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バカリズム×筧昌也が語り合う『素敵な選TAXI』の挑戦、そしてスペシャル版で描こうとしたこと

2016年04月03日 13:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(左から)筧昌也、バカリズム

 2014年10月から12月にかけて関西テレビ・フジテレビ系にて放送された連続ドラマ『素敵な選TAXI』のスペシャル版『素敵な選TAXIスペシャル~湯けむり連続選択肢~』が、4月5日(火)夜9時から放送される。連ドラ版では、過去に戻れるタクシー「選TAXI」の運転手・枝分(竹野内豊)が、人生の選択に失敗した乗客を過去の分岐点まで送り届ける模様が、1話完結型で描かれた。2時間半におよぶ今回のスペシャル版では、ひょんなことから温泉旅館を訪れた枝分が、人生を左右するトラブルに見舞われた宿泊客たちを選TAXIに乗せ、人生の分岐点へタイムリープする模様が描かれる。リアルサウンド映画部では、本作の脚本を担当し、市川森一脚本賞・奨励賞を受賞したバカリズムと、連続ドラマ『ロス:タイム:ライフ』や映画『Sweet Rain 死神の精度』などを手がけた本作のチーフ監督・筧昌也による対談をセッティング。連ドラ版を振り返ってもらいながら、スペシャル版にどう挑もうとしたのか、じっくりと語ってもらった。


参考:『素敵な選TAXI』SPに『あさが来た』清原果耶が出演へ 「すごく新鮮で、楽しい現場でした」


■バカリズム「僕はドラマを観てこなかった人間で、そもそも伝えたいことがない」


ーーおふたりは以前からお知り合いだったんですか?


筧昌也(以下、筧):僕が監督したテレ東の『ウレロ』シリーズのスピンオフドラマ『ピュアラブ板前』(14)に、1シーンだけバカリズムさんに出演してもらったのが初めてですね。


バカリズム:最初に『素敵な選TAXI』の演出を筧さんがチーフでやられると聞いた時は、「えっ、『ピュアラブ板前』のあんなクレイジーな映像を撮った人が?」という感じで(笑)。でも、すごく楽しみだったんですよ。僕の22時台のドラマのイメージって、もっと“ドラマ”という感じだったので。筧さんに加え、作家のオークラさんも一緒にやってくれるし、結構好きな感じでやっていいんだという安心感がありましたね。


筧:安心感と言っても、脚本と演出で暴走しちゃったかもしれない(笑)。僕も最初ビックリしたんですよ。竹野内さんとバカリさんを掛け合わせるだけでもチャレンジングなのに、僕でいいのかと。僕はたまに悪ふざけもしちゃうタイプなので、もっと無難にまとめられる監督のほうがいいんじゃないかとは思いつつも、お話をいただいた時は嬉しかったですし、実験的で挑戦的な企画だからこそ、ぜひやりたいと思いましたね。


バカリズム:普通は会議とかでも通らないようなアイデアも、筧さんは「あ、いいですね!」って止めずにやっちゃう人なんですよ。で、できあがったもの観たら、そのアイデアにさらに何かが上乗せされて、「もっとエスカレートしてるじゃん!」みたいになってる(笑)。


ーーバカリズムさんが脚本となると、視聴者からの期待も大きかったと思います。筧さんはプレッシャーを感じたりはしませんでしたか?


筧:お話をいただいた時はそこまでプレッシャーは感じなかったんですけど、連ドラの直前にバカリさんの単独ライブを拝見した時は、ちょっと感じましたね。笑いの取り方や演技のちょっとした“間”のチューニングを失敗したら、いくらでもダメになっちゃうと思ったので。あと、実はあんまり“THE ドラマ”にならなくてもいいと思ったんですよね。僕もいわゆるドラマっぽいものに飽きちゃっていたこともあって、視聴者が「これは一体何を観てるんだ」っていう感じになってもいいのかなって。タクシーのシーンでは、背景をスクリーンに映像で映してやっているんですけど、ああいうことをしたのも、ちょっと画がユルい感じになって笑いにも繋がるし、あんまりドラマドラマしなくてもいいんじゃないかっていう理由からなんです。


バカリズム:映像に関しては僕はまったく知識もないので、そこはもう筧さんにお任せで。できあがったものを観て、「こんなに面白くなるんだ!」って感じでしたね。だからもう本当に信用して、僕は自分のポジションをこなすだけでした。単独ライブの場合は、もう全部自分で考えなきゃいけないですから。それに比べれば、なんてやりやすい環境なんだって(笑)。それぞれにプロフェッショナルがいたので、安心でしたね。


ーー今回のスペシャル版の放送が決まった時はどう思いましたか?


