2016年03月23日 11:42 弁護士ドットコム
夫婦ともに離婚しようと合意しているのに、親権が決まらずに離婚が成立できない。そんな時「親権」と「監護権」を分けることが検討されることもあるようです。
弁護士ドットコムの法律相談には「離婚する際、何もかも奪われるのは納得できないとのことで、親権と監護権をわけ、私が監護権をとりました」という投稿がありました。この女性によれば「裁判で争うより一刻も早く離れたかったのです」という理由でした。
しかし、「親権」と「監護権」を分けることにデメリットはないのでしょうか? 小野 智彦弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 親権と監護権をバラバラにするメリットは、あまりないです
お子さんがいる夫婦が離婚するときは、必ず親権争いになります。日本の法律では、離婚すると父と母のどちらかに親権者を決めなければならないからです。ところで、「親権」と「監護権」はどう違うのか、ご存知ですか?
親権は、お子さんの法律的な決定事項について承諾を与える権限をもっています。子どもが学校に入学する、何か大きな買い物をするといったときには、必ず親権者の承諾が必要です。
他方、監護権は、子どもと同居して、日常の世話やしつけ、教育などを行うというものです。
20年以上前は、調停や裁判で親権争いになると、折衷案として「親権は父、監護権は母」と分けることがありました。しかし、現在の裁判所は、親権と監護権は分けない方針で動いており、個人的にもそれが穏当だろうと思います。
母親は、子どもの監護さえできれば十分と考えがちです。しかし、親権がないと、進学する際などに、父親にいちいち承諾をもらう必要があります。父親に意地悪をされて承諾されず、トラブルになることも多々あります。親権と監護権をバラバラにすることには、このようなデメリットがあるのです。
親権と監護権は二つで一セットのように考えられており、バラバラになるのは例外的なケースです。2014年、福岡家裁が、合理的な理由もなく子どもに会わせない母親に対して、父親への親権変更を命じ、親権と監護権がバラバラになった珍しい事例がありました。
この事例では、父子が月1回の面会交流をすることを条件に、母親が親権と監護権を取得しました。その後、母親の言動が原因で子どもが面会を拒否しているとして、父親側は親権者の変更を福岡家裁に申し立てました。家裁は、「試行的面会交流」を実施し、その様子を観察した上で、面会を実施できない主な原因は母親にあると判断。親権を父親に変更するべきだと命じました(監護権は母親のまま)。
ご相談者のケースのように、妥協案として一方を親権者、もう一方を監護者にするというのは一つのやり方かもしれません。ただ、離婚後も信頼関係に基づいて、協力して子どもを育てられる場合でもない限り、両者を分けるメリットはあまりないと思います。
【取材協力弁護士】
小野 智彦(おの・ともひこ)弁護士
浜松市出身。1999年4月、弁護士登録。オフィスは銀座一丁目。手品、フルート演奏、手相鑑定、カメラ等と多趣味。手品の種明し訴訟原告代理人、ギミックコイン刑事裁判弁護人、雷句誠氏が漫画原稿の美術的価値を求めて小学館を提訴した事件などの代理人を務めた。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする。
事務所名:銀座ウィザード法律事務所
事務所URL:http://homepage2.nifty.com/tomo-ono/lawyer