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「シュヴァルツェスマーケン」吉宗鋼紀×内田弘樹対談(前編)―内田先生のゴリゴリの世界観が見たい

2016年03月23日 22:54  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

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『シュヴァルツェスマーケン』は、地球外起源種・BETAの侵攻により絶滅の危機に立たされている人類があらゆる兵器を駆使し戦っている東ドイツを舞台にする。テレビアニメ化もされ、2016年1月より好評放送中である。
作中で鍵となるのは、東ドイツ軍最強の部隊 “黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)”とあだ名される第666戦術機中隊である。彼らは強力なレーザー照射を行う光線級BETAに対抗すべく、戦術「光線級吶喊(レーザーヤークト)」を駆使し、これに対抗していた。

吉宗鋼紀氏の手によって、『マブラヴ』からはじまった一連の作品群は、一つの世界観からいくつもの物語を紡ぎだし、大きなうねりの中で生きる人々を描いている。『シュヴァルツェスマーケン』もそんなマブラヴ・ワールドに名を連ねる。原作小説を執筆したのは内田弘樹氏。
アニメのクライマックスを前に『マブラヴ』の生みの親でもある吉宗氏と小説『シュヴァルツェスマーケン』の著者・内田氏の対談が実現。二人の本作へかける思いなどを聞いた。
[取材・構成=細川洋平]

アニメ『シュヴァルツェスマーケン』オフィシャルサイト 
http://schwarzesmarken-anime.jp/
「シュヴァルツェスマーケン 1 (初回生産限定盤) [Blu-ray]」 2016年3月25日発売

■ さまざまなクリエイターが、作品の世界を広げる

―『シュヴァルツェスマーケン』の企画の立ち上がりの経緯をうかがえますか?

吉宗鋼紀(以下、吉宗) 
元々『マブラヴ』は、私たちが「世界観ビジネス」と呼んでいる『機動戦士ガンダム』や『スター・ウォーズ』のような一つの世界観をいろんなクリエイターが広げていく、いわゆる「シェアードワールド」のベースを作るために始めた企画でした。その第二弾『マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス(以下、TE)』ではアメリカを舞台にし、日本だけが特別ではない、世界各国のキャラやロボットが主人公たり得る土台を固めました。その次に欧州を舞台に、東西ドイツを中心に描こうと考えていました。

―どうしてドイツだったのでしょうか。

吉宗 
ドイツはその外連味や言葉の響きなど非常に厨二的で、一般からミリタリー系まで広いオタクにリーチする国で、『マブラヴ』世界の日本と色々な意味で対比ポジションにあります。歴史的にも二つの大戦のキーになり、冷戦下の東西分断を経ていて、当時、EUの中心になることが予見されていたため、欧州編の舞台には最適でした。西ドイツ軍が舞台の『DUTY -LOST ARCADIA-(※)』の展開は既に決まっていたので、東ドイツを描くなら内田先生しかいないなと。当時、架空戦記小説家だった内田先生に軍事面のアドバイスや設定本の短編小説をお願いしていたので。偶然なんですが、同時期に内田先生からも、ドイツを舞台にしたミリタリー学園企画の提案がありまして。
(※ 欧州連合軍にいる西ドイツの衛士たちを中心に描かれた物語)

―学園ものですか。

内田弘樹(以下、内田) 
最初はそうでしたね。『マブラヴ』の世界で、東西ドイツの共同の訓練校を舞台に展開していく物語を考えていました。東西ドイツの学生たちが集められた学園の明るい話からはじまって、厳しい戦いへ展開していくという感じでしたね。

吉宗 
とてもキャッチーな印象でしたが、『DUTY』と被る部分もあったので、「内田節ゴリゴリのリアルな東ドイツ戦が見たい」と口説いて、こちらで考えていた東ドイツ企画素案に乗っていただきました。政治や陰謀に翻弄される弱者という要素は『マブラヴ』の大きなテイストのひとつですので。

