2016年03月20日 12:22 弁護士ドットコム
外国に荷物を送ると高額な輸送費がかかる。それなら、海外に向かう旅行者に一緒に運んでもらえないか。そんな希望を叶えるマッチングサービス「Cargo2share」が話題になっている。
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サービスの仕組みはこうだ。荷物を送りたい人は、「Cargo2share」のウェブサイトから旅行者を検索してメールか電話で連絡し、荷物を預ける。旅行者は、預かった荷物とともに飛行機に搭乗して送り先に飛び、受取人に手渡しする。配送業者に頼むより低いコストで荷物を送ることができるうえ、手で運ぶため安全であるなどのメリットがあるという。便利で画期的なサービスに思えるが、薬物の運搬など、犯罪に利用される可能性が懸念されている。
日本にいる人が外国に住む人に荷物を送りたい場合、あるいは、逆に、外国にいる人が日本に住む人に荷物を送りたい場合に、「Cargo2share」のようなサービスを利用しても法的に問題ないのだろうか。入管法・関税法・検疫法などの出入国関連法制に詳しい山脇康嗣弁護士に聞いた。
こうした荷物配送マッチングサービスは、一見すると便利に思えるかもしれません。しかし、安易に利用すると、旅行者に荷物を運んでもらった人も、頼まれて荷物を運んだ旅行者も、日本の法律や外国の法律に違反して、取り返しのつかない事態になるリスクがあります。
特に、テロリストや反社会的集団に利用されて、違法物品の「運び屋」となってしまった旅行者は、最悪の場合、死刑になる可能性もあります。どのようなリスクがあるかを理解するためには、各国の税関(通関)・出入国・検疫手続に関する法律の基本的な仕組みを知っておく必要があります。
そうした法律は、まさに「自己責任」を徹底しています。つまり、自らが所持している物品の内容や用途を正確に把握していることを前提に、規制を行っています。荷物配送マッチングサービスだと、そうした手続を受けなければならない旅行者自身が、荷物の内容や用途を必ずしも正確に把握しているとはかぎらないことが最大の問題です。
以下、場面を分けて説明します。
まず、他人から荷物を託された旅行者が、日本から出国する場合を考えてみます。不正薬物や児童ポルノ、偽ブランド品など知的財産を侵害する物品の輸出は、関税法で禁じられています。そのほか、一定の植物や加工品を含む動物、銃砲、超高性能パソコンなど、輸出が規制されている物品が多くあります。
当然ながら、これらの規制に反すると罰せられます。また、出国時に携帯する現金、小切手、有価証券、地金が一定額・一定量を超える場合は、「支払手段等の携帯輸出・輸入申告書」を税関に提出しなければなりません(日本への入国時も同様です)。
申告しない場合、申告しないで輸出しようとして税関に発見された場合、虚偽の申告を行って輸出した場合は、いずれも関税法違反として5年以下の懲役などが科せられます。荷物の内容がわからないと、これらの法律に違反してしまう可能性が高いのは明らかです。
次に、他人から荷物を託された旅行者が日本に入国する場合を考えてみます。不正薬物や銃砲類、爆発物、化学兵器原材料、病原体、貨幣等の偽造品、わいせつ物、児童ポルノ、偽ブランド品などの輸入は、関税法で禁じられています。そのほか各種の法律で輸入が禁止されている物品が多くあります。
また、ワシントン条約に基づき、加工品や製品を含む動植物の多くが輸入規制の対象となっていますし、個人用を除く食品、植物、一定量を超える医薬品・化粧品なども、輸入が規制されています。さらに、免税範囲を超える携帯品については、関税、消費税、酒税、たばこ税などの税金を納付しなければなりません。
携帯品が個人的な使用のためでない場合は、免税の対象とならず課税されます。日本の税関では、以前は、免税範囲を超えている人と、別送品のある人以外は、口頭での申告手続でした。しかし、現在では、テロ防止や国際犯罪組織による密輸阻止の観点から、日本に入国する全ての人に、「携帯品・別送品申告書」の提出が義務付けられています。
この「携帯品・別送品申告書」のA面には「他人から預かったものを持っていますか」という質問があり、これに「はい」とチェックした場合には、B面で「入国時に携帯して持ち込むもの」の一覧を記入する必要があります。荷物の内容がわからないと正しく記入できないことになりますが、偽りの申告や重大な過失による申告漏れがあると、関税法違反として5年以下の懲役などが科せられます。
また、偽りその他不正の行為により関税を免れた場合も、10年以下の懲役などが科せられます。荷物の内容がわからないと、これらの法律に違反してしまう可能性が高いのは明らかです。そのほか、外国人の場合は、不正薬物や銃砲刀剣類を所持していると、入管法によって、日本への上陸が許可されません。その後も1年間、上陸を拒否されます。
いわゆる観光ビザといわれる「短期滞在」の在留資格しかもっていない外国人旅行者は、バイトが認められていません。したがって、日本で荷物を代わりに届けることに対して報酬をもらった場合は、資格外活動罪として入管法により罰せられます。そのほか、外国人は、旅行者以外でも在留資格によっては、こうしたバイトは認められません。
このように、日本から出国する場合も、日本に入国する場合も、多くの法規制があります。それに対する違反が絶対に生じないようなかたちでの荷物配送マッチングサービスの運営や利用は、困難です。法規制に違反した場合は、荷物を代わりに運んだ人のほか、頼んだ人も、共犯として処罰される可能性があります。
しかし、本当に恐ろしいのは、だまされて不正薬物の「運び屋」になってしまい、外国で逮捕される場合です。外国にも、先に説明した日本とほぼ同様の法規制がありますが、不正薬物に対する刑が格段に重い国が多数あります。たとえば、中国、マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポール、台湾、バングラデシュ、スリランカ、エジプト、サウジアラビアなどでは、死刑判決が下される可能性があります。異国の地で十分な弁護活動を受けられないおそれも大いにあります。
さらに、違法な物品ではなかったとしても、荷物が途中で紛失した場合などに、利用者間でトラブルになる可能性があります。互いの身元がはっきりしていなかったり、外国に住んでいる人だったりすると解決は非常に困難です。
このようなサービスは、悪意で利用する者が必ずいるという前提で、システムを構築する必要があります。「Cargo2share」についても、そうした面への配慮が十分であるかどうかを十分に見極める必要があると思います。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山脇 康嗣(やまわき・こうじ)弁護士
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法・国籍法・関税法・検疫法などの出入国関連法制のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」、「新ナニワ金融道」、「極悪がんぼ」、「鉄道捜査官シリーズ」、「びったれ!!!」、「SAKURA~事件を聞く女~」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。
事務所名:さくら共同法律事務所
事務所URL:http://www.sakuralaw.gr.jp/profile/yamawaki/index.htm