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ボビー・ギレスピーが語り尽くす、プライマル・スクリームのエネルギーの背景 「冒険に満ちた人生を送りたい」

2016年03月27日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

プライマル・スクリーム

 プライマル・スクリーム、そしてボビー・ギレスピーは、今なお鋭いサウンド感覚と高い批評性を持ち合わせながらフレッシュな刺激を発信する、稀有なロック・アーティストである。しかも彼らはこれを30年以上も続けているのだ。


 3年ぶりのニュー・アルバム『CHAOSMOSIS(カオスモシス)』では、サイケデリック、エレクトロ、ガレージといったバラエティなサウンドをミックスさせて響かせながらも、そうしたアプローチのいずれにも緩みがなく、緊張感のようなものが貫かれている。今作ではタイトル通りに混沌とした描写もあり、それは世界情勢とリンクする部分も大きい。しかしそれでも希望を決して見失わないこと。知識を得て、しっかりと前を見据えながら生きていくこと。ボビーへの電話インタビューを終え、このアルバムで最も重要なメッセージは、そうした姿勢をキープして生きることではないかと思った。


 この取材では、新作のことのみならず、とくに後半ではボビーの人間性や人生に関わることについても聞いてみた。快調そのものの彼の言葉は、まるで今から全盛期を迎えようとするバンドを思わせるような精気にあふれている。そして『CHAOSMOSIS』は、たしかにそれだけのアルバムなのだ。プライマル・スクリーム。やはり、並のバンドではない。(青木優)


・「喜びと苦しみの二面性がある」


ーーアルバム、素晴らしいです! 聴いてて、「やはり僕たちのプライマルだ!」と感じました。


ボビー・ギレスピー(以下、ボビー):「やはり僕たちのプライマル」? アハハ、いいね。嬉しいよ。


ーーボビー自身はどんな作品にしようと思いましたか?


ボビー:どの曲でもシングルになりうるようなアルバムを作りたいと思ったんだ。即効性のある、ハイエナジーなポップ・ソングをね。でも作業を進めていくうちに、内容がだんだんダークなものになっていったんだ。エクスタシーも存在するけど、リアルな哀しみも詰まっている。喜びと苦しみの二面性があるね。プライマル・スクリームのベストな曲にはそういう要素があると思う。僕たちの曲の中には「Movin’On Up」とか「Rocks」とか完全に喜びだけの曲もあれば、「Damaged」や「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」とか「I Can Change」、それから「Where The Light Gets In」にはリアルな哀しみが込められているんだ。


ボビー:でも全体的には、ただ素晴らしいアートを作りたかった、それだけだよ。スタジオに入るときには素晴らしいアートを作りたいと思うものなんだ。素晴らしい、21世紀のポップ・アートをね。


ーーうん、そういうアルバムです。プロデュースと作曲で参加しているビヨーン・イットリング(ピーター、ビヨーン・アンド・ジョン)とは良好な関係が築けているように感じます。今回の彼の起用にはどんな狙いがありましたか? そして実際の作業はいかがでしたか?


ボビー:狙いは、曲に感情移入していない人に、僕たちが決断をするときの手伝いをしてもらうことだったんだ。アンドリュー(・イネス/ギター)と僕がいて、そこにビヨーンが加わって共同でプロデュースを手がけた。時には3人で同時に曲を書きもしたよ。ただ、ビヨーンは感情から切り離したところで曲を冷静に見てくれるから、理性に適った決断をすることができたんだ。ビヨーンとは2008年にも『BEAUTIFUL FUTURE』というアルバムで一緒にやったことがあって、素晴らしいプロデューサーだと分かっていたから、いつかはまた一緒にやりたいと思っていたんだ。


ーー先ほどアルバムの中での二面性、エクスタシーとダークさについての話が出ましたが、ビヨーンの存在がそのバランスを決めるのに役立った面はありましたか?


ボビー:もちろん! 彼の意見はいつも的を射ていたよ。アンドリューも僕も、ビヨーンの意見を全面的に信頼しているんだ。本能的に素晴らしいプロデューサーでありソングライターだね。


ーービヨーンが、例えば「ここはダークすぎるからもっとエクスタシーの要素を入れたほうがバランスが良くなる」と言うとか?