内田 
東ドイツは社会主義国家で厳しい世界ですが、彼らがBETAとの戦争に放り込まれたらどうなるんだろう、というところから話が膨らんでいきました。



■ 先達から受け取ったイマジネーションを次世代に渡す

―本作以前から内田先生はアージュ作品に関わられていましたが、「マブラヴ」シリーズに関わるきっかけは何だったのでしょうか。

内田 
何より『マブラヴ』がおもしろかったんですよね。それで僕の知り合いのアージュの社員の方にご紹介いただきました。

吉宗 
内田さんから作品の感想を直接聞くのは初めてですね。超うれしいです。

内田 
『マブラヴ』も『マブラヴ オルタネイティヴ(以下、オルタ)』も「これを伝えたい!」って拳を固めて殴りかかろうとする作品だったんです。当時のアドベンチャーゲーム系の美少女ゲームは複数のライターが書くことが多くて、遊んでいるうちにライターそれぞれの性格が見えてくるんですよ。だけど、『マブラヴ』は一本道で、一人の個性しか見えなかった。ロボットのデザインも、例えば『ガンダム』とか『トップをねらえ!』といった作品に敬意を表してるのが伝わってくるんです。それも含めておもしろいと思いました。

吉宗 
そこを分かっていただけるとうれしいです。先達から受け取ったイマジネーションに自分達のエッセンスを加えて次世代に渡すという連鎖は、クリエイティヴの使命ですよね。


―作中の時代設定ですが、『オルタ』一連の作品群が2000年以降を舞台にするのが多いのに対し、本作は1983年とかなりさかのぼります。これは先程の「世界観ビジネス」のアプローチなのでしょうか。

吉宗
東ドイツ企画が過去を舞台にするのは当初から決まっていました。その理由はまだ言えないんですけど(笑)。『マブラヴ』シリーズはそれぞれが独立した話でありながら、歴史を構成する1エピソードという概念です、とだけ言っておきます(笑)。

内田 
『オルタ』の世界では戦術機と呼ばれるロボットが出るのですが、『オルタ』や『TE』に出てくる戦術機は第2世代と第3世代が活躍します。戦術機は兵器ですから、世代を経る度性能が上がります。僕は第二次世界大戦の野暮ったく見える兵器が好きなので、第1世代を活躍させられるのは楽しかったですね。

―吉宗先生は本作の細かい筋立て作りなどにも関わられたのでしょうか。

吉宗 
いえ、企画の方向性や主要キャラなどを示してからは、世界観や設定との齟齬などの相談をされない限り基本的には関わらないように心掛けました。世界観展開をしていくコンテンツは、より多くのクリエイターの手を経ないと強度が増しません。『ガンダム』のコンテンツ強度は、様々なクリエイターの解釈が積み重なった結果です。なので『シュヴァルツェスマーケン』は、内田先生と担当の山崎彬(ixtl社員)にすべて任せました。

―アニメ化に当たってもですか?

吉宗 
同じです。アニメの打ち合わせも、方向性の確定や設定確認が必要な最初の数回以降は、基本は出ないと決めていました。そうしなければ内田先生と山崎が作り上げたコンテンツの純粋性が鈍ってしまうので。

―内田先生は出席されたのでしょうか。

内田 
シナリオ打ち合わせはスカイプで全部参加しました。美術設定の打ち合わせは、呼ばれた時だけ行きましたね。ただ口出しはほとんどしていないです。渡邊哲哉監督とシリーズ構成の樋口達人さんがまとめてくだっています。お二人はとにかく世界観の理解が早いし、意思疎通はうまくできたと思います。



『シュヴァルツェスマーケン』 1 BD初回生産限定盤
2016年3月25日発売

【初回特典】
シュヴァルツェスマーケンスペシャルトーク&ライブイベント イベント優先申し込み券
描き下ろし特殊パッケージ仕様、シュヴァルツェスマーケンビジュアルコレクション、第666戦術機中隊活動報告書、特典CD、他