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浦島坂田船が起こした“大人不在”のムーブメント 初メジャー作で4人のエンタメ精神はどう広がる?

2016年03月29日 19:42  リアルサウンド

リアルサウンド

浦島坂田船

 ニコニコ動画を中心にしたネットシーンから飛び出した、ボーカルユニット=「浦島坂田船」(うらしまさかたせん)がスゴい。「うらたぬき」「志麻」「となりの坂田。」「センラ」という、動画投稿や生放送で人気を広げてきた4人によるユニットで、歌だけでなく、トークや演技も含めた“声を使ったエンターテイメント” なら、ネットで右に出るものがいない最強のカルテットだ。


 すでにその人気はネットからリアルに波及し、昨夏に東名阪をまわった『浦島坂田船2015夏ツアーライブ~listen to my voice~』のチケットが即完売、同年のコミックマーケットでは自主制作盤を購入するために長蛇の列ができるなど、注目を集めていた。


 それぞれにキャラクターが立ち、声の表情でリスナーを笑わせ、感動させる彼ら。その佇まいにはどことなく、豪華声優が共演し、昨年から社会現象を巻き起こしているギャグアニメ『おそ松さん』を思わせる魅力がある。すでに完成度の高いエンターテイメント集団でありながら、ある種のゆるさも感じさせてくれるのは、彼らが“プロジェクトとして集められた”のではなく、メンバー同士が自然と惹かれ合って集まり、またマーケティングよりも“お客さんと楽しむ”ことを主眼に活動してきたからだろう。


 生放送では浦島坂田船の結成前から共演を重ね、リスナーの期待に応えて4人で初音ミクの超人気曲「千本桜」を投稿するなど、自由に活動するなかでグループとして成熟。オフィシャルインタビューで彼らが語ったところによれば、3年前、1回きりのつもりの初ライブが大きな反響を呼び、それが毎年恒例のイベントになり、「気づいたらメジャーデビューが決まる」(志麻)という“大人不在”のムーブメントになった。彼らは現在も毎週の生放送を欠かさず、より多くの人を楽しませる方法を模索し続けている。当人たちがそれを“努力”と捉えているかどうかは別として、日々エンターテイナーとしての研鑽を続けてきたのだ。


 そんな浦島坂田船が3月23日に満を持してリリースしたのが、メジャーデビューアルバム『CRUISE TICKET』だ。まふまふ、koyori、大石昌良、亜沙、Last Note.、halyosy 、KEI、buzzG卓球少年、Sum など、豪華作家陣を起用した計14曲を収録。KEIの作詞作曲による、旅立ちをテーマにしたさわやかなロックナンバー「Pathfinders」から始まる本作は、4人の個性を活かしたバラエティー豊かな作品に仕上がっている。うらたぬきの甘く蠱惑的な歌声、志麻のクールな低音、坂田の天真爛漫で明るい声質、センラのR&Bに乗せたくなるようなソウルのあるボーカルがそれぞれに主張するが、ユニゾンパートには不思議な心地よさがある。


 終盤には、ニコニコ動画でお馴染みの夏曲「Fire◎Flower」、今年2月に同サイトに投稿されたコラボ曲「Shoutër」が並び、「歌ってみた」の先駆者でもあるhalyosyの色が濃く出ているのも本作の面白いところだ。“古きよきニコニコ動画的”というとやや閉鎖的かもしれないが、ハンドメイドの温かみと尖った面白さが共存した、リスナーの愛着を呼ぶ作品になっているのは間違いない。彼ら自身が作詞を手がけた「Dreamer」は、さり気なくメンバーの名前が含まれた歌詞に、どこまでもポジティブに、人を楽しませ続けようという決意がにじむキラーチューンだ。バラバラだったピースが集まり、強烈な輝きを放つまでの過程が、浦島坂田船の歴史と重なる。


 彼らのパーソナリティや多芸ぶりを知りたければ、毎週月曜日に「浦島坂田船チャンネル」で生配信される番組を視聴するのが早い。また、今作の初回限定盤に付属している、人気声優・下野紘とメンバー4 人による学園を舞台にしたボイスドラマも一聴の価値ありだ。


 舞台の大きさが変わっても、彼らはブレることなく、全員がオイシイことに敏感に、ある意味では気の向くまま、“浦島坂田船にしかできないこと”で人を楽しませていくだろう。それは今作のような音楽作品なのか、あるいは演劇も含めたよりフィジカルなステージなのか、トーク力やものまねスキルを活かしたイベントMC なのか――。まずは本作を聴いて、広がる可能性を体感してほしい。(文=橋川良寛)