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女性セラピスト「施術中」に男性客が「痴漢」・・・セラピストは慰謝料請求できるか?

2016年03月20日 11:02  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

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エステやスパで施術する女性セラピストから、「客に痴漢行為」をうけたーー。そんな相談が弁護士ドットコムの法律相談に寄せられた。その女性は、リラクゼーションエステの店やホテルのスパで働いているそうだが、「男性客による痴漢行為があり、胸をさわる、鼠蹊部(そけいぶ)のマッサージをお断りしても執拗に迫られる」という出来事があったという。


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他のウェブサイトでも「オーナーから、『多少のセクハラやおさわりにはコミュニケーションだと思って、軽く流してね』と言われている」「『どこか特に凝っているようなことはないですか?』『股間が凝ってます』と言ったようなセクハラジョークはごく普通です」などといった、セラピストの仕事にまつわる「性的なトラブル」の実情が投稿されている。



客から「触られる」「性的に不快な発言をされる」といったセクハラを受けた場合、どんな対応ができるのだろうか。寒竹里江(かんちく・りえ)弁護士に解説してもらった。



●「痴漢行為に対して、慰謝料請求できる」


「客の身体に接触するマッサージやセラピーの施術者・セラピストであっても、あらかじめ施術内容やサービス内容に含まれていない性的サービスや、施述内容と関係ない客の側からの身体接触については、断ることができるのが当然です。また、客の痴漢行為に対しては、これを断り、行われた痴漢行為に対し、抗議や慰謝料請求することもできます。



客が故意に施術者・セラピストの胸や臀部など性的な意味合いを有する身体部分に接触する行為は、刑法上の暴行や強制わいせつ行為に当たる場合がありますし、民事上の不法行為にも該当します。



ただし、いわゆる『電車内での痴漢行為』とは異なり、他に人がいない密室で行われた行為の場合、一般に『迷惑防止条例』と呼ばれる条例(例えば、東京都なら『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』)違反に問うのは難しいと考えられます。



迷惑防止条例では、痴漢行為を『公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること』(『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』5条1項)と定めています。他に人目のない『密室』の場合には、『公共の場所又は公共の乗物』には該当しないと解されるからです。



とはいえ、『迷惑防止条例違反』でなくとも、故意に胸や臀部に触る痴漢行為について、民事の不法行為責任を問い得るのは当然です」



●セラピストを守るためには?


「ただし『密室における痴漢行為』の場合、その事実を立証するには困難が伴う場合が多いので、目撃証言・録音・録画等、可能な範囲で証拠を保全することが求められます。



その上で、法的な責任追及の可能性とは別に、このような証拠の保全が可能かどうか。また客に対して慰謝料請求を行えるかどうかは、店側と客の関係等の『現場の力関係』による場合が多いでしょう。そこで、現実には、抗議や慰謝料請求が難しい場合も考えられます。



そのような場合に備え、スパやエステの経営者は、施術者やセラピストを守るために、『施術者・セラピストへの故意の身体接触行為はお断りしております』とか『痴漢行為があった場合は、施術を中止し、場合によっては慰謝料請求の対象とさせて頂きます』などの警告を、客に発しておく必要があるかもしれません」



●言葉によるセクハラへの対応は?


「客が施術者・セラピストに対し、『鼠蹊部のマッサージを求め』たり『股間を触って』と言葉で求める場合、ただちに『セクシャル・ハラスメントとして慰謝料を請求できるか?』については、微妙な部分があります。



もちろん、リラックスする場であっても、客が、施術者やセラピストの女性に性的サービスを求めたり、女性を侮辱するような要求や発言は控えるべきです。とは言え、礼儀正しく品行方正な客ばかりではないでしょうから、少々の発言は『冗談』として聞き流さなければならない場合はあるでしょう。



しかし、客が店側や施術者・セラピストが弱い立場にいることにつけ込んで、執拗に性的サービスを要求したり、執拗にセクハラ的言辞で施術者・セラピストを侮辱し、嫌がらせをするような場合には、当然ながら、施術を中止し、抗議や慰謝料・損害賠償の対象とできる場合もあります。



『言葉によるセクシャル・ハラスメント』の場合、言葉の内容とシチュエーション、被害者の精神状態等により、被害の程度も異なりますが、社会通念上一般的に見て、『当該女性の受忍限度を超えるセクハラ的言動』に対しては、民事上の不法行為責任を問い、慰謝料・損害賠償請求が可能となると考えられます。



ただし、損害賠償を請求できるかどうかが『証拠保全の有無』や『店側と客との関係等現場の力関係』に左右され得る点は、前述した『痴漢行為』への対応と同様です」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
寒竹 里江(かんちく・りえ)弁護士
東京弁護士会所属 労働事件(セクハラ・パワハラ等の問題や不当解雇等含む)・医療事件・企業法務(人事・雇用問題等)、その他、多方面の案件を手がけています。
事務所名:弥生共同法律事務所
事務所URL:http://www.yayoilaw.jp/