2016年03月26日 11:01 リアルサウンド
成海璃子が主演を務める『無伴奏』が、本日3月26日より公開された。小池真理子の半自叙伝的小説の映画化作品となる本作の舞台は、1969年から1971年の仙台。友人たちと制服廃止闘争委員会を結成し革命を訴えるも、学園紛争を真似しているだけの自分に嫌気がさしていた女子高生の響子が、クラシック音楽が流れるバロック喫茶で、大学生の渉と祐之介、祐之介の彼女であるエマの3人と出会い、次第に渉に惹かれていく模様を描いたラブストーリーだ。メガホンを取ったのは、『3月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』の矢崎仁司監督。リアルサウンド映画部では、主人公響子役を演じた成海璃子とメガホンを取った矢崎監督に取材を行い、本作の製作の裏側や、大胆なラブシーンなどについて話を訊いた。
参考:斎藤工と池松壮亮、ぶつかり合う“色気と技術”ーー『無伴奏』ラブシーンの凄みに迫る
■成海「『え!? こういう話なの?』っていうのが第一印象でした」
ーーまず監督にお伺いしますが、小池真理子さんの原作小説との出会いについて教えていただけますか?
矢崎仁司監督(以下、矢崎):小池さんは昔から好きな小説家で、初期の頃の作品など、映画にしたいなと思う作品がいくつかあったんです。なので今回、この企画が来た時は嬉しかったですね。お話をいただいて具体的に動き出そうとしたら、震災が起こって仙台を舞台に撮れなくなってしまったので、撮影が延びたりもしたんですけど、企画自体は6年前から動いていました。原作の中の響子に惚れてしまったと言いますか。小池さんにお会いしたとき「響子は私です」とおっしゃっていて、小池さんの過去のエッセイなどもいっぱい読んだんですけど、仙台で過ごされた多感な時期についてのエッセイがすごく多くて。さすが「響子は私です」と言うぐらい、響子には小池さんが投影されていたんですね。
ーー成海さんは響子役を演じる上で意識したことはありましたか?
成海璃子(以下、成海):私は原作は読んでいなくて、いただいた脚本で撮影に臨みました。脚本を読んだ時に、響子にはすごいエネルギーがあると思ったんです。私が響子だったらすぐ身を引いてしまいそうなところを、響子は絶対に引かないし、最終的にはすべてひとりで受け止める。本当にすべてをひとりで受け止める。そういう役だったので、かなり覚悟はしましたね。あと、「あなたと一緒にいたい」というようなことをサラッと言えちゃうような素直な人間なので、私も素直でいようと思いました。
ーー6年前から企画があって、具体的に動き始めたのはいつ頃からだったのでしょうか?
矢崎:ここ1年ぐらいですかね……。シナリオも変わったんですよ。最初のシナリオは250ページぐらいの長いもので、原作に忠実だったんです。でも、過去の話にしたくないという意見から、原作のように、現在から1969年に戻ってまた現在に行くという構成ではなく、その時代だけを切り取る形にしました。原作の通りに映画にしてしまうと、「昔こういう話がありました」というような、その時代に生きていた人たちの物語にしかならない感じがしたんです。今の若い人たちも、あの当時の若い人たちも、ほとんど変わらないんですよ。何かに反抗したり、熱烈に恋をしたり、思春期から大人へ変化する美しさを映し撮りたいという気分でした。
成海:最初に脚本を読んだ時、展開にちょっと驚いたんですよ。「え!? こういう話なの?」っていうのが第一印象で、すごい話がきたなと思いました。
ーーすぐに「やります!」というような感じではなかったと。
成海:そうですね、そういうテンションではなかったです。私自身、ラブストーリーをほとんどやったことがなかったので、私にこの役が回ってきたのはちょっと意外で。最初は本当に意外なことばかりだったんですよ。で、とりあえず矢崎さんと登山(プロデューサー)さんに会いましょうということになって、お会いしたんですけど、何を話したかあんまり覚えてない(笑)。何話しましたっけ?(笑)
登山プロデューサー:サシャ・バロン・コーエンの話。
成海:ああ! 私が好きな俳優の話です(笑)。サシャ・バロン・コーエンにすごく感動してるっていう話を矢崎さんと登山さんにしたんです。
矢崎:僕はその時まだ彼の出演作品を観ていなかったので、家に帰って慌てて観たんですよ。そしたら、「成海さん、すごいやる気だぞ!」みたいな感じで(笑)。
成海:「成海さんこんなことやってくれるのか!」って思われたかもしれない(笑)。
矢崎:うん。とにかく「うわっ!」と思いましたね。
成海:(笑)。そこでお会いして、すぐにやるってことになったんですよね。
矢崎:初めてお会いしたあの日、歩いて来られた成海さんを見て、「あっ、響子が来た」と思ったんですよ。そして別れ際に握手した時に、「あ、決まったな」と思いました。
成海:そうですね。そんな雰囲気でした。
矢崎:それで家に帰って、サシャ・バロン・コーエン観て、「うわっ!すごいやる気だ!」って(笑)。
成海:ははは(笑)。『ボラット』とか『ブルーノ』のあの三部作が大好きで。役者として尊敬してるんですよ。
ーー矢崎監督にとっては昨年公開された『XXX』以来1年ぶりの作品ですが、製作は同時進行で進んでいたんですか?
矢崎:『XXX』は一昨年の夏に撮影を終えて、編集を始めようとした時にちょうどこの映画が動き出したんです。『XXX』はインディーズ映画だったので、一回ストップして、『無伴奏』に集中することにしました。で、去年の6月29日に『無伴奏』の関係者向け初号試写をして、7月1日から『XXX』を編集し始めたって感じですね。それまで原作モノが多かったこともあって、思いっきり昔のようなインディーズの映画をまた撮ってみたいなという思いがあったので、本当にノーバジェットで合宿のような映画を『XXX』でやったんですよ。結果、自分がすごく自由になれたので、『無伴奏』へのいい滑走路になったなという気がしますね。『XXX』は今も横浜や大阪で公開してますし、新作二本、観比べてほしいですね。
ーー成海さんは監督の作品はご覧になっていたんですか?
