2016年04月03日 15:31 リアルサウンド
さてさて、「21~22時台」から始まる春の新ドラマを一気にチェックした「前編」に続く「後編」では、ある意味プライムタイム以上に個性的な作品がそろった感もある、「深夜帯」のドラマを見ていくことにしましょう。(参考:『ラヴソング』『ゆとりですがなにか』『OUR HOUSE』……必見の春ドラマを一挙紹介【前編】)
まずは、昨年10周年を迎えた「ドラマ24」枠をはじめ、近年「深夜ドラマ界の台風の目」となりつつあるテレビ東京から。この春は、3つの強力な作品がエントリー。そのなかで特に大きな注目を集めているのが、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(4月8日(金)24時52分~/テレ東)です。昨年、テレビドラマ界にセンセーションを巻き起こした『山田孝之の東京都北区赤羽』と同じく、清野とおるの漫画を原案とする本作。『~北区赤羽』の共同監督にも名を連ねていた松江哲明監督が、若手随一の演技派でありプライベートでも交流があるという松岡茉優と伊藤沙莉を擁して生み出すのは、まさかの「フェイク・ドキュメンタリー」? 他人には理解されないけれど本人はこの上ない幸せを感じるという、市井の人々の特異な「こだわり」を、毎回レポートするという基本構造は漫画と同じではあるものの、それをレポートする松岡と伊藤は「本人役」として登場するにもかかわらず、「八方美人で細かいことを気にしている」松岡、「自由奔放の天然気質で他人に好かれやすい」伊藤といった具合に、本作ならではの「設定」が与えられているというのです。さらに、「おこだわり人」として毎回登場するゲスト俳優ともども、ふたりの会話は「アドリブ推奨」という、なんとも筋書きのない構成に。今回の撮影の一環として、松岡がモーニング娘。の一員としてステージに立ったという謎のニュースが先行して報じられるなど、『~北区赤羽』同様、その展開は、まったく予想がつきません。というか、これはもう観るしかないでしょう。
さらに、同じくテレ東で新設される「土曜ドラマ24」枠には、『孤独のグルメ』シリーズの原作者として一躍その名を世間に知らしめた久住昌之の同名エッセーをもとにした、異色のドラマ『昼のセント酒』(4月9日(土)24時20分~/テレ東)がスタート。大泉洋、安田顕と同じく、演劇ユニット、TEAM NACSに所属する、戸次重幸が演じる主人公は、うだつの上がらない営業マン。そんな彼の密かな楽しみは、平日の昼間から銭湯に行き、酒を飲むことだった……という、『孤独のグルメ』の「銭湯版?」的なニュアンスも強い内容となっています。それにしても、「美女と温泉」ではなく「おっさんと銭湯」とは……テレ東、相変わらず攻めています。とりあえず、とても「快楽値」の高いドラマとなることは、どうやら間違いないようです。
そして、『モテキ』(2010年)、『みんな!エスパーだよ!』(2013年)など、のちに映画版も作られるなど、テレビ東「深夜ドラマ」の本流とも言える「ドラマ24」枠でスタートするのが、『ナイトヒーロー NAOTO』(4月15日(金)24時12~/テレ東)です。EXILEのパフォーマーで三代目J Soul BrothersのリーダーでもあるEXILE NAOTOが、まさかの「本人役」で主演する本作。にしても、「昼はパフォーマー、夜は闇のヒーロー」という設定は、一体どういうことなのでしょう。ダンスの技や動きを取り入れた斬新なアクションが見どころらしいけど。テレ東の「深夜ドラマ」らしい、虚実入り混じった型破りの展開を期待します。ところで、EXILE TRIBEと言えば、ドラマ、映画、音楽などを横断する「総合エンタテインメント」として昨年鳴り物入りでスタートした「HiGH&LOWプロジェクト」の連続ドラマ版『HiGH&LOW』の「Season2」(4月23日(土)24時55分~/日テレ)も始まります。そして、この夏には、『HiGH&LOW』の映画版の公開も控えているなど、増殖するEXILE TRIBEの活躍に、いろいろな意味で注目です。
さて、映画ファンとして、大いに期待したい一作と言えば、松田翔太主演のドラマ『ディアスポリス-異邦警察-』(4月12日(火)25時43分~/MBS・TBS)です。昨年、『JKは雪女』、『監獄学園 -プリズンスクール-』など、刺激的な深夜ドラマを生み出してきた「MBS・TBS」チームは、この春から枠名も新たに「ドラマイズム」と設定。さらに刺激的な作品を目指します。そんな「ドラマイズム」の記念すべき第一弾作品であり、この夏には映画版の公開も予定している『ディアスポリス』。かつて「映像化不可能」と言われた、漫画家・すぎむらしんいちと脚本家・リチャード・ウーによる人気コミックを映像化した本作の内容は、密入国者たちが作り上げた秘密組織「裏都庁」で働く主人公の活躍を描いた、近未来無国籍SFアクション作品となっています。原作漫画の愛読者であり、今回のドラマ版の主演を熱望したという松田翔太の熱演はもとより、冨永昌敬、茂木克仁、真利子哲也、熊切和嘉など気鋭の映画監督4人が各話の演出を担当することが注目されている一本です。ちなみに、映画版の監督は、熊切和嘉が務める模様なので、こちらも大いに楽しみにしたいところです。