バカリズム:決まった時は「よっしゃー!」って思ったんですけど、いざ作ろうと思うともう……。連ドラでは過去の戻り方とか、毎回パターンを変えていたんですよ。いろいろやり尽くしたあとだったから、「今回はどうしようか…」みたいなのはありましたね。恋愛ものもやったし、強盗ものもやったし、たまには戻らない回もあったりして。僕は割とパターンを気にするタイプなので(笑)。


筧:よく脚本会議で「同じことは二度したくない」っておっしゃっていましたよね。でも僕ら映画畑とかドラマ畑の人間って、使い古されてるんだけどお客さんには届きやすい、いわゆるベタ、有効的なことはしがちなんですよ。だから今回も、そのバカリさんの考えに倣って、なるべくそうではない“挑戦”をしているかもしれないですね。やっぱり評判が良かったからスペシャルになってるわけで。連ドラをやってる最中は反響があまりわからないんですよ。撮って、放送して、反響が届く前にまた撮って、っていう世界なので。最終回が終わってようやく落ち着いた時に、本当の評判を把握した感じでした。ここ数年のドラマ界の中では視聴率的にもいいほうで。だから、連ドラの時より、スペシャル版をやるぞってなった時のほうがプレッシャーでした。


ーー連ドラの脚本は最初の段階で全10話できあがっていたんですか?


バカリズム:いや、全然です。会議でみんなで話し合うところからスタートしますし、作家のオークラさんもいたりするので、僕がまったくのゼロから作るいうわけでもなくて。締め切りが迫ってくると、「僕がこっち書くんで、オークラさんはこっち組み立てといてください」とか、そういうこともありましたね。僕が会議に出られない時は、監督さんとプロデューサーさんと作家さんでなんとなく話をまとめてもらったりとか、回によって結構違ったりもして。


筧:綱渡りとはまさにこのことでしたよね。


バカリズム:もうギリギリでしたね。枝分がもともとは床屋だったっていう最終回の設定も、途中から言い出したんですよね。


筧:そう、でもそんなに矛盾はしてない。若干ミラクルだけど(笑)。


バカリズム:後半あたりで「どうする?」みたいな感じで。


筧:だって僕、枝分は人間じゃないと思っていましたから(笑)。僕と竹野内さんは前半戦ぐらいまで、枝分はある種、「ドラえもん」みたいなファンタジーの存在だと思っていて。


バカリズム:僕自身も前半戦ぐらいまでは何も考えていなかったから、うまくごまかしながら(笑)。そのあとまだどういう話になるかわからないから、決めたくなかったんですよね。だから、どうにでもできるようにあまり決めないようにしながら、竹野内さんをうまくごまかしていました。


筧:俳優さんって、“線”で演技プランを固めたいから、知りたがりますよね。そのお気持ちは全くもって正しいのですが、決めないほうがスリリングで面白いこともあります。単純に結末を決めてから周りを埋めていくと、本当につまらなくなることもありますから。専業の脚本家さんは、結末を先に決めてから全体構成を決めていく人が多いんですよ。それもすごく安心できるんですけど、バカリさんのやり方はまったく違うので、竹野内さんも最初は戸惑われていましたね。僕も映画畑やテレビ畑で脚本も書いてきた立場で、やっぱり全部カチカチに作っちゃうタイプなんです。だからバカリさんの脚本には、毎週視聴者と一緒にハラハラしながらドラマを観る楽しさをすごく感じました。あと、僕ら映画畑やドラマ畑出身の人って、テーマや訴えたいものを残しがちなんですよ。オチがちょっと苦々しくても、テーマが残ったほうがカッコイイというか。でもバカリさんは、割と気持ちのいい終わり方にこだわられていたじゃないですか? いわゆるエンターテインメントというか。


バカリズム:そうですね。


筧:そこが意外と僕らは逃げがちなんですよね。特に何かが残るってわけではないかもしれないけど、楽しかったからまた来週も観ようって視聴者に思ってもらうのが、一番難しいと思っていて。バカリさんはそこを目指されていたから、その姿勢はやっぱりカッコよかったですよ。週刊連載の漫画に近いかもしれない。


バカリズム:確かに漫画ですね。僕はドラマを全く観てこなかった人間なんです。『素敵な選TAXI』をやるって決まってから、「やばい!」と思っていろんなドラマのDVD-BOXを購入して、『半沢直樹』をガッツリ観ながら、ドラマの面白さに気づいたぐらいですから。僕自身そもそも伝えたいことがないから、いかに1時間視聴者を楽しませるかでした。それはたぶん芸人だからっていうのもあると思います。暗転したときに、「あー面白かった」って思わせられるかどうか。ちゃんとスッキリした終わり方をするようにっていうのは、芸人という職業的な影響が出ているかもしれませんね。