成海:今回ご一緒する前に『ストロベリーショートケイクス』を観ました。監督の作品は音が少ないという印象でした。音楽がガンガン鳴っているのが想像できないというか。今回、実際にご一緒させていただいて、衣装合わせに時間をかけるのに驚いたんですよ。私は普段は1回で決まるんですけど、2~3回衣装合わせをして、見た目だけじゃなくて着心地がいいかまで聞いてくれて。これまでそういうことはなかったので面白かったです。あと、最初のほうにまず、「監督と呼ばないで」って言われたのにビックリしたんです。いつもの癖で監督のことは「監督」って呼んじゃうんですよ。そんなこと言われたのも初めてだったので、現場入りたての時は、「かん…矢崎さん!」という感じでした(笑)。
矢崎:「監督と呼ばないで」っていうのは、まあ出会った人とずっと映画を作っていくわけなので、ポジションで呼んだことがないと言いますか……。一緒に映画を作るという同じ列車に乗っているのに、ポジションでしか呼ばないのはよくないなと思って。世界中でその人しかいない人たちと一緒に映画を作っているわけで、絶対ポジションではないんですよ。
成海:しかも監督だけですもんね、ポジションで呼ばれちゃうのって。「照明さん!」って誰も呼びませんもん。だから現場ではみんな「矢崎さん」って呼んでいましたね。
■矢崎「成海さんを少女から大人の女性にするぞという決意を持って挑んだ」
ーー現場の雰囲気は割と和気藹々とした感じだったんですか?
成海:楽しかったですけど、撮影は結構過酷でしたでした。まず寒かったんです。冬の撮影なのに、夏服を着るシーンが多くて、浜辺で水着のシーンもあったりました。撮影は私と池松さんと斎藤さんと遠藤さんの4人のシーンが多かったので、4人でいる時はくだらない話をして盛り上がったりしてました。あと、池松さんと2人のシーンも多かったんですけど、池松さんがすごく頼り甲斐がありました。
矢崎:監督より頼り甲斐あったでしょ?(笑)
成海:いやいやいや!(笑)
矢崎:僕も俳優の皆さんには本当に助けられているんですけど、池松さんはその中でも頼り甲斐があって、監督以上に映画全体を考えているので、何度も助けられましたね。
成海:一緒に戦った仲間って感じですよね。
ーー成海さんは性格的にも響子に近いのかなと思ったんですけど、実際はどうなんでしょう?
成海:私は自分の考えや思っていることを言葉にするのがすごく苦手なので、そこはもう響子とはまったく違いますね。あと私は思ったことをすぐ言っちゃうので、響子のような健気さもないです(笑)。でも例えば、ひとりの人をすごく好きになった場合、その人にどんなことが起こっても、好きだったらもう追いかけるしかないっていうのは想像できたので、そこは共感できました。
矢崎:この間偶然、久しぶりに『神童』(成海の映画初主演作)のDVDを観て、フッと気づいたことがあって。僕が成海さんを知ったのは『神童』のうたちゃん役で、あの映画の成海さんに恋をしたんだなって思ったんです。あの『神童』の少女は反骨精神もあり、弱い部分もむき出しにして生きているような子だった。それで響子役はどうしても成海さんにお願いしようとしたんだなって。響子は今まで成海さんが演じられてきたような強い面が表に出ているキャラクターではなく、素直で、弱い部分もすごくあって、むき出しみたいな感じで、『神童』のうたちゃんと通じる部分があった。だから、完成した『無伴奏』を観て、逆に気付きましたね。中学一年生の成海さんに恋をして、彼女を少女から大人の女性にするぞという決意を持ってこの映画に挑んだのは、そういうことなんだなって。
成海:そう、思い出しました。クランクイン前、矢崎さんと池松さんに初めて会った日に食事に行ったじゃないですか? そのときに矢崎さんが「成海さんの代表作にするつもりでいます」というようなことを言っていたんです。矢崎さん自身の代表作にもすると言っていましたけど、池松さんも「この映画は成海さんなんで」みたいなことを言っていたんです。その言葉を聞いて、私自身もすごくそういう気持ちになりましたね。
ーー矢崎監督が言っていた“少女から大人の女性に”という意味では大胆なラブシーンもありますが、抵抗などはありませんでしたか?
成海:ラブシーンへの抵抗は特になかったです。脚本だと2行くらいなんですよ(笑)。情報量が少ないから、これは結局どういうことをやってるんだろう? って想像しながら現場に行って、その説明を受けるのが面白くて(笑)。「このシーンはこういう体位でやります!」という説明を聞いて、私は「はい…」という感じ(笑)。
矢崎:『神童』で出会った少女が大人の女性になる瞬間に立ち会えたっていう感じがして、僕にとってはそれがすごい嬉しかったですね。私が成海さんの制服を脱がしたかった。成海さんは素晴らしい俳優です。撮影をしていても、なんていい顔をするんだろうって何度も思ったし、何回か泣きました。
成海:そうですよね。知ってます(笑)。
矢崎:バレてるんだけど(笑)。でも思い出しただけでも目がウルウルしちゃいますよね。自分の映画の中に、「変化する瞬間が美しい」というようなセリフが出てくるんですよ。この作品では、その「変わる瞬間の美しさ」を、成海さんで証明しようとしたんです。この美しい成海さんを是非観てほしい。本当に成海さんは美しかった。(取材・文=宮川翔)