ボビー:いや、ダークがどうこうというより、「あのさ、これあまり良くないよ」って感じだね!(笑) 「さあ、何か他のことをやろうよ。これじゃ退屈だ」「こういうのは前にもやったじゃないか」とかね。僕たちには、そうやってケツを蹴っ飛ばしてくれる奴が必要なんだよ。外部の意見があるというのは本当にいいことだったね。


・「痛みを避けるのは、人生のチャンスを避けること」


ーー(笑)わかりました。では先行シングル「Where the light gets in」についてです。スカイ・フェレイラはプライマルと親交が深い人ですが、この曲に起用した狙いを教えてください。


ボビー:これはデュエットを想定して書いた曲で、スカイのことは最初から頭にあった。僕たちは全員スカイの大ファンだからね。スカイの「Everything is Embarrassing」にみんな夢中でさ。あのシングルは本当に素晴らしいよね。あのアルバム(『Night Time, My Time』)を聴いて彼女の写真を見た時、「うわぁ、この子と一緒にアルバムを作りたい」と思ったんだ。そこから発展して、参加してもらうことになった。


ボビー:スカイはLAにいて、アンドリューと僕はロンドンにいたから、どっちもNYに飛んだんだ。NYで会って、そこでヴォーカルの部分を録音した。滞在時間は4時間くらいだったかな。録音が終わったら僕たちはロンドンに、彼女はLAに帰ったんだ。去年の4月のことだった。見事に歌ってくれたよ。全くの名演だね。


ーーですね。せつなく、そしてロマンチックに輝く、この時代のロックンロール版ゲンズブール&バーキンだと感じました。


ボビー:そう、それが狙いだったんだよ! 最高の褒め言葉だよ。この曲のビデオを見てもらえばわかるけど、それがアイディアであり、インスピレーションの一部だったんだ。歳食った男と若い美女が出てくるよ。ファッキンなくらい素晴らしいから。


ーーこの「Where the light gets in」という曲には、どんな思いが込められていますか? 僕はとくに〈The wound is a place where the light gets in〉(「この傷がついたのは 光が射しこむせい」の意)というフレーズが心に刺さったんですが……。


ボビー:あぁ、あの“wound(「傷」)”のところだね。ポエティックな言い方をしてみたんだ。傷ついた時というのは、知識というか、洞察を得るときなんだ。人生の教訓を学ぶんだよ。この曲の本当の意味はそういうところにある。苦しみは知識に繋がるものだからね。


ーーここで“the light”とはどんなものなんでしょう? “enlightenment(何かに開眼すること)”などにも繋がっているんでしょうか。


ボビー:そうだね。(きっぱりと)知識に開眼するんだ。ブルーなものとは付き合っていかなければならない。そうしてブルースが歌えるようになるんだからね。人生の中で、自分に学ばせてくれる唯一のものは経験なんだ。経験のない人間はナイーヴ(注:「うぶ」「分かっていない」等の意)で無知なんだ。世の中を渡っていく唯一の方法は、苦難を受けて立ってちゃんと傷つくことだと思う。そうしないといい兵士にはなれないんだ。愛の兵士にね!(笑)


ーーということは、“wound”というのは人生の中でのダークな経験や、世の中で起こっているダークなこと、そして“light”はそこからポジティヴな方向に導いてくれるものを意味するのでしょうか。


ボビー:うーん……まぁ、そうかな。多くの人はあまり学習しないけどね(笑)。大抵の人は傷ついたらイチからやり直しだ。人間ってのはそもそも中毒性を持ちやすい生き物だからね。恋愛中毒、人間関係中毒……これはアンチ・ラブソングなんだ。ロマンチックなアンチ・ラブソング。永遠のロマンチストが書いたアンチ・ラブソング……って、自分でもどういう意味か分からないけど(笑)。僕が言いたいのはそんなことだね。


ーーこれもまたコントラストがありますね。


ボビー:そうだね。僕は全面的にロマンチックだけど、僕はいつもアンチ・ラブなんだ。誰かが僕に「誰それが結婚するんだって」って言ってきても、僕は笑うだけなんだ。「何てこった!」と思うんだよ。僕自身結婚しているからね!(笑) 何て言うのかな……恋愛の話はしたくないんだよね。僕はロマンティックな男だけど、傷ついた男でもあるからさ……というか、アーティストになるには、傷つかないといけないと思う。何らかの形の戦争状態を潜り抜けた経験がないと。それが比喩的な意味の戦争だったとしてもね。何らかの形での苦闘を経験していないと、モノが書けないと思う。書く題材がないとね。


ーー確かにそれはありますよね。最も素晴らしいものが、最悪の経験から生まれることもあるかも知れませんし。


ボビー:そう、その通りだよ。時には痛みも素晴らしいものになり得るんだ。思うに、痛みを避けるのは、人生のチャンスを避けることを意味するんじゃないかな。苦しみそうなシチュエーションを避けたり、何かと向き合うことを避けてしまったら、アーティストには決してなれないし、愛される人物になれないと思う。愛するというのは、苦しみに耐えることだからね。それがファッキンな事実だよ。そうだろう?


