インドネシアから初めて誕生したF1ドライバー、リオ・ハリアント。GP2時代から何度か会ってはあるものの彼のことは、ほとんど知らない。本人に直接インタビューする前に、開幕戦に来ていたインドネシア人ジャーナリストに予備取材してみた。
まずはインドネシアのモータースポーツ事情から。ラリーとツーリングカーの小さな選手権があるが、4輪レースの裾野は広くない。父シンヨ・ハリアントもラリードライバーで、その影響で幼い時からカートを始めたのだという。シンヨ氏はインドネシア最大の文房具メーカーを経営しており、カート時代から現在に至るまで息子の財政的なサポートも万全だ。ちなみにマノーのマシンについている「KIKY」というロゴが、その文房具メーカーだ。
このあたりまで聞いたところで、気になっていたことを質問してみた。「もしかしてハリアントはF1初のイスラム教徒ドライバーじゃないのか?」。すると記者は、きょとんとした顔をして「考えたこともなかった」と言う。全国民の90%がイスラム教徒であるインドネシア人にとって、そんなことは珍しくも何ともないのだろう。
「マレーシアのアレックス・ユーンが、もしかしたらイスラム教徒だった?」と聞くと、別のジャーナリストが「いや、彼は違う」と断言。「ユーンのお父さんはイスラム教徒だけど、彼は入信しなかったんだ」と、やたらに詳しい。ということは十中八九、ハリアントが史上初のイスラム教徒F1ドライバーということで間違いなさそうだ。
イスラム教徒といえば、お祈りやらラマダン(断食月)やら、いろいろレースに支障が出てきそうな風習がある。しかし「大丈夫、問題ない」と最初の記者は言う。
「インドネシアのイスラム教徒は結構“いいかげん”なんだ。僕もビールを飲んだりするしね。その点リオは厳格で、1日5回のお祈りを欠かさない。でもサーキットにいたりして昼間お祈りできないときは、あとでまとめて祈れば良いことになっている。ラマダンも今年は6月で、カナダとアゼルバイジャンがあるよね。さすがにレースを戦いながら、飲まず食わずってわけにはいかない。これもレースが終わってから、まとめてできるんだ」
なるほど、そういう例外条項があるのですね。あとは表彰台に上がったときのシャンパンだが、「さすがに、それはノンアルコールにしてもらうしかないね」とのことだった。