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松井玲奈は新世代コメディエンヌになれるのか? 清楚イメージ覆す“弾けた演技”を考察

2016年03月22日 13:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎』公式サイト

 元SKE48の松井玲奈が今、女優として目覚ましい活躍を見せている。『ニーチェ先生』(日本テレビ系)、『神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎』(TBS系)と深夜のコメディドラマに続けて出演。アイドル時代とは打って変わった弾けっぷりは、新しいコメディエンヌの誕生を予感させる。


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 松井玲奈と言えば、AKB48の姉妹グループの1つ、SKE48を松井珠理奈とともに創成期から支えてきた同グループを代表する1人。生徒会長のような清楚なルックスと、ファンを大事にする姿勢から人気が高く、SKE所属にも関わらずAKB48シングル選抜総選挙では何度も上位に入り、AKBグループの公式ライバルとして作られた乃木坂46の交換留学生にも選ばれるなど、信頼が厚い。


 そんな松井玲奈は、2015年の8月にグループから卒業することを発表している。ラジオ番組「AKB48のオールナイトニッポン」にて、「もともとSKEに入ったのは役者さんになりたかったから」と語り、卒業後は本格的に女優の道へと進むことを宣言した。もちろん、AKBグループで活躍したからといって、その後のキャリアが約束されているわけではない。グループの頂点に立った前田敦子や大島優子でさえ、映画で良い演技を見せてはいるが、AKB時代の人気を考えるともうワンステップほしいところ。役者の世界は同世代でもキャリアのある女優は多くいるうえ、元アイドルという肩書きが役柄を制限することもあるだろう。人とは違った何かがないと厳しい戦いを強いられる。しかし、そんな中でも松井玲奈は、自身の特性を活かしながら、女優としてのポジションを確立しようと奮闘している。


 まず、今年の1月から放送された『ニーチェ先生』。卒業後の連ドラ初出演となった本作での“壊れっぷり”は素晴らしかった。本ドラマは、『勇者ヨシヒコ』シリーズや映画『女子ーズ』など、真面目にくだらなすぎる作品を数多く手がける福田雄一が脚本・演出を手掛けている。深夜のコンビニを舞台としたシチュエーションコメディで、松井は僧侶を目指している主人公・バイト店員のニーチェ先生に恋をする常連客の看護士役。そのストーカーぶりは回を重ねるごとにエスカレートしていき、目を見開きトップギアでまくしたてるセリフ回し、心の声を絶叫し、酔っぱらってはぶっ倒れ、ゴミ箱をあさり、店の外から懐中電灯を顔の下に当ててじっと見つめるなど、奇行に近い演技を体当たりで演じている。店長の佐藤二朗をはじめ周りも風変わりなキャラクターしかいないドラマだが、その抜群の存在感は福田ワールドに完全に溶け込んでいた。SKE時代に出演したドラマ『マジすか学園』(テレビ東京)でも、相手を痛めつけては笑みを浮かべるゲキカラ役を演じ、その秘めたる狂気の片鱗をみせていた。そして、本作で披露した圧巻の怪演により、あの可憐だった松井からは想像もつかないコメディエンヌとしての才能を開花させた。


 現在放送中の『神奈川県厚木市 ランドリー茅ヶ崎』でも見事なコメディエンヌっぷりを発揮している。連ドラ初主演となるこの作品は、『荒川アンダーザブリッジ』や数多くの演劇を手がける飯塚健が監督・脚本を務め、共演には曲者俳優の滝藤賢一が名前を並べている。厚木市にある風変わりなコインランドリーを舞台としたシチュエーションコメディで、松井は髪を短くしてジャージ姿、OL生活に疲れてやってきたバイト店員役を演じている。放送前の記者会見で「4話のドラマなのですが、通常のドラマだと8話分位にあたるくらいセリフの量があり、それを覚えながらも会話劇に仕上げなければいけないのが大変でした」と語るように、時にはハイテンションに、時には冷めたく、変わり者のオーナーや一癖のある客たちとの掛け合いを披露しており、まるで舞台演劇を見ているようで痛快だ。第1話では、お笑いトリオ“東京03”の角田晃広がゲスト出演したが、松井は芸人にも引けを取らないほどの勢いだった。


 世間的には『フラジャイル』での演技が賛否両論あるようだが、ゴールデンタイムのある程度、方向性が定められた作品にキャスティングされるより、『ニーチェ先生』や『ランドリー茅ヶ崎』のような独自のセンスを持つ脚本家のもとでキャリアを積んでいく方が、彼女には合っているのかもしれない。過去、清楚なイメージが強かった桐谷美玲が、『荒川アンダーザブリッジ』や『女子ーズ』の出演を経て女優としての幅を広げたように、同じく優等生キャラを持つ松井もアクの強い作品と出会うことで飛躍していくのではないだろうか。


 6月には、若手女優の登竜門的作品『新・幕末純情伝』への出演が決まっており、過去に広末涼子や石原さとみ、桐谷美鈴らが演じた沖田総司役を演じる。本作は、「沖田総司は女だった」という、つかこうへい作の奇想天外な幕末時代劇コメディだが、小さい頃から男として育てられたという難しい設定上、コメディ演技以外に求められるものも多い。卒業後に培ったキャリアだけではなく、女優としての地力が問われる作品なだけに、松井にとって大きなステップになるだろう。(本 手)