2016年03月26日 11:52 弁護士ドットコム
玩具メーカー大手のバンダイが、「必殺技」という単語を商標として登録するよう特許庁に出願していることが3月中旬に判明した。報道によると、出願は1月19日付。テレビゲーム機やトレーディングカードゲーム、スロットマシンや釣り具などの区分での商標登録を目指しているという。
【関連記事:「AV出演」が知人にバレた!「恥ずかしくて死にたい」・・・回収や削除は可能か?】
このニュースについて、ネット上では「今後この三文字使用に許可や金がいるのか アホくさ」といった意見があがっていた。そもそも、商標登録とはどういうことなのだろう。もし「必殺技」が商標登録された場合、他のゲーム会社などは勝手に「必殺技」という単語を使えなくなってしまうのか。岩永利彦弁護士に聞いた。
「商標登録とは、正確には、商標登録出願のことです(商標法5条)。自分の商品やサービスに使用しているか、使用したい商標について、特許庁へ出願し、審査を経て、登録が認められると、その商標は自分だけが独占的に使えるようになります。
商標制度とはこのように、自分の商品やサービスと他人のそれとを区別するための『マーク』を保護し(識別標識機能)、ひいてはマークが持つ『信用』や『経済的な価値』を保護するための制度です」
岩永弁護士はこのように解説する。
「ただ、本件で、『必殺技』が商標として登録される可能性は低いと思われます。
ゲーム機や遊戯用カードに『必殺技』という商標を付すと、対戦相手に勝てるゲームや、負けない強いカードのようなイメージが生じますよね。つまり、『必殺技』は、その商品の品質や特性などを表しているだけで、自分の商品やサービスと他人のそれとを識別する機能はないように思います。
ですので、そのような、品質等を表しただけで識別標識機能がないものは、商標として登録できないことになっています(商標法3条1項3号)。こうした商標を『記述的商標』と呼ぶこともあります」
本件での登録の可能性は少ないということだが、仮に登録された場合、他の会社は「必殺技」という言葉を商品名などとして使えなくなるのだろうか。
「まず、本件での指定商品であるゲーム機や遊戯用カード、それに類似した商品には、『必殺技』という商標は、権利を持っている人の許可を得ない限り、使用できなくなるのが原則です。一方、上記の指定商品以外なら、問題にはならないでしょう。
次に、すでに他社がゲーム機や遊戯用カードなどの指定商品や、それに類似した商品に『必殺技』という商標を使っていた場合、その商品が誰にでも知られているくらい有名であれば、先に使用する権利が認められ、その他社は使用し続けてもよいことになっています(商標法32条)。
もっとも、本件の『必殺技』は出願しただけでまだ登録されていませんし、上記の通り、登録される可能性は低いと思われます。仮に登録されたとしても、登録公報の発行から2カ月以内に誰でも異議申立てができます(商標法43条の2)。
また、本件の『必殺技』は記述的商標と思われますので、他の会社が『必殺技』をゲーム機等に、その品質などを表すために使っているだけの場合は、商標権侵害になりません(商標法26条1項3号又は6号)。ですので、そんなに慌てる必要はないのかなと思います。
疑問に思うのは、このような状況にもかかわらず、なぜバンダイが商標登録出願をしたかということです。日本の法制度は上記のとおりですが、外国では異なる場合もありえるので、外国での何らかの対策のために布石を打ったのかもしれません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岩永 利彦(いわなが・としひこ)弁護士
ネット等のIT系やモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。
メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。著書「知財実務のセオリー」好評発売中。
事務所名:岩永総合法律事務所
事務所URL:http://www.iwanagalaw.jp/