2016年03月29日 11:02 弁護士ドットコム
海外旅行にでかけたとき、日本社会では見慣れないレストランやホテルでの「チップ」文化に、戸惑ったことのある人も多いだろう。そんな「チップ」に、東京の意外な場所で遭遇したのは会社員のJ子さん。新橋駅前にある古い商業ビルのトイレに入ろうとしたところ、入り口に「このトイレは『チップ制』となっております。チップを入れてご利用ください」と掲示があったという(写真)。
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J子さんは戸惑いながらも、「ここは日本だし、まあいいか」とチップを入れずにトイレを利用した。年季の入ったビルでトイレも古びていたが、清掃は行き届いていた。しかし、新しいビルでは当たり前の、紙製の手拭きやエアータオルは備えられておらず、チップが必要となるような特別なサービスはないように感じたそうだ。
しかし、J子さんは「入り口に掲示されていた以上、利用する際にはチップを入れることに同意した、とみなされるのではないか。チップを入れなかったことで、罪に問われることはないのか」と、後ろめたさを感じている。
J子さんの行動に、なんらかの法的な問題はあるのだろうか。鈴木淳也弁護士に話をきいた。
「このトイレの管理者が設置した掲示からは、『チップ』制の意味が具体的に何を意味しているのか、明らかにされていません。
しかし合理的に解釈すれば、具体的な金額が記載されていないことや、利用する場合の対価という記載もないことから、世間一般で認識されている『チップ』と同じ意味と考えられます」
その場合、「チップ」の支払いは強制されるものなのだろうか?
「世間一般で認識されている『チップ』とは、あくまでも任意に支払うべきものであり、利用の対価である料金とは異なります。
諸外国ではサービスを受けた際にチップを支払う慣習があります。そのような国では、サービス業従事者の賃金がチップを受領することを前提に低く設定されているため、チップはサービス業従事者の生活にとって、必要なものとなっているのです。
ただ、それは使用者と労働者の問題であり、客が、チップの支払を法律上強制されているものではありません。
それと同様に、チップ制のトイレを利用する場合でも、チップを支払わなかったからといって支払を強制されることはありませんし、罪に問われることもないということになります」
つまり、チップを入れなかったJ子さんの心配は杞憂だったのだ。
最後に、鈴木弁護士は次のような注意をうながした。
「ところで、日本では『チップ』という慣習がありませんが、それに代わるものとして『サービス料』があります。ホテルや旅館、飲食店などで主に請求されるものです。サービス料というのは、あらかじめ料金に含まれるもので、利用者は法的な支払義務を負います。この点が,欧米諸国のチップと大きく異なります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
鈴木 淳也(すずき・じゅんや)弁護士
札幌弁護士会所属。大学時代には山に登って地質調査をするなど、地球温暖化システムについての研究をしていた。しかし将来について迷っていた時に「困っている人を助けなさい。自分が本当にやりたいことはそれでよいのですか?」という夢を見たことから、決まっていた就職を辞退し、司法試験を目指すことに。現在は全国に2名しかいない、気象予報士の資格を持つ理系弁護士として、困っている人に寄り添う弁護活動を行う傍ら、お天気情報をブログで発信している。
事務所名:弁護士法人アディーレ法律事務所札幌支店
事務所URL:http://www.adire.jp/