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『僕だけがいない街』vs『ちはやふる』戦争勃発! 「ティーン向けコミック原作映画、春の陣」の勝者は?

2016年03月24日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

 今週末には『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』が世界(ほぼ)同時公開、今後も続々とスーパヒーロー作品の公開を控え、世界的にはアメコミ原作映画の当たり年となると期待されている2016年。一方、日本の興行シーンでは、ここ数年続いているティーン向けコミック原作映画が百花繚乱とも言うべき様相を見せている。


 先週末は藤原竜也主演の『僕だけがいない街』と広瀬すず主演の『ちはやふる -上の句-』が同日に公開。329スクリーンで公開された『僕だけがいない街』は土日2日間で動員16万9,500人、興収2億2,170万6,200円で初登場2位。298スクリーンで公開された『ちはやふる –上の句-』は動員14万6,299人、興収1億7,901万8,300円で初登場4位。とりあえずの軍配は『僕だけがいない街』に上がった。もっとも、『ちはやふる』は後編『ちはやふる –下の句-』の公開を4月29日に控えているので、前編だけで単純に数字を比較するのはフェアではないかもしれない。劇場での女性客の比率が少なかったという報告もある『ちはやふる』だが、作品自体の評価は高く(それがどれほど興収に結びつくかは疑わしいが)、前後編作品合わせての長期戦の粘りに期待したいところ。


 とはいえ、『僕だけがいない街』も『ちはやふる –上の句-』も、初登場の順位はともかく、初週の動員&興収の数字は少々物足りないと言わざるを得ない。以前に『orange-オレンジ-』の興行分析(参考:正月映画のダークホースとなった『orange –オレンジ-』、その強さの秘密)でも指摘したように、ティーン向けコミック原作映画の興行で最も重要なのは公開タイミング。今の日本の観客層には女性同士の観客、あるいはカップルの観客などを中心に一定の割合で優先的にコミック原作映画を見る層がいて、そこにハマるかどうかがヒットの鍵を握っている。昨年の秀作『バクマン』が予想されたほど弾けなかった理由の一つも、その2週前に公開された『ヒロイン失格』が思わぬ大ヒット&ロングヒットとなった、その煽りを受けたことにあった(参考:初登場1位の『バクマン。』、はたして『モテキ』超えなるか!?)。


 つまり、ここ数年でティーン向けコミック原作映画はそれなりのヒットを見込める「堅い」コンテンツへと成長したが、実はその観客層はまだかなり限定されていると見るべきだろう。そういう意味で、公開日が重なった『僕だけがいない街』と『ちはやふる –上の句-』は痛み分けとなったわけだ。また、特に女性同士の観客に関して言うなら、3週前に公開されて以来好調が続いていて先週末も8位にランクインしている『黒崎くんの言いなりになんてならない』に観客が奪われた影響も少なからずあるだろう。


 水面下で原作の権利の奪い合いが続いていて、今後も次から次へと企画されていくに違いないティーン向けコミック原作映画。しかし、ブームとなれば今回のように公開時期が重なるのも必然。映画ファンからは批判の対象にされやすいジャンルであるが、もはやその段階を通り過ぎて、かつて一世を風靡したテレビドラマ映画化作品に変わる「日本の実写映画の最前線」と化した今、「ティーン」以外の新たな観客層を掘り起こすようなエポックメイキングな作品の登場が待たれるところだ。(宇野維正)