ーーそう思います。ナイーヴな人たちはいいアーティストにはなれない、とも思いますね。


ボビー:僕もそう思うね。僕はいつも、冒険に満ちた人生を送りたいって言ってるんだ。居心地のいいところに安住している存在にはなりたくない。実際に現場に行って何が起こっているのか見て、それをレポートして返したいんだ。リアルな人間というのはそうやって生きていると思うからね。


・「時代のカオスを変えて、美しい芸術作品にしたい」


ーーところで今回はスカイ、ハイム、キャッツ・アイズのレイチェル・ゼフィラとゲスト陣に女性が多く、彼女たちの声や感性が重要なポイントになっている局面があります。女性たちを起用した狙いは何でしょう?


ボビー:純粋にプロダクション的な選択だったよ。「Trippin’On Your Love」や「100% or Nothing」は僕の声だけだと足りないというか、サビのところにもっと声が欲しかったんだ。それでハイム姉妹に声をかけた。彼女たちがファンタスティックなシンガーだってことは分かっていたからね。ゴスペル・スタイルで歌うんだ。とてもセクシーでとてもファンキーで、しかも声にリアルなパーソナリティが現れている。聴けば、彼女たちだってすぐ分かるんだ。ユニークで傑出したものにしたかった。それでハイム姉妹に声をかけたんだ。


ーーとても厚みのある声ですよね。


ボビー:そう、とてもパワフルでファンキーだよ。ユダヤ系アメリカ人の白人の女の子たちが、黒人の女の子みたいな歌い方をする。あれは凄いよ。ゴスペル出身かは分からないけど、それっぽい感じの歌い方だよね。とにかく素晴らしいミュージシャンだよ。天然の才能があるね。目の前で歌ってもらったけど、最高だったよ。グラストンベリーでは一緒にやったしね。


ーーご自分の声と、スカイやハイム姉妹の声とのコンビネーションはいかがですか。


ボビー:きれいなコンビネーションになったと思う。このアルバムに極めてスペシャルなものをもたらしてくれているね。この子たちが僕たちと共演したいと思ってくれたなんて光栄だよ。スカイとハイム姉妹とレイチェルには一生感謝する。レイチェル・ゼフィラも「Golden Rope」と「Private Wars」で歌ってくれたんだ。


ーーそれから本作のタイトルには、混沌とした、不安定なこの時代をポジティヴに向けようとする意識があるのかな、と感じました。


ボビー:たしかにそれはあるね。時代のカオスを変えて、美しい芸術作品にしたいという気持ちがあったから。それを武器として、時代のカオスと闘うという感じかな。人々にインスピレーションを与えて気分を上げて、強さや希望をもたらしたいね。エネルギーになるものを。


ーー曲を作る時は、そういう政治的な懸念というのは頭にありますか。


ボビー:そう、そうだね。プライマル・スクリームは間違いなくそうだ。僕たちはアンチ資本主義だからね。「Golden Rope」、あと「Autumn in Paradise」もそういう曲なんだ。


ーーアルバムの最後の2曲ですね。さて、ボビーもここまでいろいろなことを乗り越えてきたと思いますけど、ご自身の人生をどんなふうに思っていますか? 今、50代前半でしたよね。


ボビー:まだ始まったばかりのような気がするよ。やっと自分を見つけ始めたというのかな。僕たちはどんどんいい状態になっているような気がする。


――まだ始まったばかり? じゃあアルバムを出すたびに生まれ変わっているような感じなのでしょうか。


ボビー:そんな感じだね。いい言い方だなぁ。自分でもとても若い気がするよ。ヴァン・モリソンも言っていたけどね、”to be born again”って。ほら、「Astral Weeks」って歌があるだろう? ♪To be born again~♪(と歌う) ……それが僕さ、ベイビー!(笑)


ーー出すたびに生まれ変わっているということは、歳を取った気分になる必要もないかも知れませんね。


ボビー:ないねぇ。歳取った気分は全然しないよ。


ーーと言いつつ、歳を重ねながらロックンロールをやり続けるのには大変なことも多いと思いますけど、その気持ちはどうですか?


ボビー:確かに大変ではあるよ。特に2000年代初頭は、妻と出会って、家庭を持ったからね。僕にとっては大変な時期だったよ。ツアーではファッキンでクレイジーなロックンロール・ガイだったからね。家にはベイビーと妻がいるのにさ。例えばバンドで12日間ツアーで日本に行くとするだろう? そうしたら12日間ぶっ通しで起きてるんだ。あ、数時間は寝るかも知れないけど、それほどハイパーだったんだよ。家では真面目でまともな家庭人だったけどね。そのバランスをうまく取れるようになるには数年かかった。今は、クレイジーなのはステージの上だけだよ! クレイジーなロックンロール・ライフスタイルはもうやっていないんだ。アーティストとして、ステージの上ではクレイジーになるけど、その後自分を破滅させるようなことはもうしていない。それまではとても自滅的な男だったんだけどね。ステージ上は、アーティストとしてハイエナジーなパフォーマンスを見せる。でもステージを下りたら、自分を殺すことになるようなことはしないんだ。


ーーご家族のためにも?


ボビー:そう、そう。


ーーファンのためでもありますよね。あなたが破滅する姿は誰も見たくないわけですから。


ボビー:全くそうだよ。ファンがあっての自分たちだからね。『MORE LIGHT』も『CHAOSMOSIS』も、ほんとにクールなアルバムができたよ。


ーーそうやってオンとオフのバランスを取れるようになったことが、最近の作品の素晴らしさに繋がっているということですか?


ボビー:そう、その通りだよ。(きっぱり)それまで僕の人生はとてもカオスに満ちていた。極端すぎて、自分で自分をものすごくアンハッピーにしていたんだ。今はずっとハッピーだよ。


ーー曲の中でのエクスタシーとダークさのバランスもさることながら、あなた自身がよりハッピーになって、よりバランスの取れた生活を送れるようになったことが、このアルバムからは伝わってくるのかも知れませんね。だって、聴いた後の感触がポジティヴなんですよ。


ボビー:良かった。僕自身も、インスピレーションを与えられるアルバムになったと思っているんだ。


・「同じアルバムを2回は作らない」


ーーそんなふうに、今なおロックし続けているプライマルの存在にはとても勇気づけられます。その秘訣は何なんでしょうか?


ボビー:僕たちはシリアスなアーティストなんだ。アートを真面目に考えている。僕とアンドリューは勤勉なんだ。スタジオを持っていて、週に5日は一緒に行くからね。だから今もこうしていられるんだと思う。それから僕たちは、オープン・マインドなアーティストなんだ。今日のアートに興味があって、若者たちのアートや、あらゆるアートに興味がある。過去にしがみついていないんだ。20年前と同じ音のアルバムは作らないしね。新しいアルバムはフレッシュで新しい音がする。僕たちは今を生きていて、過去を向いて生きている訳じゃないからね。同じアルバムを2回は作らない。そう、デヴィッド・ボウイみたいにね……デヴィッド・ボウイは僕たちにとって大きなインスピレーションだった。『ジギー・スターダスト』、『アラジン・セイン』、『ダイヤモンドの犬』、『ヤング・アメリカン』……『ステイション・トゥ・ステイション』、『ロウ』、『ヒーローズ』……アルバムを出すたびに彼は変わっていった。あの人は……彼が亡くなってしまって、今も本当に悲しいよ。


ーーはい。新しいアルバムの『★』も革新的でしたよね。


ボビー:それが、アルバムはアナログで買ったんだけどさ、まだ時間がなくて聴いていないんだ。君たちと話していたからね!(爆笑) そうでなくてもリハーサルもあったし。そう……彼はいつも未来を向いていた。音楽も大好きだけど、彼の何に一番インスパイアされるかって、アーティストとしての姿勢だよ。常に未来を向いていたからね。ファンを失うことも決して恐れなかった。ポップ・ミュージックというメディアを使って、自己表現を生涯続けていった人だったんだ。


ーーそうですね。では、そろそろ時間です。今日はありがとうございました! で、プライマルには今年の夏フェスあたりでそろそろ日本に来てくれないかなと思ってるんですが、どうでしょう?


ボビー:僕たちもそう思ってるよ。日本は僕たちみんな大好きな場所だしね。日本にはもう25回以上行ったんじゃないかな。初めて行ったのは1990年だった。それ以来、プライマル・スクリームと日本のみんなとは密接につながってるから、本当に早く行きたいと思ってるよ。まだアジア方面へのツアーは決まっていないけど、できるだけ早くね。


ーー楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました!


ボビー:こちらこそありがとう! バイバイ!
(取材・文=青木優)