日本人がヨーロッパで活動する際にまず考えるのは、日本と現地を往復しながら戦うのか? あるいは現地に腰を据えて戦うのか? 佐藤万璃音(さとうまりの)は2015年の春、中学校を卒業したばかりの15歳にもかかわらず後者を選んだ。
「通信制高校に入学したので、2015シーズンFIA-F4イタリアへの通年参戦にあたっては最初から現地に住むつもりでした。テストやレースのたびに日本と現地を往復するのは渡航費用がもったいないし、シーズン中は現地に留まったほうが都合が良くいろいろ学べると思いました」
「もともと僕のカートレースに関して両親は子供のころから放ったからしで、小学生のころから独りで名古屋などへ遠出していました。中学生のときのヨーロッパ遠征ではたいていコーチと一緒でしたが、独りで行くのも決して珍しくなかった。子供のころからそういう環境に慣れていたし鍛えられていたので、独りでどこへ行くのもぜんぜん苦とは感じませんでした」
住まいはどうやって選んだのか?
「イタリアへ渡った当初はなにも考えておらず、ヴィンチェンツォ・ソスピリ・レーシング(VSR)に紹介されたホテルに泊まりました。ただ、滞在が長くなると費用はバカにならないし、同じVSRでランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオ・ヨーロッパシリーズを戦っていた道見ショーン真也さんたちの誘いもあって、まもなく彼らと一緒に共同生活を始めました」
「現在はエミリア=ロマーニャ州フォルリの小さな田舎町で、チーム代表を務めるヴィンチェンツォ・ソスピリさんのご両親の自宅2階を間借りしています。昨年は道見さんたちも住んでいましたが、今年はいまのところ僕独りです。リビングやキッチンは共用ですが個室がいくつもあり、現状では広すぎて寂しいほどですね」
田舎暮らしに戸惑いはないのか?
「横浜生まれ横浜育ちとはいえ、子供のころからカートレースであちこちへ出掛けていたので、カルチャーショックはありませんでした。現在の住まいは街の中心部やVSRの工場から何キロも離れた郊外の住宅地の一角で、一歩離れると周囲にはのどかな田園風景が広がっています。小さなレストランと小さなスーパーマーケットもありますが、あまり利用していません。まさに田舎のイメージそのものなのが、庭でニワトリを何羽も放し飼いという光景です。早朝から盛大に鳴き散らすので、自然に早起きのクセがついて生活のリズムは絶好調です(汗)」
しかし、16歳で自動車運転免許がない現在は移動手段も限られ、田舎暮らしは不便では?
「たしかに、公共交通機関がほぼ皆無ですから自由に動き回れません。でも、週に5、6日はトレーニングジムに通っていて、そのたびにフィジカルトレーナーがクルマで送り迎えしてくれますから、ちょっとした買い物や食事はその際に済ませます。彼が居ないときは、VSR会長でチームの大番頭を務めるジェシカ・グルームブリッジさんにお願いして用事を済ませます。いずれも都合がつかないときは、最終兵器としてチャリンコを引っ張り出してトレーニングがてら出撃しています(汗)」
イタリアの田舎暮らしを満喫している(?)様子の万璃音。次回の本稿では、4月8日~10日にミサノ・サーキットで開催される2016シーズンFIA-F4イタリア開幕大会の模様と、同シリーズの現況をお伝えしよう。