筧:このドラマが“新しい”とか“斬新”って言われるのって、バカリさんが普段、必要以上にドラマを観てないからこそ自然とできたことなのかも。やっぱりドラマや映画をたくさん観ている人は、無意識レベルで発想が縛られちゃっているかもしれない。表現やアイデア、キャスティングなんかも似通ってきちゃいますから。あと、真面目な役が多い役者さんが変わった役をやるのってすごく面白くて。だから竹野内さんのパワーがかなりあるんですよ。竹野内さんはこれまでカッコイイ寡黙な役柄が結構多くて、ご本人も「こんなにセリフがあるのは初めてだよ」って言っていましたから。そういう人が面白いことを言う、“掛け算”がこのドラマでは成立している気がしますね。


バカリズム:竹野内さんは本当に面白いですよね。スケールの小さいことを言うのが、あんなに面白くなるとは。


■筧「バカリさんの脚本の面白さは、やっぱり会話なんです」


ーー漫画という話が出てきましたが、栗山千明さんがゲストだった連ドラの第6話はまさに漫画的な作りになっていましたよね。


筧:栗山千明さんの回は面白かった! 自分で撮ってるんですけど(笑)、あの回すごく好きなんですよ。


バカリズム:あの回、面白かったですよね。監督が完全に楽しくなっちゃってるのがもう伝わってきて(笑)。最後すごかったですもんね。普通のドラマにはないような演出がたくさんあって。


筧:今考えると、このドラマは宣伝でコメディとは謳ってはいないけど、観ている人たちはやっぱり“笑い”を期待すると思うんですよ。で、これも謳ってはいないんですけど、一応SFで。コメディとSFって、21時、22時のいい時間帯の日本のドラマで、今一番やってはいけない2大要素じゃないかなって(笑)。


バカリズム:ははは(笑)。そうですね。


筧:ほとんどないですよね。今は社会派の医療モノや刑事モノ、恋愛モノが多くなってきてるでしょ。いわゆるコメディとかSFって、深夜じゃないと普通できない気がする。


バカリズム:『選TAXI』もこの設定になるまで、二転三転したんですよね。いくつか書いたものがあって、ギリギリになってわけがわからなくなっちゃって。放送時間も22時台だから、最初はもうちょっといわゆるドラマっぽいものを書かなきゃいけないと思って書いていたんですけど、もう最終的に開き直って、好きなことをやろうっていうことで、笑いをたくさん入れて、SFにしました。それが意外にも通ってしまって、竹野内さんも面白がってくれて。


ーー今回のスペシャル版の舞台は温泉地ということで。


バカリズム:スペシャル版だし、何人かの主人公が連続で出てきて、最終的にみんなが集まれる可能性がある場所にしたかったんです。じゃあどういう場所があるだろうってなった時に、ホテルや宿泊施設っていうのが出てきて、最終的に温泉旅館になりました。


筧:僕も企画段階から関わっていたんですけど、バカリさんのエンジンが入ったのが明らかにわかった時があって。それはストーリーがどうとかじゃなくて、枝分と乗客の会話だったんですよ。3~4ページにわたる全く意味のない、でもめちゃくちゃ笑えるようなシーンが前半戦にいくつかあるんです。その脚本を読んだ時に、「あ、始まったな」って感じがしましたね(笑)。バカリさんの脚本の面白さは、やっぱり会話なんですよね。物語ってみんなで会議しながら作れちゃいますけど、やっぱり会話だけは脚本家さんの才能によるものですし、特にバカリさんは会話の面白さを持っているので。「結局、これって何もストーリー進んでないよね?」って感じだけど、面白いから持つんですよ。通常、必要なことをただ言って終わってしまうところを、バカリさんは細かく会話を刻んでいく。そのちょっとずつ進行していく感じがバカリさんの真骨頂で、シーン自体の繰り返しの構造も面白いんですよね。


バカリズム:セリフが長いので、竹野内さんをはじめ出演者の皆さんはかなり苦労をされたと思いますけどね。


ーーバカリズムさんはカフェの店長役で出演もされているので、俳優としてのバカリズムさんのお話もおうかがいしたいんですが。


バカリズム:それは一番恥ずかしいですね(笑)。あそこだけは本当にできるだけ目立たないようにやっているので。


筧:(笑)。僕も現場では何も言わないですから。他の出演者の方々には多少言いますけど、バカリさんには言ったとしても動きのことぐらいで。脚本家としてのバカリさんと会う時間のほうが圧倒的に多かったので、現場やスタジオで会っても、脚本家さんが出てるっていうイメージなんですよ。


バカリズム:現場での扱いがそうですもんね。だから恥ずかしいんです。俺が出たがってるみたいに見えるのが(笑)。もともと芸人だから別に出るのはいいんですけど、脚本家が出しゃばっているように思われていないかをすごく気にしたりして(笑)。


筧:今回のドラマに限らず、テレビの視聴者としても変な気分になることがありました。さっきまで長時間にわたってずっと一緒に会議をしていた脚本家のバカリさんが、テレビをつけたら深夜のバラエティ番組に出ていて、「この人すごい有名な人じゃないか!」という感じで(笑)。この間、竹野内さんともそういう話をしてませんでしたっけ?


バカリズム:そうですね。竹野内さんのこともずっと枝分として見てるから、枝分以外の竹野内さんがすごく違和感があって変な感じがするって。


筧:「この人かっこいいんだ!」みたいな(笑)。『選TAXI』でもかっこいいんですけどね。


ーー今回のスペシャル版を作る上で、連ドラ版と比べて意識したことはありましたか?


筧:連ドラを観てた人を楽しませるようにしないといけないし、スペシャルで初めて観る人にもわかるようにしないといけないっていう塩梅ですよね。あと今回、ゲストがざっくり4組いるんですけど、連ドラ4週分ではなく、あくまで2時間半の中に彼らのストーリーを収めなきゃいけない。脚本段階から撮影や編集に至るまで、その足し算引き算みたいなことをずっと考えていましたね。


バカリズム:2時間半ってなかなかですから。僕はどちらかと言うと、スペシャルっぽい感じにしたいっていうのがあったんです。僕が視聴者でよく観ていた好きな番組のスペシャル版って、すごくスペシャル感があったんですよ。『ドラえもん』の映画版だと、ジャイアンがちょっと頼り甲斐があって、ワクワクする感じと言いますか。視聴者をワクワクさせながら、スペシャルっぽい楽しい感じをどう出していくかを考えましたね。


筧:脚本では誰が何をするといった最低限のことしか書かれていないシーンでも、実際の撮影では、この人を撮っているけど手前にはあの人がいるというようなこともたくさんやっているんです。4組が完全に分割したオムニバスに見えないように、まるで視聴者がその温泉地にいるかのようなライブ感、人と人が交差する群像劇感は僕も気にしたところで、それがスペシャル感につながっていると思います。


バカリズム:それは楽しみですね。実は僕、まだ観れてないんですよね。スペシャル版のキャストの方々とは誰にも会っていないですし。


筧:そうですよね。バカリさんは脚本も書いているし出演もしているのに、バカリさんが出演しているカフェのシーンにはゲストが来ないから、会わないっていう。


バカリズム:そう、だから全然会ってないんですよ。だからどうなっているのかは僕自身もすごく楽しみにしています。


■バカリズム「今回のスペシャルも続けられるように終わらせている」


ーー今回のスペシャル版のさらに次みたいなことも?


バカリズム:それはもう視聴率次第じゃないんですかね(笑)。今後また何かあるとしても、このフォーマットでいろんな人が出てくるしかないんです。こんな感じで続くとは思っていないところから連ドラを始めているので、最後はちょっと変わったことをしてやろうとか、ひっくり返してやろうっていうのも実はあったんです。でも途中でこのフォーマットでずっとやれることに気づいたから、続けられるように終わらせているんですよね。どこかでまたずっとやっていきたいなっていうのはあったので、今回のスペシャルも一応続けられるように終わっています。枝分自体は何も変わってないから。


筧:竹野内さんが「『寅さん』みたいになったらいいな」って言っていましたね。今回も地方ですけど、枝分が行った先行った先で、場所括りでやるのが面白いかもしれない。


バカリズム:そうですね。だからこれをずっと続けられるようにしたいですね。


ーーでは最後に、お二人が今後ドラマで挑戦したいことを教えてください。


筧:僕はサイレントをやってみたいですね。最近、音楽と映像だけで見せるような、ストーリー性の高い5分~10分ぐらいのミュージックビデオで、泣けるようなやつがあるじゃないですか。あれを30分のドラマでやってみたいです。セリフがないドラマなんて、テレビでは絶対やらせてくれないと思いますけど(笑)、配信ドラマみたいな環境であれば、そういうのもできるんじゃないかなって。映像と音だけで見せるっていうのにチャレンジしてみたいですね。


バカリズム:それは面白そうですね。僕は特にないんですよ(笑)。やっぱり僕はテーマを持っていないタイプの人間で、もともと書きたいことが溜まっているわけでもないので。次はどんなコントを書こうぐらいの感じで、お話をいただいた時に考えますかね。そういえば筧さん、『マッドマックス』みたいなやつやりたいって言ってませんでしたっけ?


筧:そう、僕の中でアクションが今すごいホットなんですよ。また子ども時代が戻ってきちゃって。具体的には言わないですけど、今回のスペシャルにも実はそういう要素をちょっと盛り込んであります。


バカリズム:マジですか? それは僕も一視聴者として楽しみにしておきます。(取材・文=宮川翔)