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いきものがかりと大滝詠一の新アルバムから、JPOPと歌謡曲の“洋楽アプローチ”を再考

2016年03月24日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

いきものがかり『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~(初回生産限定盤)(4CD)』

参考:2016年3月14日~201603月20日(2016年3月28日付)(ORICON STYLE)


 いきものがかりの10周年記念ベスト『超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~』が、初登場1位で136,808枚。2位とは11万枚の差をつけており、もう別格の強さです。


 みんなに愛されるいいメロディ。クセのない声で届く共感と共有の歌詞。心地よくてどこか懐かしいサウンド。大型タイアップや合唱曲まで引き受けつつ、壮大になりすぎず、いつも身近に感じられるキャラクターを保っている国民的存在。売り上げを見れば覇者はEXILEや嵐かもしれないけど、「とにかく日本国民に届いた、ともに歌われた曲」という意味では、いきものがかりこそが現在J-POPの頂点にいるのだと感じます。


 はぁ? と思った人は、きっとコアな音楽ファンを自認するタイプでしょう。老若男女に届くポップミュージックである反面、音楽にこだわりを持つリスナーからはスルーされる。そんな彼らのスタンスは以前から指摘されていたし、今もさほど変わっていないようで。当人たちも堂々としたもので、「ヒットしている邦楽を当たり前に聴いてきた」「ちょっと洋楽に走ろうとして、ダメだこりゃって帰って来た」「尖ったバンドを探してる若い子とか洋楽好きの人とかは、こっち向いてくれないと思う」などと語っています(2008年/ナタリーのインタビューより)。読んだ時には、なるほどこの感覚こそが今のJ-POPなのかと眼から鱗が落ちたものです。


 J-POPという言葉が生まれた時、それは歌謡曲のようにベタついたものではない、もっと新しくスタイリッシュなものだ、といった認識(または幻想)があったように思います。実際、初期J-POPの代表的存在である小室哲哉は最新鋭の洋楽的ビートを日本人的好みの世界に持ち込んだひとりでしょう。確かに革新的。でも、昔からそれをやっていた人も歌謡曲の世界にいたわけです。


 俎上に載せたいのは、今週3位、大滝詠一の『DEBUT AGAIN』。今は亡き彼が、多くの歌手に提供してきた歌謡曲のセルフカバー。人知れず残されていたマスターテープの発見が今回のリリースに繋がりました。


 小林旭の「熱き心に」。小泉今日子の「怪盗ルビイ」。松田聖子の「風立ちぬ」。薬師丸ひろ子の「探偵物語」。さらには吉田美奈子に始まりラッツ・アンド・スターなど多くのアーティストが歌ってきた「夢で逢えたら」。すべては大滝詠一が残した名曲中の名曲です。もちろん「熱き心に」は演歌として売れたし、「風立ちぬ」はアイドル歌謡として愛されましたが、ここでのセルフカバーはどうでしょう。自分の声に合うようキィを変え、大胆にアレンジを変更し、一人多重録音のコーラスを加えた「大滝セルフ・バージョン」は、もうなんというか、とろけるアメリカン・ポップス黄金期の曲がそのまま日本語に訳されて響いているような刺激と感動。一部の歌謡曲とは、まさに洋楽と本気で格闘してきたマニアックな音楽家によって作り上げたもの。そんな事実を改めて突きつけられました。J-POPと、歌謡曲における、洋楽エッセンスの割合。そんなことを考えさせられる今週のチャートでした。(石井恵梨子)