政府は一億総活躍社会に向けて、3月23日の有識者会議で、「同一労働同一賃金」の議論を始めた。同じ仕事には同じ賃金を支払うべきという考え方で、派遣社員など非正規労働者の働き方の改善を目指している。
この制度が実現した場合、現場はどう変わるのか。同日放送の「ニュースウォッチ9」(NHK総合)で、8年前に格差を是正する制度を導入したエフコープ生活協同組合(福岡市)を紹介していた。(ライター:okei)
「いつになったら、この給料から抜け出せるんだろう」
福岡県内で食料品の戸別配達などを行うこの職場では、「同一労働同一賃金」導入以前、配達を担当する非正規のKさんの月給は、およそ14万円。同じ仕事をする正社員は27万円で、2倍近い開きがあった。
「同じような仕事をしているのに、(正社員の)半分しか賃金をもらえない。いつになったら、この給料から抜け出せるんだろう」
Kさんは、当時の思いをこう明かす。以前の賃金体系では、非正規社員は契約時に決められた固定給で支払われる。一方、正社員は能力給・年齢給に加えて手当などもついたため、大きな差が生じていた。
同じ仕事でも、転勤や残業などのリスクを抱える正社員の方が高くても仕方がないところもある。「悔しかったら有名大学を出て、正社員になればいい」なんて突っぱねる人もいる。
しかし賃金の格差が「身分制」のように、理不尽なまでに大きくなっている現状は否めない。雇用が不安定な非正規の方が逆に高くてもいいはず、という考えもあるだろう。
実際、エフコープ生協では、格差に不満をもった非正規社員が次々と辞め、離職率は4割を超える事態に。これでは業務が立ちいかなくなると危機感を抱いた会社は、より公平な給与制度の導入を目指すこととした。
正社員の「年齢給」を廃止。非正規の給与体系と一本化
新たな制度では、正社員の年齢給を廃止、代わりに仕事内容への評価を加え、正社員と非正規社員の給与体系をひとつにした。前述のKさんは様々な資格を取得し、能力が評価されて給料は30万円を超えた。
「努力すれば報われる、形になって現れる制度なので、私にとってはありがたかった」
店舗で働くパートにも、同じ制度を導入している。勤続9年目のNさんは時給1100円、月給換算で18万円ほど。販売だけでなく6人のパートのシフト管理・人事評価などを決める販売リーダーを任されているが、賃金は若手の正社員と同じ水準だ。
Nさんは現在の待遇に満足しているようで「不安のほうが大きかったが、やってみればやりがいにつながる。責任感は湧いてきますね」と語った。
一方、年齢給がなくなったことで、給料が減った正社員もいる。管理本部の島崎本部長は、「高い方にすべてを合わせるのであれば、すべてが円満に行くわけですよね」としつつ、内情をこう証言する。
「しかし現実的には経営の状況等もありますので、そこでの合意の作り方で言うと、やはりなかなか難しさがあると思います」
「年功序列」だけで高給の時代は終わる
なんとも歯切れの悪い言い方だが、要するにすべて高い方に合わせたほうがいいことは分かっているものの、経営上それはできないと表明している。すべての社員が納得する制度にどう近づけていくかが、今後の課題だという。
「企業が人件費の負担を増やさずに人材を確保したい」という意図には不満が残るものの、一部に痛みを押し付けたままでは安定した組織運営はできない。同一労働同一賃金制度のもとでは「年功序列」は見直され、長くいるだけで能力の低い人が高給を与えられる時代は終わっていくのだろうと感じた。
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