上でなされなければならないと定められています。それを経ずに処分を行うようであれば、この規程にも反することになるからです。
すでに卒業認定を受けている元学生に対し、卒業認定自体を取り消すなどということは、原因となった事件が社会的に大きく取り上げられ、同人が逮捕に至ったからといっても、それだけで法的に許容されるものではありません」
田沢弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp