2016年03月27日 10:32 弁護士ドットコム
少しずつ春の気配が感じられるようになってきた。新しい年度が始まる4月から、心機一転、新しい職場で働くことが決まり、期待に胸をふくらませている人もいるかもしれない。
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ところが、「彼女が転職先から入社11日前に内定取り消しになった」という相談が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられた。投稿者の男性によると、「理由は人員確保ができなくなり、直営化が難しく取り消しになった」とのことだ。
その彼女は、入社してから2週間ほど他県の店舗に研修に行く予定で、乗車券なども実費で準備していたそうだ。男性は彼女の転職先が決まり、結婚を前提に同棲しようと引っ越しも考えていたという。その矢先に内定が取り消しとなり、「再度転職先を探さねばならなくなり大いに悲しんでいる」と話す。
今回のケースのように、入社直前で内定取り消しとなった場合、何らかの補償を会社に求めることはできないのだろうか。そもそも、「人員確保ができなくなった」といった会社側の都合で内定を取り消すことに、法的な問題はないのだろうか。竹之内洋人弁護士に聞いた。
「『内定』は、法的には、『就労始期付解約権留保付労働契約の成立』と解されています。
難しい言い方ですが、簡単に言うと、入社日から働き始めるという『期限』がついていて、かつ、従業員として不適格であると入社日より前に分かった場合などには、会社が『解約権』を行使して内定を取り消すことがありうると『留保』している労働契約ということです」
竹之内弁護士はこのように解説する。
「実際に働くのは先ですが、労働契約自体は内定時に成立しています。内定取り消しは、労働契約を一方的に破棄することであり、会社側が勝手な理由で行うことはできません。
ただ、上で見たように、会社には『解約権』があります。客観的に合理的と認められ、社会通念上相当といえる場合には、内定取り消しが法的に認められる場合もあります。たとえば、内定者が傷病により動けなくなった場合や、会社に整理解雇を行わざるを得ないほど深刻な経営悪化が生じた場合などです。
相談のケースについては、内定取り消しが法的に認められるのだろうか。
「本件は、人員確保ができず新しい部署を発足させることができなかったというケースのようですが、内定前後の諸事情、また、他の部署での勤務など、内定取消以外の対応策がないのかといったことが問われるでしょう。
仮に内定取消が相当性を欠くとされた場合は、労働契約は成立している以上、就職予定日からの賃金を請求できると考えられます。
また、仮に内定取消は相当であるとされ、賃金を請求できない場合でも、会社側の対応や内定前後の諸事情などによっては、別途、慰謝料などが認められる可能性もあります。乗車券のキャンセル料などの就職準備費用も、賠償を求めうる場合があるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
竹之内 洋人(たけのうち・ひろと)弁護士
札幌弁護士会、日本労働弁護団員、元日本弁護士連合会労働法制委員会委員
事務所名:公園通り法律事務所
事務所URL:http://www.pslaw.jp/