2016年03月22日 07:01 リアルサウンド
欅坂46のデビュー直前イベント『欅坂46生中継!デビューカウントダウンライブ!!』が3月17日、東京国際フォーラム・ホールAで開催された。4月6日のCDデビューを前にしたこのライブイベントは、デビューシングル『サイレントマジョリティー』収録楽曲をすべてパフォーマンスする機会になった。いわばこのグループの旗印を示す一歩目となるこのイベントで、欅坂46は早くも明確なカラーを手にしつつあることを見せつけた。
前日16日にMVが公開されていたシングル表題曲「サイレントマジョリティー」でライブは幕を開ける。欅坂46のコンテンツ第一弾として、画一的に馴らされた社会のイメージとそれを破ろうとする個々の自我との対照が描かれたこの楽曲の緊張感は、ライブでパフォーマンスされることで、より立体的になる。その肝は、この曲の振付を担当したTAKAHIROによって展開される振りとフォーメーションだ。20人のメンバーが統制された印象をあえて打ち出す振付は、サビ直前で円を描いて走り出す瞬間から、楽曲の展開に呼応してそれぞれの自我の胎動を示すように表情を変える。冷たく整然とした時間とそれを打ち破る時間とのドラマティックな対照が、同曲をデビュー作としてこれ以上ないほどに鮮やかなものにしている。
「サイレントマジョリティー」に代表されるドラマティックな展開の振付は、これから欅坂46を捉える上で大きな鍵になる。MCとプロフィール紹介を挟んで披露されたこの日の二曲目「キミガイナイ」でも、その特徴はさらに発揮された。メンバーが列を組んでステージ上手から中央へ歩き出し、水平に横たわる渡辺梨加が担われて運ばれてくる場面から始まる同曲は、葬送のモチーフを思わせつつ同時に寝室でのひと時ともとれる、印象的なその冒頭が静かに視覚的なインパクトを見せる。この「キミガイナイ」は、「サイレントマジョリティー」に比べればずっとミクロで私的な関係を歌っている。けれども、この曲でも振付を中心にして、楽曲の世界を視覚面で強く描こうとする方針は一貫していた。この日のライブイベント終盤に挿し込まれたストイックなダンスパートも含め、演劇性の高さを強調したダンスパフォーマンスの連続は、欅坂46がデビューにあたってはっきりとコンセプトを固めてきたことを物語っている。
それらの楽曲がグループのメインカラーを示す一方で、中盤に披露されたユニットやソロ楽曲ではレパートリーの広さをうかがわせた。表題曲でデビューにしてすでに圧倒的なエースとしての風格を見せる平手友梨奈は、ソロ曲「山手線」ではクラシカルなソロアイドルの佇まいを思わせる凛々しいパフォーマンスを披露、また今泉佑唯と小林由依のギターデュオ「ゆいちゃんず」による「渋谷川」はフォークソング調で、シリアスなトーンが目立つ楽曲群に緩急をつけてみせる。また、現状唯一の「けやき坂46(ひらがなけやき)」メンバー・長濱ねるを中心に据えたユニット曲「乗り遅れたバス」では、グループの中で変則的な立場にいる長濱の境遇をストレートに反映させた詞をあて、これから始動する「けやき坂46」への物語作りをしてみせた。1stシングル『サイレントマジョリティー』の各盤に収録されるこれらユニット・ソロ曲が、メンバー全員による楽曲で見せるコンセプトとは色の違う、グループの幅を示している。
ライブ本編ラストは、メンバー全員によるダンスパートのフィニッシュの配置からそのまま始まる楽曲「手を繋いで帰ろうか」で締めくくられた。ここまで披露されてきた楽曲に比べると明るいタッチの同曲は、今後大会場でワンマンライブが行なわれる際などにも終盤の盛り上げを担うことが予想できるものだ。ただし、やはりこの曲もそれだけではない。菅井友香と守屋茜の二人を主人公に仕立てた同曲は、二人のストーリーが進行する瞬間には、他のメンバーは物語を補助するコロスのような役割を与えられ、あるいはまた要所でメンバー全員がふた手に分かれて対抗するようなフォーメーションをとる、演劇的な振り幅の広い作品になっている。「サイレントマジョリティー」「キミガイナイ」で展開されるドラマティックな振付がここで再び持ちだされ、グループの方針を今一度強調してみせた。また、これらのパフォーマンスは、楽曲ごとに「主人公」を務めるメンバーを自然に置き換えることのできる、グループとしての柔軟さも垣間見せる。表題曲「サイレントマジョリティー」で群を抜いたエースの佇まいを感じさせる平手友梨奈が当面の主軸になることは、おそらく間違いない。けれども、「キミガイナイ」の渡辺梨加、「手を繋いで帰ろうか」の菅井友香と守屋茜といったように、シングルごとの「センター」とはまた別の水準で、それぞれの楽曲における「主人公」を演じるメンバーは様々に変わりうる。このライブイベントで早くも見せたグループの明確なカラーの中には、そんなしなやかさも感じさせた。
絶対的なエースとしての平手をセンターに戴きながら、トータルのコンセプトとしての演劇性の高さや視覚的な世界観の作り込みを強く打ち出し、それに応じて楽曲ごとに主役となるメンバーの配置も自然に変化させる。欅坂46はデビュー直前イベントの段階で、グループの指針を確かに持っている。デビュー以降、キャリアを重ねてメンバー個々のパフォーマンスにより隙がなくなってくれば、見せる世界はさらに奥深くなるはずだ。それに向かう第一歩としてこの日、欅坂46は周到なスタートを切ったといえるだろう。(香月孝史)