2016年03月25日 15:02 弁護士ドットコム
妻以外の女性との「不倫」が発覚した乙武洋匡さん。「一夫一婦制では不満足」と報じた週刊新潮の発売日に公式サイトですばやく謝罪し、火消しをはかっている。不倫で謝罪するのは珍しいことではない。だが、乙武さんのケースで異例なのは、妻も一緒に「謝罪声明」をだしたことだ。
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乙武さんの妻・仁美さんは声明の中で「このような事態を招いたことについては、妻である私にも責任の一端があると感じております」「本人はもちろん、私も深く反省しております」と記し、夫が不貞を働いた責任の一端が自分にもあるとした。
しかし、このような妻の声明に対しては、「妻に謝罪コメント出させるなんて、サイテーだにゃ」(江川紹子さん)、「浮気は彼女が悪い? 不倫は妻が悪い? そーいう考え方やだ!!」(鈴木紗理奈さん)と、女性から批判の声があがっている。
一般的に、不倫は民法上の「不法行為」とされ、もし夫が妻以外の女性と肉体関係をもてば、妻はその相手女性に対して慰謝料を請求できる。そんなとき、慰謝料を請求された相手女性は「不倫された妻にも責任がある」と反論できるのだろうか。慰謝料を減らすため、妻の「落ち度」を主張することは認められるのか。男女関係をめぐる法律問題にくわしい濵門俊也弁護士に聞いた。
「今回の乙武さんの奥さまのコメントは、『先』を見据えた深謀遠慮(ここではコメントを差し控えます)に基づくものであり、一々コメントすることはあまり意味がないものと、私的には考えています。その意味において、江川さんや鈴木さんのコメントは的を得ていないと思います」
と断りつつ、濵門弁護士はこう続ける。
「ただ、慰謝料を請求された不倫相手の女性が『不倫された妻にも責任がある』と反論できるかどうかと言えば、『できる場合もある』ということになります。
誤解のないように述べておきますが、あくまでも不貞行為に及んだ人(本件でいえば夫)が責任を負うものであり、その配偶者(本件でいえば妻)が法的責任を負うものではありません」
いったい、どういうことなのか。
「『できる場合もある』と述べたのは、相手女性が『すでに婚姻関係が破綻している』と主張できる場合があるという話です。
この主張は、不貞行為の相手方に損害賠償を請求する事件において、ほとんどの事案で相手方から主張される抗弁です。もっとも、この抗弁が裁判で認められるようになったのは意外に新しく、1996年の最高裁判決(最三小判平成8年3月26日)がその嚆矢となっています」
相手女性からの「婚姻関係が破綻していた」という主張が常に認められるかといえば、必ずしもそうではないようだ。
「裁判所による『すでに婚姻関係が破綻していた』という認定は、夫婦間の関係を全体として客観的に評価することとされています。すなわち、当事者の主観のみで判断されるものではない、という点に注意が必要です。
相手女性としては、慰謝料の金額を減らすか責任を免れるために、妻の『落ち度』を主張することがありえるでしょう。具体的には、夫婦間の慈しみが失われ、会話や食事等の日常的接触を避けるようになってからある程度の期間が経過し、さらに寝室や家計までも別々であった、などといった主張することが考えられます。
しかし、相手女性が主観的に『婚姻関係が破綻していた』と考えていたとしても、その主張がそのまま裁判所に認められるわけではありません」
乙武さんのケースではどうだろうか。
「報道を見る限り、今回の場合は『婚姻関係が破綻していた』という状況にあったとはいえないように思います。また、公表された声明によれば、奥様は乙武さんを許していると考えられますので、そもそも、乙武さんと不貞行為に及んだ相手女性が『慰謝料』を請求される憂き目をみることはないように思われます」
と濵門弁護士は話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えている。依頼者の「義」にお応えしたい。
事務所名:東京新生法律事務所
事務所URL:http://www.hamakado-law.jp/