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ペトロールズ、Suchmos、cero……“今っぽさ”と“懐かしさ”を併せ持つ都市型バンドたち

2016年03月28日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

LIQUIDROOMや代官山UNIT、渋谷クラブクアトロなどが都市型バンドの舞台となる。

 都市の空気を楽曲に落とし込んでプレイする若手バンドたちが盛り上がりを見せており、流行に敏感な若者からコアな音楽ファンまでを魅了している。


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彼らの音楽は、80年代に流行した「シティ・ポップ」と称される楽曲群のように、都会のイメージを呼び起こすお洒落なサウンドとソフトなロックの響きを生かした音楽性から「ネオ・シティ・ポップ」などと呼ばれることもままある。しかし、彼らの音楽性を紐解いていくと、実際はヒップホップやネオソウル、アシッドジャズなど多様なルーツを持っており、なかなか総じて呼称することは難しい。今回は都市の空気を届けるバンドに焦点をあて、彼らのルーツを追いながら、若者から大人まで多くのファンを魅了する理由について考えてみたい。


■ペトロールズ


 下北沢GARAGEを拠点に2005年から活動開始。三人というミニマルな編成であるにも関わらず、彼らの緻密な旋律とリズムによってプレイヤーの重厚感を味わえる。「ガソリン」という意味のバンド名は、大のクルマ好きな長岡亮介(Vo.&Gt.)が命名した。


 楽曲制作やプロデュースまで幅広く活動する長岡亮介の色っぽい声とその声に勝るセクシーなギタープレイは、女性ファンの多さを物語る。彼はカントリーやブルーグラス、ブラックミュージックなどを自身のルーツとして挙げており、ジャンルの垣根を越えて様々なエッセンスを凝縮したプレイが持ち味のひとつとなっている。ボブ(Dr.)、ジャンボ(Ba.)による個性的な“合いの手的”コーラスも、ペトロールズならでは。当初はロックな曲が多かったが、現在はファンクやソフトなサイケデリックに至るまで、幅広いサウンドを鳴らしている。


 余談ではあるが、彼らの存在が音楽だけでなくカルチャーとしてオーディエンスに受け入れられていることを証明するように、ライブに行くと長岡亮介の様なヘアスタイルと眼鏡でキメている男子「リトル長岡」を多く目にする事ができる。


■Suchmos


 神奈川・湘南のイベントを中心に2013年から活動開始。ステージ上にずらっと並ぶメンバー六人の存在感とパフォーマンスに圧巻される。


 90年代に一世を風靡したジャミロクワイへのリスペクトを公言し、本格的なアシッドジャズサウンドで現代のバンドシーンの中でも一際異彩を放つ、シティボーイバンド集団。HSUのソウルフルなベース、TAIKINGの軽快なギター、OKのドラムによるグルーヴと、その上を転がるTAIHEIの濡れたエレピサウンドは、まるでアツアツのアップルパイの上に乗せたバニラアイスクリームの様な調和を生み出すのだ。


 また、茅ヶ崎の地元感を漂わせるフランクなYONCEのマイクパフォーマンスは、多くのリスナーを音楽の波に引っ張っていく。そしてグルーヴの波を一際盛り上げるのはKCEEのDJプレイ。彼の絶妙なスクラッチとトラック再生のスパイスは、クリエイティブな音楽グループとしての彼らのポテンシャルを象徴する。


 YONCEの衣装でおなじみのアイテム・adidasのカーディガンの様に、コーディネートにスポーツアイテムを取り入れるなど、彼らがファッションにおいても現代の流行を押さえている点も注目である。


■cero


 2004年に結成された東京のバンド。東京インディーズシーンにおいて代表的な存在である彼らの最大の魅力は、ネオソウルやヒップホップなどの異国感漂うサウンドに乗せた、ストーリー性のある歌詞ではないだいろうか。その言葉たちがノスタルジックな雰囲気を醸し出し、その中にちょっとした“日本っぽさ”を感じることができる。それは、巧みな日本語使いが活きるボーカル高城昌平の声の素朴さも相まってのことなのかもしれない。


 メンバー三人それぞれが楽器を持ち替えて創作活動を行う自由な編成も、彼らの個性が化学反応を引き起こす理由だ。特にアルバム『Obscure』では、一層ブラックミュージックをルーツとした実験的なサウンドに手を伸ばしている。6曲目の「ticktack」ではア・トライブ・コールド・クエストの「Electric Relaxation」の三小節ループを参照するなど、無調音楽をも思わせる自由なサウンドメイクを垣間見ることができた。


■SANABAGUN.


 渋谷ストリート発平成生まれ8人組ヒップホップグループ。渋谷駅周辺で路上ライブを行ってきたアウトサイダー軍団が、メジャー音楽シーンのインサイダーになる瞬間を目の当たりにした。


 力強いヒップホップビートと煽るようなマイクパフォーマンスからは、8人のバイブスがぴったりとマッチしていることが理解できる。SuchmosのベーシストHSUが小杉隼太として所属しており、彼の太いベースラインが生み出すグルーヴの上を金管がまるで笑うように高らかに鳴り、それら全てを泥臭さと上品さをミックスしたキーボードがみっちりと埋めてアシストしていく。ここまで紹介した他のバンドは、ブラックミュージックの要素を落とし込む創作活動をしているのに対して、SANABAGUN.は各パートが徹底的にブラックミュージックを再現しており、コアなブラックミュージックファンやジャズのインストファンも面白く聴ける作品が多いのではないだろうか。


 ここまで紹介したバンドたちは、海外の様々なジャンルの音楽・カルチャーを吸収し、自身のバンドに落とし込むことで独自のスタイルを切り開き、リスナーを集めている。ブラックミュージックやローファイ、サイケなどの伝統的な音楽ルーツをミックスすることは、それらの音楽に親しんできたリスナーを獲得することにも繋がっているのかもしれない。また、流行を捉えたファッション性やパフォーマンスは、多くの若者を強く惹きつけるひとつの要因ともなっている。


 様々な音楽性が混沌としている都市の中で、彼らの音楽が強い色を持って浮き上がるのは、流行に敏感な若者らしい柔軟な姿勢と、深いこだわりを持ち物事を探求していくオトナ的な姿勢のかけ合わせにより幅広いリスナーの心を掴んでいることが大きく関係しているのではないだろうか。彼らの音楽にある“今っぽさ”と“懐かしさ”は、これからより多くの人間を巻き込み、さらなる一大ブームを巻き起こす予感がする。(クリオネ)