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「パパに殴られる」と子どもが訴え…「親権停止」ってどんな制度?

2016年03月27日 10:22  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

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離婚するとき、その子が幸せに育っていくことを望んで、泣く泣く手ばなした親権。離れて暮らす側の親にとっては、その子が元気で暮らしているのか、気がかなりなはずです。


8歳の息子の親権を夫にわたして離婚した女性から、弁護士ドットコムの法律相談に「先日の面会交流で、息子が『パパに殴られる』と泣きながら話していました」として、親権者を自分に変更できないか、と相談が寄せられました。


いちど決まった親権者を変更することはできるのでしょうか? どのような手続きができるのか、中田憲悟弁護士に詳細な解説をしていただきました。


A. 親権を一時的に停止させる制度があります


親権をもつ親が子どもを虐待している場合、親権を一時的に停止させる、「親権停止」という制度があります。2011年の民法改正で作られた制度で、親権者が子どもの利益を害するときに、「2年を超えない範囲内」で、親権を停止するという内容です。


親権停止制度は、次のような場合に、非常に有効といえます。


例えば、子どもが病気になり、手術等の治療をすれば非常に高い確率で命を失わずに済むのに、親権者が宗教上や思想上の理由で手術に同意しないなどのケースです。


こうした場合、治療の間だけ「親権を一時的に停止」することが問題解決に繋がるでしょう。


もちろん、親権者が子どもに暴力をふるったり、食事を与えずに放置したりする虐待行為に対しても、親権停止制度を利用することができます。


しかし、児童虐待の中でも、子どもが命を失うような緊急性が高い案件には、この制度は不向きかもしれません。なぜなら、親権停止制度は家庭裁判所による裁判手続を前提とするため、利用できるようになるまである程度の時間がかかります。この制度だけでは、今にも命を落としたり、大怪我をしてしまうのではないかといった緊急事態には対応できないのです。


子どもが命を失う危険性のあるような緊急事態に対しては、警察の援助も得ながら、児童相談所に子どもを一時保護したうえで、家庭裁判所の承認を得て親子を分離し、子どもを児童養護施設に預けるという仕組みがあります。


ただ、この仕組みがより有効に機能するためには、国民が意識を高め、虐待の気配に気づいたときは、児童相談所や市町村の窓口に通告をすることが必要です。


それに加えて、児童虐待に関する専門家の育成も必要でしょう。なぜなら、児童相談所が通告を受け、警察を伴って安否確認をする際に、子どもの怪我の様子や表情、親の怪我に関する説明から、虐待の疑いを察知しなければならないからです。児童虐待に向けての取り組みには、まだ様々な課題があると言えます。




【取材協力弁護士】
中田 憲悟(なかた・けんご)弁護士
はばたき法律事務所所長
広島大学法科大学院教授(実務家みなし専任)
事務所名:はばたき法律事務所
事務所URL:http://www.habataki-hiroshima.com/index.shtml