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石橋凌が辿り着いた“Neo Retro Music”という境地 全国ツアー東京公演をレポート

2016年03月22日 18:42  リアルサウンド

リアルサウンド

石橋凌、全国ツアー『Neo Retro Music 2016』東京公演の様子。

 石橋凌の全国ツアー『Neo Retro Music 2016』が、3月17日に札幌CubeGarden公演で千秋楽を迎えた。そこで、3月6日に行われた東京・EX THEATER ROPPONGI公演でのレポートをお届けしたい。


 なぜいま石橋凌なのか? その答えはヴォーカル力の凄まじさ、自身による作詞曲のクリエイティヴ力と表現力の高さ、そして親しみやすいお茶の間感を大事にしながらも、世の中の動きとシンクロするメッセージ性の強さにある。


 ライブのオープニングはキーボードとバイオリンの3人編成によるアコースティック・セット「RESPECT THE NIGHT」からスタートした。石橋凌の頭上から降り注ぐライトが、時間が止まったような雰囲気を醸し出していたことが忘れられない。震災以降、これまでの日常にあった価値観に変化が起きたいま、期せずして本当に大切なことを教えてくれる1曲だ。震災から5年、石橋凌は多くは語らずに楽曲を通じてメッセージを届けてくれたのかもしれない。


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どんなに辛い夜でも 必ず朝日は昇るもの
両手の指の隙間から 月明かりがこぼれ落ちても
きっと・・・きっと・・・きっと
「RESPECT THE NIGHT」より
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 続いて歌われたのは、ARB時代の名曲「Just a 16」だ。リリース当時、社会問題に対して問題定義を生んだ楽曲と話題になったが、石橋凌は途中顔を覆うように心情を緊迫感を持って表現。アコーディオンとバイオリンによる、せつなくも美しいアレンジが共鳴しあい、心を揺さぶってくる。


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Just a 16 本当は俺は何も知らない
「Just a 16」より
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 バンドメンバーは、日本最強といっても過言ではない池畑潤二(Ds)、渡辺圭一(B)、藤井一彦(G)、伊東ミキオ(Key)、梅津和時(Sax)、そしてミニアルバム『Neo Retro Music』に参加した太田惠資(バイオリン)+ホーン隊というスペシャルな面子が、ロックやジャズ、ブルースを横断する芳醇なサウンドを生み出していく。


 中盤での「Rock'n Rose」に注目したい。ミニアルバム『Neo Retro Music』に収録された、映画のワンシーンのようにドラマティックな雰囲気を切り取ったナンバーだ。女性ジャーナリストが中東で亡くなられた問題に対して、石橋凌がストーリーテーラーに徹して歌う内容ながら、爆発寸前なテンションで展開されていく繊細なる感情の動きが、心悲しげなバイオリンと絡み合うことで表現されていく。レコーディングに参加したバイオリニストの太田惠資は、楽曲を聴いた瞬間にモチーフとなった事件に気がついたそうだ。石橋凌は、そんなニュースを風化したくないと考え、自分が伝えたいことを重ね合わせ、敬意を表して丁寧に表現している。


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異国の空に散った 一輪の赤いバラ
花びらは風に風に吹かれて 世界を巡る
「Rock'n Rose」より
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 今ツアーで心拍数が高まった瞬間が、“懐かしい曲を”と歌われた「ラ・ラの女」だ。ライブにおけるオーディエンスの心をひとつにまとめ熱狂を生み出したナンバー。ARB時代のポップな人気曲が数十年ぶりに、まるでタイムマシンに乗ったかのように目の前で繰り広げられた奇跡の瞬間。ざわめきは一瞬のうちに喜びへと変わった。これもまた音楽が持つチカラだ。


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1%の想いが もしもお前にあるなら 今すぐとんで会いにゆく
「ラ・ラの女」より
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 本編ラスト、自身を鼓舞するために2010年に書いたというソロの名曲バラード「我がプレッジ」が歌われた。こちらも期せずして、2011年に起きた震災で傷ついた人々を励ますことにもなった名曲だ。手を差し伸べすかのように魂をこめて熱唱する姿が忘れられない。


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ONE MORE TIME,ONE MORE CHANCE
もう一度誰かを愛そう
ONE MORE TIME,ONE MORE CHANCE
もう一度静かに祈ろう
「我がプレッジ」より
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 アンコールのMCで“自分にとって恩人がふたりいます”と語り出した石橋凌は、デビューのきっかけを作ってくれた福岡KBCラジオのディレクター岸川均、俳優のきっかけを作ってくれた松田優作の名を挙げ「縁のブルース」を披露した。続けて、自身が敬愛するカバー曲「What's a wonderful world」、「Route66」でオーディエンスをさらに盛り上げ魅了していく。


 3度目のアンコールで登場した石橋凌は“最近、国内がまたきな臭い匂いで強くなってきてます。みんなと一緒にこの歌を歌い続けていきたいと思います”と宣言して「ピカドンの詩」を熱演。全25曲、成熟を感じさせる大人なサウンドを繰り広げながらも、攻めまくった2時間半を超える熱いステージだった。


 石橋凌は、今年の7月20日に60歳を迎えるという。そこで、誕生日当日に“自分が尊敬する好きなミュージシャンと一緒に、魂が乱舞するカーニバルのような一夜にしたいと思っています”と、アニバーサリー・ライブ『石橋凌 Birthday Live SOULFUL CARNIVAL』をおこなうことを発表した。バンド時代からソロ活動を経て辿り着いたひとつのメモリアルなモメント。間違いなく本物を届けてくれる石橋凌の歌が、より多くのひとに伝わっていくことを願いたい。(ふくりゅう)