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待機児童は「児童福祉法」と「憲法」に違反する! 弁護士が国と市町村の怠慢を批判

2016年03月28日 10:22  弁護士ドットコム

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「保育園落ちた日本死ね!!!」のブログが話題になって、はや1カ月。保育園に子どもを預けられず、職場復帰できない憤りをつづったブログ内容に、多くの母親らが共感して、日本各地で「私も保育園に落ちた」と声をあげている。


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共働き夫婦の家庭において、親が働いている間、子どもを保育園に預けられるか否かは切実な問題だ。しかし現実には、保育所に「入所できた児童」と「入所できなかった待機児童」という差が生じている。こうした状況を「違法」と指摘するのは、待機児童問題に取り組んできた大井琢弁護士だ。どんな理由で、違法といえるのだろうか。



●待機児童は「児童福祉法」と「憲法」に反する


「児童福祉法を見ると、共働き夫婦の家庭などが『保育を必要とする』場合で、認可保育所での保育を申し込んだ子どもについては、原則として市区町村が、認可保育所において保育をしなければならないとされています(同法24条1項)。市区町村が負うこのような義務を『保育の実施義務』といいます。



ですので、保育が必要であり、保育所における保育を申し込んだのに入所不承諾となった待機児童は、原則として、児童福祉法24条1項違反であり、違法です。つまり、市区町村が待機児童を放置することは、違法な状態を放置することになって、本来は許されません。市区町村は、児童福祉法24条1項に基づいて待機児童を解消する義務を負っていると言えます。



ただし、認可保育所への入所を申し込んだすべての待機児童について、認可保育所での保育を実施できるよう認可保育所を整備し、保育士を確保する義務を市区町村が負っているのかどうかは、議論の余地があります。私は、市区町村がそのような義務まで負うと考えています。



また、国については、保育の実施義務を直接には負っていませんが、私は、国も、待機児童を解消する義務を負っていると考えています。



ですから、保育園に子どもを預けられなかった保護者は、『国や自治体が義務を果たさず保育所整備を怠ったせいで不利益を受けた』という主張をして、国や市区町村に対して国家賠償請求訴訟などを起こすことができます。



裁判所の判決でこのような請求が認められるかはわかりませんが、深刻な待機児童の状況を司法の場で明らかにするために問題提起するという意味で、今後、このような訴訟を積極的にやるべきではないかと思います」



大井弁護士はこう述べる。さらに、待機児童は「憲法違反」でもあると指摘する。



「認可保育所に入所できる子どもと、入所不承諾となって待機児童となる子どもが生じているのは、『差別的な取り扱い』といえます。市区町村がそのような措置をとる合理的理由がないとすれば、『法の下の平等』を定めた憲法14条1項の平等原則にも、違反することになります」



●保育士の「ブラックな職場」は「国や市区町村がつくっている」


保育園に入れない待機児童がいる背景には、そもそも保育園が足りないことに加え、「保育士」が足りないという事情がある。国の調査によると、保育士資格を持っていながら保育士として働いていない「潜在保育士」は70万人以上いるとされる。彼ら彼女たちの復職を阻んでいるのは「待遇の悪さだ」と、大井弁護士は断言する。



「潜在保育士が復職しない理由は、給与などの待遇が悪いからです。これは、厚労省や東京都の保育士などに対する意識調査でも明らかです。厚労省は、潜在保育士を復職させようと、就職準備金の貸し付けや復帰に向けた研修などをおこなっているようですが、給与などの待遇の改善に直接つながらないこのような策は、効果があるとは思えません。



潜在保育士を復職させたいなら、まずは給与を上げるべきです。現状では、認可保育所の運営費は、人件費を含め、国や市区町村からの公費によってまかなわれていますが、その額は、国や市区町村が認可保育所に注文している開所日数や開所時間、保育の内容を実現するには、到底足りません。



国や市区町村は、認可保育所に対して、自分たちが注文した保育の内容の実現できるだけのお金を払っていないのに、『これだけの保育をやれ』と押し付け、そのしわ寄せが現場の保育士に及んでいるのです。このように、認可保育所は、ギリギリのお金で運営しているため、なかなか保育士の給与を上げられないという事情があります。



つまり、国や市区町村は、自ら『ブラックな職場』を作っているということです。国や市区町村が、自ら注文している保育の内容を実現できるだけのお金を認可保育所に払わなければ、保育士の待遇の悪さや潜在保育士の問題は、根本的に解決しないと思います」



●「少なくとも月7万円以上の給与アップが必要」


保育士の給与アップについては、民主党や共産党など野党5党が、「給与を月額5万円上げるための法案」を国会に提出したと報道されるなど、動きも起きている。



「その程度の給与引上げでは、充分ではありません。個人的には、5万円の給与アップでは足りず、少なくとも7万円以上、理想的には10万円は上げるべきだと思います。ただ、今まで『保育士の給与を上げるべきだ』という議論すらされてこなかったので、こうした検討がされていること自体は歓迎すべきだと思います。



今回、十数年以上にわたって根本的な対策がとられずにきた問題についての怒りが、いろいろな形で噴出していることを感じます。私は率直に『根本的な対策、つまり、保育をはじめとした子どもに関する施策に、きちんとお金と手間をかけるべきじゃないか。そうしないと、日本の未来はますます見通せなくなるんじゃないか』と考えています。



一個人のブログから始まった波を含めたいろいろな形での動きが、今度こそ、待機児童問題の解消や保育士の待遇の劇的な改善につながることを強く望んでいます」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
大井 琢(おおい・たく)弁護士
そよかぜ法律事務所(沖縄弁護士会)弁護士、沖縄弁護士会貧困問題対策委員会委員長。保育を中心とした0~5歳児への早期支援によって子どもの貧困を解消できるとの信念のもと、保育や待機児童などの問題に取り組んでいる。
事務所名:そよかぜ法律事務所