2016年03月24日 18:11 リアルサウンド
『あさが来た』の友近など、ドラマや映画に女芸人が起用されるケースが最近多く見られる。なぜ女優ではなく芸人なのか?というところだが、お笑いというのは一種の“芝居”でもある。役割を演じる、間をとる、空気を読むといった演技の場で必要不可欠な要素を、芸人としての仕事の中で常に実践しており、なおかつ役柄に滑稽さを加えたり、愛嬌あふれるキャラを作り上げたりすることもできる彼女たちは、ドラマや映画に笑いを加える緩和剤として最適だといえるだろう。
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現在、放映中の連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)で主人公・あさやその亭主の新次郎らが活躍する中で、一歩下がりつつ光る演技をみせているのが、あさのお付きのうめを演じる友近だ。奉公人として加野屋に仕え、大番頭の雁助に密かな想いを寄せながらも、自分の立場をよくわきまえてでしゃばらず、仕事人としてのプロ意識の高さと気高さが感じさせるうめ。友近は、得意のコントで見せるテンションの高さや濃いキャラクターとはうってかわった抑えた演技で、うめの責任感の強さや想い人への微細な心情を見事に表現している。
また、先日最終回を迎えたドラマ『家族ノカタチ』(TBS系)で、ヒロイン・上野樹里の同僚を演じているのがピン芸人の柳原可奈子。ドラマで彼女が演じる山根さとりは、結婚願望が強くパワーストーンやヨガに関心があるいわゆる“意識高い系”OLだが、この役柄は、まさに柳原可奈子がコントでよく演じてみせる、女子力磨きに抜かりなく意識も高いが、その姿がどこか滑稽…というキャラだ。柳原可奈子の本領発揮といえる役柄で、このドラマのスパイスとして活躍していた。
友近同様、朝ドラで光る演技を見せた女芸人といえば、ハリセンボンの近藤春菜も忘れてはならない。2014年放映の連続テレビ小説『花子とアン』(NHK)では、吉高由里子演じる主人公・安東はなの女学校の先輩・白鳥かをる子を演じたが、女学校の風紀を守るために目を光らせ、「安東はなさん」と何かにつけてはなに釘を刺すかをる子のコミカルな演技は、まさにドラマにおいて絶妙な緩和剤となっていた。当時はネットでも、「スピンオフはかをる子さんで」といった声が上がるなど、かをる子は、出番は決して多くないにもかかわらず非常に愛されたキャラクターだった。
友近、柳原可奈子、近藤春菜ら、いずれも味のある脇役としてドラマで活躍する女芸人たちの共通点は、ドラマに出たとき、自分の持ち回りをよく理解して、過度に芸人らしさを出さず、作品を盛り上げていることだ。ドラマでの彼女たちは、光ってはいるものの、その姿はバラエティで見せる面白さ全開のものではない。柳原可奈子などは、持ちネタでよくやるタイプの女性を演じつつも、過度に笑いをとるキャラになりすぎないよう、絶妙のさじ加減で演じきっているのが非常に見事だ。
この、面白さをあえて「抑える」というのもまた、お笑いの世界で彼女たちが培ってきた力があってこそなのだろう。お笑いの世界を生き抜くためには、面白さやパワーだけでなく、自分の芸や舞台での立ち位置、コントでの役柄などをシビアに見つめる冷静さ、観察力が必要だ。
友近と柳原可奈子は、ともに人間観察をもとにしたコントを得意とする芸人であり、いずれもネタを見たとき「いるいるこういう人」「よく見ているなあ」と見る側を唸らせることが多く、その抜かりない観察力をドラマの役作りにも活かしていると感じさせる。また、近藤春菜は、ハリセンボンとして、M-1グランプリ決勝に出た際、審査員の上沼恵美子から「品がある」と評価されたように、体当たりで芸やギャグをしても決して下品にならず、見る側を不快にさせないギリギリのポイントを非常によくわかっている女芸人であり、ドラマにおいてもコミカルさを絶妙なバランスでキャラクターに加えて、結果、人気を集めたといえるだろう。
芸の世界で磨いたスキルを演技の世界でも花開かせ、俳優、女優たちとは別の意味で、需要がある女芸人たち。友近などは、『あさが来た』での仕事を機に、ますます女優の仕事が増えていくのではないだろうか。また、つい最近、実写ドラマ『天才バカボン』(日本テレビ系)でバカボン役を演じたおかずクラブのオカリナのように、ベテラン勢だけでなく若手注目株芸人のドラマ進出にも、これから期待したいところである。(田下愛)