同じくTBSの作品としては、『おかしの家』、『悪党たちは千里を走る』など、柔軟な発想によって秀作ドラマを生み出してきた「テッペン!水ドラ!!」枠で、前田敦子主演のドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』(4月20日(水)24時10分~/TBS)がスタート。彼女が演じるのは、超恋愛体質の政治部記者という、これまでにない役どころ。しかも、片岡鶴太郎演じる大物政治家の番記者としてがむしゃらに働きながら、プライベートでは奔放な恋愛を満喫している女性の役というのだから驚きです。そんな彼女の「運命の相手(既婚者)」を演じるのは、近年は映画のみならずテレビドラマにも数多く出演している新井浩文。いずれにせよ、「このドラマが目指すのは、“深夜の昼ドラ”」、「愛と裏切りのドロドロエンターテインメント」など鼻息荒い公式サイトの文面ともども、こちらも目が離せない一本となりそうです。
そんな“深夜の昼ドラ”に対抗するのは、『トリック』や『特命係長 只野仁』シリーズなど、「深夜ドラマの草分け」的な存在であるテレビ朝日、「金曜ナイトドラマ」枠でスタートする、『不機嫌な果実』(4月29日(金)23時15分~)でしょう。「夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいのだろうか」という帯文で知られる林真理子の不倫小説のドラマ化となる本作。こちらは、97年にドラマ化、映画化されている有名作だけに、中高年の間では認知度が高いと思われます。今回、主役を演じる栗山千明と、その不倫相手を演じる市原隼人はもちろん、高梨臨、成宮寛貴、橋本マナミ、そしてSMAPメンバーでは今クール唯一のドラマ出演となる稲垣吾郎が、栗山演じる妻を冷遇する夫役を演じるなど、こちらもかなり濃厚な“深夜の昼ドラ”作品となる模様。ちなみに、テレビ朝日の深夜ドラマとしては、『AKB48ラブナイト 恋工場』(4月20日(水)25時41分~)も始まります。恋愛禁止のAKB48が、秋元康原作の恋愛ドラマを演じるという、なかなか複雑な構造を持った本作。「大人の恋愛」と「少女たちの恋愛」……テレビ朝日は、実に対照的な2本の恋愛ドラマで勝負します。
そして、「深夜ドラマ」レースにおいては若干後手を踏んだ印象のあるフジテレビは、今クールより新たな枠を設定します。「昼ドラ」の覇者たる東海テレビの制作による「大人の土ドラ」です。まさしく「昼ドラ」から「夜ドラ」へ。その第一弾作品となるのが、『火の粉』(4月2日(土)23時40分~/フジテレビ)です。人気ミステリ作家・雫井脩介の小説の連続ドラマ化となる本作。その内容は、退官した裁判官とその家族が住む家の隣りに、過去に無罪判決を下した連続殺人事件の容疑者が引っ越してくるという、まるで黒沢清の映画のような物語となっています。その容疑者役であり本作の主役でもある男を、実に9年ぶりのドラマ主演となるユースケ・サンタマリアが演じることをはじめ、退官した裁判役を伊武雅刀が、その娘役を優香が演じるなど、共演陣も豪華です。
その一方、昨年2年連続となる視聴率三冠(全日、ゴールデン、プライム)に輝いた日本テレビの「深夜ドラマ」は、剛力彩芽主演の『ドクターカー』(4月7日(木)23時59分~)の一本のみ。医師が同乗して現場で処置を行う「動く病院」こと「ドクターカー」に勤務する新人医師が、緊急医療の現場で奮闘するという本作。ちなみに、剛力彩芽は本作で、初めて母親役(シングルマザー)を演じるのだとか。かつて、フジの月9ドラマで『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』というのがありましたけど、それの「車版」といった感じなのでしょうか。とはいえ、経費削減のため「ドクターカー」を廃止しようとする院長の息子役を演じる中村俊介が、剛力彩芽をとにかくイジメ抜くらしいので……ここにも何やら「昼ドラ」の気配を感じます。
などなど、虚実入り混じったメタドラマ的な作品から、映画を見据えた大々的なプロジェクト、さらには「昼ドラ」ならぬ「夜ドラ」で赤裸々に描かれる「大人の恋愛」まで。ある意味、プライムタイムのドラマ以上に振り幅の広い、そして刺激的な作品がラインナップされた春の「深夜ドラマ」に期待です!(麦倉正樹)